「Doomed: The Untold Story of Roger Corman’s the Fantastic Four」鑑賞

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劇場公開どころかビデオ発売もされておらず、流出した低画質の海賊版しか出回っていないのに根強い人気を誇る、ロジャー・コーマン製作の「ファンタスティック・フォー」(1994)の裏側に迫るドキュメンタリー。この映画の詳しい感想については以前に述べたのでこちらを参照してください。

1992年の9月頃にドイツのニュー・コンスタンティン・フィルムのプロデューサーからコーマンに「ファンタスティック・フォー」の劇場版を100万ドルの低予算で製作する話が持ち掛けられ、コーマンがコストを折半する形で製作に合意したことから話は始まる。どうもトロマ(!)のロイド・カウフマンのところにも話が持ち掛けられていたことをカウフマン本人が明かしているのだが、さすがにFFという有名フランチャイズを低予算で映画化はできないということで手を引いていたらしい。

年末までに撮影をしなければならないということで急ピッチで製作が進められ、脚本が書かれてキャスティングが行われていく。このときオーディションを受けた俳優のなかにはマーク・ラファロもいたらしくて、これに起用されてたらのちにハルクを演じることは無かっただろうなあ。スタッフのなかにはスタン・リーとジャック・カービーのコミックを読んで育った人たちもいて、低予算ながら彼らのビジョンを映画化しようと頑張っていたのが涙ぐましい。なお映画のオリジナルキャラクターである「ジュエラー」って、コミックのモールマンの映像化権が微妙だということでモールマンから変更されたキャラだったらしい。やはりそうだったか。

そして取り壊し寸前の安スタジオで撮影が行われ、安っぽいセットに皆が不安を抱きつつも、キャストは熱意を持ってファンタスティック・フォーの面々を演じていく。これ劇中でも言及されていて、今となっては想像もつかないだろうけど、90年代のマーベル映画って大変出来が悪かったんですよ。サリンジャーの息子が主演した「キャプテン・アメリカ」とか、ドルフ・ラングレンの「パニッシャー」とか。よって世間からもろくに期待されないなか、スタッフは苦労して撮影を仕上げるものの、撮影完了のパーティーなどはなし。出来たフィルムをポスプロにまわすわけだが、そこからだんだん雲行きが怪しくなっていく。

映画館では予告編が流されていたらしいが(そうなの?)、本編の公開日の話はスタッフにまったく降りてこず、FFの映画化だからビデオスルーでなくそれなりの館数で劇場公開されるだろうと踏んでいた人たちも不安になり、コーマンなどからもきちんとした説明はされず、やがてどこかの時点でこの映画は公開されないという事実が明らかになり、そして今に至るという結末。

ロジャー・コーマン本人へのインタビューが行なわれているものの、これはなぜ公開されなかったのか、そもそも企画時点で公開するつもりはあったのか、という質問に答えてないので曖昧な点は残る。当初噂されていた「コンスタンティン・フィルムがFFの権利を延長するために映画は作られた」という説も、公開中止が決まってから作られた言い訳ではないかと監督あたりが示唆しており、当時マーベル映画のビジネスを手中にしようとしていたアヴィ・アラッドの関与があったことも仄めかされているのだが、コンスタンティン・フィルムの当時のプロデューサーは他界しており、アヴィ・アラッドやスタン・リーといったマーベル側の人間はこのドキュメンタリーへの協力を一切断っているため、真実が明かされていないのが残念。こないだの2015年版の「ファンタスティック・フォー」の製作クレジットにもコンスタンティン・フィルムが載っているいることから察するに、スーパーマン映画のジョン・ピーターズのような、権利ゴロっぽい立場になってるような気もするが、まあなんとも言えません。

劇中のインタビューは当時のキャストや監督、美術スタッフなどを中心に行われており、製作会社の上層部が何を考えているのか分からないまま、頑張っていい映画を作ろうとしていた熱意が今になってもひしひしと伝わってくる。当時の映画雑誌とかおれ読んでましたけどね、この映画への期待って結構強かったんですよ。コミコンでも話題になってたし、キャストも(自腹で?)コンベンションをまわってファンに律儀に対応していたらしい。

なおドキュメンタリー自体としては、インタビュー映像が粗かったり、録音の質が悪かったりとクオリティが低いのが残念。低予算映画のドキュメンタリーだからって作りも低予算にする必要はなかったんじゃないの。とはいえ公開されなかった映画がここまでカルト的人気を保ち、ドキュメンタリーまで作られてしまうのは特筆すべきことかと。売れない俳優(失礼)たちが自分たちの仕事に誇りを持って、子供たちに「お父さんはドクター・ドゥームを演じたんだぞ」と教えているところなんかは感動しました。この1994年版の「ファンタスティック・フォー」、著作権的にかなり面倒なことになってるのだろうけど、スタッフが熱望しているように高画質できちんと世の中に出す価値はある作品じゃないだろうか。

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