「Samuel Beckett’s Film」鑑賞

サミュエル・ベケットが脚本を担当した唯一の映像作品「Film」(1965)を観た。その存在を知って以来ずっと観たいと思っていた作品だが、ついに目にすることができるとは。やはりインターネットで俺の人生は大きく変わったなあ。ここで観ることができるよ。

20分ほどのモノクロ映画で、音楽もセリフも一切なし。ベケットの話にあらすじなんて殆どないんだけど、黒づくめの男が通りを小走りで進み、立ってた人にぶつかるもそのまま進み、アパートに入って自分の部屋に戻ると、そこには犬や猫がいて…。といった感じ。まあ意味不明だわな。雰囲気的には「アンダルシアの犬」に通じるものがあるかな。主人公の男を演じるのは、なんとあのバスター・キートン。死ぬ1年前に68歳という老齢で出演したわけだが、冒頭の小走りのシーンとか犬と猫とのドタバタなんかは、往年の喜劇王としての貫禄を十分に感じさせてくれる。

特筆すべきはカメラワークで、最後のほうになるまで男の顔は映されず、後ろ姿しか観ることができない。男の後ろ姿を軸にしてまわるカメラの動きは、意外にも「GTA」のようなビデオゲームを彷彿とさせる。ときたま男の視点がとらえた映像が挿入されることや、男が「見られる」ことを徹底的に嫌っていること、カメラに意思があるような動きをすることなどから、「目」や「見ること」が重要なテーマであることは明らかなんだが、それ以上のことは俺には難解すぎて分からないのです。

意味不明なようで滑稽なところがあり、時にはちょっとゾッとさせてくれる非常に興味深い作品。ぜひご覧あれ。