昨年「アクト・オブ・キリング」と並んで高い評価を受けていたドキュメンタリー。

メキシコの麻薬戦争と、メキシコおよびアメリカのヒスパニックのあいだで人気が出ている音楽ムーブメント「ナルココリード(麻薬バラード)」を取り上げたもので、テキサスのエル・パソに隣接しているメキシコのフアレスは麻薬戦争の影響によって殺人の件数が10倍に跳ね上がり、年間3000人近い犠牲者が出るようになってしまっていた。その一方で金と権力を手にした麻薬王たちは若者たちの憧れの的となり、彼らのライフスタイルを賛美した歌が作られ、それが大衆のあいだで人気を博していくことになる。

このドキュメンタリーではフアレス警察で科学捜査を行なうリチ・ソトと、ロサンゼルスでナルココリードの歌手として大成しようとするエドガー・クインテロという2人の男性の日常が交互に描かれている。ソトのほうは毎日のように血なまぐさい殺人事件の現場に呼び出され、麻薬カルテルの報復を避けるために覆面をして捜査をする次第。それでも何人かの同僚は暗殺されており、警察もまたカルテルの金によって汚職がはびこっていることが示唆される(刑務所に銃持った連中が普通に入り込んだりしてるんだぜ)。

一方のクインテロは実在のチンピラを誉め称えるバラードを歌って、そのチンピラから金をもらったりしてるわけだが、この「権力者を褒めてご褒美をもらう」システムって意外なくらいに中世的な音楽ビジネスだよね。しかしナルココリードの人気は実際すごいらしく、クインテロはバンドを結成してそれなりに大きな会場をまわるツアーを行なうことになる。しかしこのナルココリード、音楽のスタイルはアコーディオンを多用したポルカなのでかなり牧歌的に聞こえてしまって、バズーカの模型を抱えて「俺はAK47をぶっ放し〜」とか歌ってる格好と全然合ってない気がするんだが、それでもライブに集まった老若男女の客は歌詞を憶えていて大合唱になったりするのな。なお劇中でソトとクインテロの生活が交差するようなことはないのだが、平和を求めてソトがエル・パソへの移住を望んでいるのに対し、歌のネタをネットで得ているクインテロが「俺もメキシコ行きて〜」と語るのが何とも皮肉であった。

このドキュメンタリーを観るまで、ナルココリード文化についてはまったく知らなかったのだけど、いわゆるアウトローが美化され、銃や麻薬について歌われ、そのスターがVシネ並みの安っぽいアクション映画に出演し、特定のマイノリティから強い支持を受けてるさまは80年代のギャングスタ・ラップの興隆によく似ているような。実際に歌手が襲撃されて殺される事件も起きているようだし。またメキシコではいろいろ放送禁止の扱いを受けているらしい。

特に明確な結末があるわけでもなく、ドキュメンタリーとしては弱冠詰めが甘いような気もしたけど、自分の知らなかった文化について学べるという意味では興味深い作品でした。なおナルココリードで賛美の対象となっている麻薬王のホアキン・グスマンがこないだ逮捕されたらしいが、それってナルココリードにどう影響してくるのかな?いずれ続編が作られることに期待。

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