「ブラッドショット」鑑賞

いちおう日本では5月29日から公開らしいですが、首都圏の劇場で観られるのはいつからですかね?ワーナーのDC、ディズニーのマーベルに対抗してか、ソニーが中国資本と組んでヴァリアント・コミックスのスーパーヒーロー作品を映像化したもの。以降はネタバレ注意。

日本では馴染みがないがヴァリアント・コミックスというのは、元マーベルの名物編集長だったジム・シューター(身長3メートル)が1989年に立ち上げたコミック会社でして、ブラッドショットやハービンジャー、XOマノウォーといった新キャラクターを生み出したり、マグナス・ロボット・ファイターなどといった60年代のゴールドキー・コミックスのキャラクターをリブートした作品を出していたところ。初期はボブ・レイトンやバリー・ウィンザー・スミスといった名クリエイターたちが関わっていたことや、90年代前半のコミックへの投機ブームにも乗っかって、それなりの人気を誇っていた会社なのです。そのあとゲーム会社のアクレイムに買収されたが軌道に乗らず、アクレイム自体が倒産して、そのあとも親会社が2回くらい代わったものの、現在でも根強い人気をもって出版を続けております。

そんで今回のブラッドショットはヴァリアントの看板キャラクターの一人でして、軍の極秘プロジェクトによって血液中にナノボット(ナナイト)を注入されて驚異的な再生能力を持つことになった元兵士が、でっかい銃をぶっ放して悪と戦うというもの。90年代前半はね、ブラッドなんとかとかデスなんとかという名前の、銃を使うのが好きなキャラクターがたくさんいたのですよ。

今回の映画もコミックのオリジン話をなぞっていて、目の前で妻が殺され、自分も殺された兵士のレイ・ギャリソンが身体中にナナイトを注入されてデッドショットとして蘇り、記憶が消されていたものの妻の殺害を思い出し、復讐を遂げるために殺人者のもとに向かうが…というもの。

ブラッドショットはナナイトによって超人的な怪力を持ち、撃たれようが刺されようが瞬時に回復する能力を持ち、さらにはテクノロジーを自在に操ることができるというチート能力全開のキャラクターなので、敵と戦っても無双状態のためあんまりスリルはなし。ハッキングによって体内のナナイトが不活性化させられると途端に活動停止するのだが、映画にしろドラマにしろ最近の「ハッカーはなんでもできる」という設定は話の醍醐味を削ぐよねぇ。

コミックのブラッドショットは上のイラストのように肌が真っ白なキャラクターなのだが、主演のヴィン・ディーゼルが「怒りのデスロード」のウォー・ボーイズのようなキャラクターを演じるのは違和感があるとでも感じたのか、劇中で肌が白くなるのは最後の一瞬だけで、あとはヴィン・ディーゼル色で過ごしております。そうなるとこれはアメコミ映画ではなくただのヴィン・ディーゼルのアクション映画ではないか?と思ってしまうのだが、どうなんだろう。

とはいえハリウッドメジャーの作品なのでそんじょそこらのアクション映画よりも予算がかかっていて、8Kカメラで撮影されたという映像は綺麗だったし、最後のエレベーターでの戦闘は迫力があったな。ただ敵役がいまいち貧弱で、ブラッドショットに真っ当に立ち向かえる奴ではなかったような。ヴァリアント・コミクスには超能力者集団ハービンジャーの宿敵にトヨオ・ハラダというガチで強いヴィランがいて(90年代はまだ日本が強かったのだよ…)、ほかのタイトルにもヴィランとして登場するのだが、それ意外にキャラの立ったヴィランがいないのが難点だよな。

監督のデビッド・ウィルソンはビデオゲーム畑の出身で、これが監督デビュー作?出演はヴィン・ディーゼルのほか、ガイ・ピアースや「ベイビー・ドライバー」のエイサ・ゴンザレス、「NEW GIRL」のラモーネ・モリスなど。

アメリカでの興行成績はコロナウィルスなどの影響もあり大コケしたらしいが、これをきっかけにヴァリアント・コミックスの映画化が続くのかな?と思ったらどうもソニーは「ハービンジャー」の映画化権をパラマウントに売ったらしく、マーベルみたいなシネマティック・ユニバースが構築できるのかはよくわかりません。