「A Sailor’s Story」読了

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DCコミックスやデルなど戦争ものやウェスタンのコミックを描いていたサム・グランズマンが、第二次大戦における自分の従軍の経験を綴ったコミック。元々は1987年と89年にマーベルから出版された2冊を合本して、ドーバー社が昨年出版したもの。

真珠湾攻撃から1年後の1942年の末、18歳になったばかりのグランズマンは海軍への従軍を希望し、駆逐艦USSスティーブンスへと配属される。狭い船のなかに乗組員の男たちがひしめくなか、スティーブンスはパナマ運河を渡りハワイへ抜け、さらにサイパンなどに配属され、グランズマンは様々な出来事を経験して一人前の海の男へと成長していく。

内容は日本軍との戦闘よりも駆逐艦の日常生活に多くのページが割かれているが、こないだ他界した水木しげる同様に、兵士たちのおかしな日常というのは実際に経験した人じゃないと描けないですね。赤道を通過する際の儀式とか、船を脱走して中国の娼館に行った話とか、艦の中は暑苦しいので甲板の上で寝ようとした話とか、我々には想像もできないような話が次々と語られていく。またスティーブンスの内部や武装についても詳しく説明がされており、ミリタリーマニアの人にはたまらない内容になってるんじゃないでしょうか。
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しかし日本軍と違うなあと思うのは、艦の食事は常に新鮮で大量にあり、コーヒーは飲み放題。空母にはアイスクリーム製造機があるのに駆逐艦にはないと愚痴をこぼせるほどの贅沢さ。当時のグランズマンはキザっぽくポニーテールを結わえ、自ら機関士への異動を志願したにもかかわらず、想像とは異なる職場であることを察した彼は、毎日のように上司の目を逃れて仕事をサボり、しまいにはまんまと別の部署へと異動してしまう。これ日本軍だったら上司にリンチされて半殺しの目に遭っていたのではないか。

こういう楽しげな日常生活が描かれる一方で、戦争の惨禍についてもきちんと説明がされており、船員の何人かはPTSDを発症してある者は頭がおかしくなり、ある者は何もせずにただ甲板に座りつくしている。また戦争の後期になると日本軍が神風特攻を行うようになり、噴煙をあげて戦闘機が艦に突っ込んでくるさまが驚異とともに描かれていた。
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スティーブンスはミッドウェイや沖縄でも激戦地からは離れていたようだし、グランズマンも機関室にいたはずなのでどこまで戦闘を実際に目撃してたのかはよくわからないけど、大空を舞う日本の戦闘機を彼は龍にたとえ、日本人兵士をちゃんと敬意をもって描いている。また戦争によって破壊されつくしたマニラや、サイパンの集団自決によって海に浮かぶ死体などについても描写がされていた。
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グランズマンはいま91歳だがまだ存命で、第二次大戦の物語はここに収録されたものの他に数多くの作品を描いている。たしか神風パイロットについて詳しく扱った作品もあったはず。この本の評判がよければドーバー社はさらなる再販を企画しているらしいので、彼の作品がより多くの人の目に触れることに期待します。