「クライ・マッチョ」鑑賞

HBO MAXが半額セールやってたのでまた加入した。まあ「デューン」も「マトリックス」も劇場に観に行くつもりなのであまりメリットはないのだが。クリント・イーストウッドの映画って個人的に波長が合わないところがあって、最近の「リチャード・ジュエル」とか「運び屋」は観てません。

91歳にしてイーストウッドが監督・主演を務めた作品だが、早撮りのスタイルは相変わらず健在で、特に冒頭はガンガン話が進んでいく。元ロデオの花形選手だったマイク→友人の依頼を受けて友人の息子ラフォを探しにメキシコに行く→息子の母親は裕福だがズボラで息子の居場所を知らない→マイク、すぐさま息子を見つけ出す→マイクとラフォの旅が始まる、という流れ。そもそも91歳の爺さんがそんな危なっかしい依頼を引き受けるか?と言ってはいけないのでしょう。息子の母親がマイクに色目を使ってきたりするので、劇中のイーストウッドというかマイクは60歳くらいの気分でいるのかもしれない。

ドワイト・ヨーカム演じるマイクの友人は冒頭から説明口調でメキシコ行きを依頼するし、ラフォの母親もテレノベラに出てきそうな紋切り型の金持ちメキシカン、ラフォは育った環境のせいでグレてるが心は純情な少年、とかなり登場人物の設定が薄っぺらいのも気になったよ。

とはいえやはりイーストウッドに人を惹きつける力があることは確かで、周囲がどんなに下手な演技をしてても彼自身は魅力的だし、マイクとラフォがアメリカに戻る長旅を始めてからはロードムービーとして結構楽しめる内容になっていた。ただしラフォに人生を教える良き老人というだけでなく、メキシコの村の住民のトラブルも解決してあげる人気者になってしまうあたり、おいしい役を独り占めしすぎてやしませんか。映画における「白人の救世主」ってやつ?脚本は最近のイーストウッド作品を手掛けているニック・シェンクだが、トム・クルーズ作品におけるクリストファー・マッカリー的というか、良い脚本というよりもスターを立てるための脚本を書いてるような。

マイクはいちおうカウボーイという設定なので、「許されざる者」以来のイーストウッドのカウボーイもの、という見方もあるようだけど舞台が1970年代なので西部劇ではないわな。少年と老人の交流の物語、という点では「グラン・トリノ」に近いがあそこまで傑作ではない。というかイーストウッド作品としてはあまり評価が高いほうには入らないのだろうが、たぶんこれが遺作にはならず、あと数本は世に送り出すような気がする。荒馬に明らかに本人が乗ってないとか(寄ったショットがない)、後ろからやってくる車に誰も気づかないといった雑な描写もぜんぶ引っくるめて、我々はただもうイーストウッド御大の作品として受け入れればいいのだ。