「Kubo and the Two Strings」鑑賞

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CGアニメ全盛のこの世においてストップモーション・アニメをコツコツを作り続けるライカ社の新作。今回は社長のトラビス・ナイトが自ら監督を手掛けた意欲作になっている。

舞台となるのは侍がいた時代の日本。人智を超えた存在である「月の王」の娘は、幼子である「クボ」を抱え、冷酷な父親と自分の妹たちのもとから海を渡って逃げて人里へとやってきた。それから月日がたち、少年となったクボは三味線を弾いて折り紙を自在に操るという能力を持ち、村で勇敢な侍ハンゾウの物語を弾き語るという暮らしを過ごしていた。しかしある日、日没後に外出してはいけないという母親の戒めを破ってしまったクボは、魔女のごとき格好をした母親の妹ふたりにさらわれそうになる。クボの窮地を母親が身を挺して救うものの、その影響でクボは遠く離れた謎の土地へと飛ばされてしまう。そこで彼のお守りが生身になったというメスザルに救われたクボは、かつてはハンゾウの部下の侍だったが呪いによって人型の虫にされたというクワガタとも出会い、月の王を倒せるという3つの神器(刀と鎧と兜)を探すための旅に出る。しかし彼らのもとには月の王の魔の手が忍び寄っており…というあらすじ。

もうね、映像の美しさがハンパないのですよ。人形ながらもクボの表情は2万以上の型が作られたといい、5メートルほどの巨大ガイコツのフィギュアも作られ、すべてが滑らかな動きをもって自在に画面の中を舞っていく。ライカの前作「Boxtrolls」は下水道とトロールたちのキモい描写があまり好きにはなれなかったが、こちらは紅葉の森のシーンとかがね、すごく温かみがあって美しいのです。やはりストップモーション・アニメって、まだCGが到達することができない手作り感があるんじゃないだろうか。予告編は不気味な感じを前面に出しているのがちょっと勿体ない。

またストーリーも映像に負けないほど巧みで、クボたちの冒険活劇というスタイルととりつつも、話の核となるのは「物語を語ること」であり、生まれてすぐに月の王に片目を奪われて隻眼になったクボの出自にまつわる話や、サルやクワガタに関する物語が語られ、巧妙にストーリーのなかに編み込まれている。あまり多くは明かせないけどね、サルとクワガタの話がまたいいんですよ。三味線を演奏するクボについて、題名の「2本の弦」の意味が分かってくる最後の展開も素晴らしい。

そのサルとクワガタの声優を務めるのがシャーリーズ・セロンとマシュー・マコノヒーで、クボを鍛えつつも暖かく見守る演技が大変素晴らしい。人間時代の記憶を失っているためにどこかボケているクワガタを演じるマコノヒーが特に良かったな。他にも声優としてレイフ・ファインズやルーニー・マーラなどが参加しているほか、ジョージ・タケイやケイリー・ヒロユキ・タガワといった日系人のキャストも多数起用されています。

トラビス・ナイトは父親(ナイキの社長のフィル・ナイト)に連れられて日本を訪問してから日本の文化に魅了され、「子連れ狼」なども愛読していたらしい。この作品のスタイルは版画家の斎藤清の作品に影響を受けているらしいが、盆踊りとか灯籠流しの光景とか、アメリカの作品だとは思えないほど丁寧に描かれているんじゃないだろうか。三種の神器の鎧と兜がちょっと中国っぽいデザインだけど、クボの母親の名前が「サリアツ」ということも含め、渡来したものという設定なのかな?

とにかくこれだけ日本の文化をもとにした作品が、日本でまったく知られておらず、日本での公開も決まっていないというのは大変な問題ですよ。「Boxtrolls」も未だに日本公開されていないが、どうもそこらへんの権利関係がゴタゴタしてるらしいんだよなあ。アメリカでの興行成績は振るわなかったらしいけど、これは本来なら日本で公開されて、多くの人に見てもらうべき作品でしょう。というわけでもし海外や飛行機のなかとかで見かけたら、日本人の義務として一見することをお勧めします。

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