「her/世界でひとつの彼女」鑑賞


スパイク・ジョーンズの新作。

舞台は近未来のロサンゼルス。恋人や家族への手紙のメールの代筆業をしているセオドアは、別れた妻との離婚協議をズルズルと引き延ばしているような男性で、内気な性格のために新しい彼女を見つけることもままならない。そんなとき、ユーザー個人に進化して適応してくれるというコンピューターの新しいOSを見つけ、早速自宅のPCとスマートフォンにインストールする。音声で語りかけてくれるそのOSは自らをサマンサと名付け、セオドアのさまざまな世話を行なうようになる。そんなサマンサと気楽な会話を続けていたセオドアだが、やがて彼らは人種(?)の壁を越え、互いに愛し合う仲となる。しかしサマンサが進化を遂げていくにつれ、2人の仲は微妙な仲になっていき…というストーリー。

女声のOSと恋に落ちる男の物語、と聞くとキモがられるかもしれないが、そこらへんは比較的サラっと受け流されていて、拒否感を示す人もいる一方で普通に受け入れる人もいて、セオドア以外にもOSと親密な仲になる人たちも登場する。とはいえ真っ当なラブストーリーというわけでもなく、いろいろSF的な要素も絡んできていて、そこらへんのバランスが難しいところです。

かつてはMTV世代の奇妙キテレツな映画を作ってたイメージが強いスパイク・ジョーンズだけど、今作は男女の関係を真っ正面から描いている。人工知能との愛という点では傑作短編「アイム・ヒア」に通じるものがあるかな。アーケード・ファイアによるぽわーんとした音楽と絞りの浅い映像は「UPSTREAM COLOR」を連想しました。あと主人公がメッセージ書きをしていて、そのときの気分がメッセージに反映されるという演出は「500日のサマー」みたいだな。

セオドアを演じるのはホアキン・フェニックス。内気で不器用ながらも一途にサマンサを愛す主人公を熱演しています。あとはエイミー・アダムスやオリヴィア・ワイルドなどが出演していて、サマンサの声はスカーレット・ヨハンソンが担当している。そもそもはサマンサ・モートンが声をあてていて、ポスプロの時点になって急遽ヨハンソンに変更されたらしいけど、彼女のちょっとぶっきらぼうな奔放なサマンサの性格にうまくマッチしている。でもサマンサ・モートンのバージョンも聞いてみたいな。あと吹替が大変そうだなこれ。

非モテ男の物語としては共感できる部分が多かったのですが、科学的な設定がどうも気になって話にのめり込めなかったのも事実ではある。つうかユーザーに黙ってメールを送ったり、スネて返事してくれないOSというのはものすごくヤバい存在だと思うのだが。NSAのバックドアなんてもんじゃねーぞ。まあそういうところには目をつぶって鑑賞しましょう。

なお高層ビルが乱立し、皆がウエストの高いズボンを履いている未来のロサンゼルスの外観は、すべて上海で撮影されている。中国資本が入っているというのもあるけど、かつて1972年の「惑星ソラリス」のころは東京の外観が未来都市だったのに、今では上海がフューチャリスティックなものになってしまったんだなあ。しかしバーチャルな相手との恋愛というのは日本人のお家芸であるはずなので、OS付き抱き枕との恋愛を描いたリメークを日本でも希望!

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