「Brexit: The Uncivil War」鑑賞

まだゴタゴタの続くブレグジットの発端となった国民投票の裏側を描いた、チャンネル4のTVムービー。

2015年にEUからの脱退についての判断をキャメロン首相が国民投票に委ねたことから、離脱派と残留派はそれぞれ投票に向けてのキャンペーンに力を入れていく。政治アドバイザーのドミニク・カミングスはドロドロした政治のやりとりに嫌気がさしていたが、離脱派のチームのリーダーとして迎え入れられる。そこで彼は一般大衆がEU離脱について何を期待し、何を心配しているのかを的確に見抜き、さらにはfacebookなどを通じて人々の行動パターンが瞬時に分かるというアグリゲートIQ社のデータ解析を通じて、キャンペーンを勝利に導くのだった…というお話。

ハゲのドミニク・カミングスを演じるためにベネディクト・カンバーバッチがハゲになって頑張っていて、実際に髪を抜いたのかヅラなのか知らないが、ハゲた人を演じるにはやはりハゲないといけないのかと思った次第です。カミングスはソシオパス気味に周囲を気にせず物事をズケズケと言う人物として描かれており、そこらへんはカンバーバッチが演じたシャーロック・ホームズにも通じるものがあるかと。彼はイギリス独立党の党首であるナイジェル・ファラージを嫌って手を組まず、あまりにもぶしつけな態度をとるものだから味方陣営にもドン引きされるほど。

しかし彼は明確に残留希望を表明している有権者の3分の1と、離脱を希望している3分の1を無視し、態度を決めかねている残りの3分の1に焦点を絞り、彼らが何を求めているのかを判断し、「支配を取り戻せ(Take Back Control)」というスローガンを打ち出したり、悪名高き「EUに金を払うよりも国民保険に金を使え」というスローガンを書いたバスを走らせて人々の心に訴えていく。

同時に彼はカナダのアグリゲートIQ社のことを知り、人々のデータ解析を行うことによって300万人の票が操れることに気づき、facebookなどに虚偽の広告を出すことでユーザーのデータを収集していく。一方では離脱派の別のグループがスティーブ・バノンにあったり、ケンブリッジ・アナリティカのデータ解析を用いる様子が描かれていく。

個人的にはこのネットでの世論操作がいかに国民投票に影響したかをもっと掘り下げて欲しかったのだが、期待していたほどの内容ではなかった。アメリカの選挙同様に、ロシアの介入があったのかについては全く言及なし。そもそもキャンペーンの黒幕たちがなぜそこまでEU離脱にこだわるのかも説明がされなくて、冒頭から人物紹介のテロップにあわせて「離脱派」「残留派」と出るのみ。そこらへんはイギリスの視聴者には自明の理なんだろうか。でもこれアメリカのHBOでも放送されるんだよな。なお残留派も離脱派もレイシストとみなされるのを恐れて移民問題には触れないようにするものの、結局はトルコからの移民を恐れる人々が投票に大きく影響した、という描写が興味深かった。

出演者はハゲのカンバーバッチに加え、残留派のストラテジストをハゲのロリー・キニアが演じているほか、実在の政治家たちを役者たちがうまく似せて好演している。ボリス・ジョンソンは金髪のボサボサ頭になれば似せることは容易だったろうが、ナイジェル・ファラージのアホ面を似せていたのは上手かったな。

どことなくブレグジット騒動の表面だけを追った内容になっていて、もう少しエゲつない内情を暴露しても良かったような気がするが、これから日本でも改憲の国民投票が行われるかもしれないなか、裏ではいろいろ暗躍してる人たちがいるんだよ、というのが分かる作品ではありました。