「DMZ」鑑賞

HBO MAXのミニシリーズ。原作はDC/ヴァーティゴのコミックで、おれ殆ど読んだことないけど72号まで出た長命のシリーズだったんだな。新たな内戦が起きたアメリカにおいて政府軍と反乱軍の戦いが勃発し、両軍の緩衝地域(DMZ)と化したマンハッタン島に取り残された男性ジャーナリストの物語、だったはず。ライターのブライアン・ウッドは後にセクハラ疑惑が巻き起こって例によってキャンセルされてしまったので、この作品がこうして映像化されたのはちょっと意外でした。

今回の映像化にあたっては大幅な改変が行われていて、主人公は男性ジャーナリストではなくアルマという医療従事者。彼女は8年前にマンハッタンを脱出する際に息子と生き別れになっており、まだマンハッタンにいるであろう彼を探して裏ルートを通じて島に乗り込む、という設定。マンハッタンは外部から隔離されてるとはいえ電気も水道も通じており、意外と住民は穏便に暮らしている。地区や人種に応じて住民はいくつかのセクトに分かれているものの、そこそこ民主的に選挙も行ってマンハッタンの大ボスを選んでいるみたい。

そしてアルマは外部からやってきたひとりの人間として息子を探し始める…はずが、実は彼女は中国人グループのボスの元同僚ということが判明して彼から有力な情報をスラスラと聞き出してしまう。さらにマンハッタンの大ボスであるパルコ・デルガドこそがアルマの息子の父親であり、彼女はパルコとも普通に面会できて…とまあ主人公がチート的に有利な立場であることが明らかにされるんですね。ミニシリーズで尺がないとはいえ、そんなに話が都合よく進んでしまって良いものか。

もっと「ニューヨーク1997」的な内容を期待していたのだが、アクションよりも息子とのメロドラマ的な展開に時間が割かれている感じ。そもそもなぜアメリカで内戦が勃発したかの説明も少なく、社会的コメンタリー要素もなし。DMZのリーダーの権力争いよりも一般の市民の暮らしにフォーカスしたほうが、最近のウクライナのニュースと重なって話題になっただろうに。

プロデューサーおよび第1話の監督はエイヴァ・デュヴァーネイ。彼女はこないだの「NAOMI」もそうだったが、自分のアジェンダ(おそらくは「黒人女性の物語」)を通そうとするばかりに原作の設定をガン無視する傾向があるよな。いちおうアルマやパルコのベースになったキャラクターは原作にいるものの、映像版とはずいぶん違うようだし。アルマ役には、最近何にでも出演している気がするロザリオ・ドーソンで、いかついパルコ役にベンジャミン・ブラット。メイミー・ガマーもちょっとだけ出てます。

ヴァーティゴ・コミックスって大人向けTVシリーズのアイデアの宝庫だと思ってて、HBO MAXはそれの受け皿として最適なのだろうけど、映像化するときはもうちょっと原作の特徴を残しておいたほうが良いと思うのです。