「CRIMES OF THE FUTURE」鑑賞

デビッド・クローネンバーグによる久々のボディホラー映画だ!と言っても個人的に前作「マップ・トゥ・ザ・スターズ」を見忘れてるので確約できないのだが。以下はガッツリネタバレしてます。

舞台は未来。人々の体は謎の進化を遂げ、痛みや感染症とは無縁の体質になり、簡単に開腹手術などが行えるようになっていた。さらに極端な進化を遂げた者もおり、体内に新たな内臓が生み出される症状を持つソール・テンサーは、パートナーのカプリスにそうした内臓を観客の目前で摘出させるというパフォーマンスを行い、アーティストとして高い評価を得ていた。その一方で政府は人類の予測のつかない進化を警戒し、新たな臓器の登録を行なっていたが、さらに急激な進化を唱える過激派たちが登場して…というあらすじ。

そもそもなぜ人類がそんな進化を遂げたのかとか、政府は臓器を登録してどうするのか、などといった説明は一切ないので気にしない方がいいです。監督が単に臓器摘出がテーマの映画を撮りたかったのでしょう。ストーリーの設定自体は確かにグロいものの、摘出される内臓などは「イグジステンス」のコントローラーのような、シリコン感のあるクローネンバーグ風のプロップなのでそこまでリアルなものではない。生ガキ食べられる人なら大丈夫なんじゃないでしょうか。

ソールが寝るベッドとか、彼の食事を助ける椅子などは「裸のランチ」のタイプライターやエイリアンのデザインを彷彿とさせるし、ソールの置かれる立場は「イースタン・プロミス」みたいだし、そもそも題名自体が1970年のクローネンバーグの作品と同じという、クローネンバーグのグレイテスト・ヒッツみたいな作りになっていて、往年のファンには懐かしく感じられるんじゃないでしょうか。作品の内容自体は斬新なはずなのに、故郷に帰ってきたような気分を抱きながら観てしまったよ。

ただしそうした要素が合わさって総和以上になっているかというと微妙で、やはり世界設定の圧倒的な説明不足が影響しているのでは。監督はガチガチのSFを作る気はなかったのかもしれないが、政府と過激派のかけ合いとか、LifeFormWare社の役割、人類の進化によって世界がどう変わったのかなどをもうちょっと描いたほうが面白くなったような気がする。新しい臓器についても当初はアートとの関係で論じられていたものが、途中から人類の進化に主題が変わっていったような?ちょっと焦点がボケてるんだよな。

ソール役はクローネンバーグ作品の常連であるヴィゴ・モーテンセン。なんか撮影前に怪我したとかで、長時間立ってられなかったとか?忍者みたいな格好でしゃがんで話すのが妙にカッコいいぞ。カプリス役にレア・セドゥ。臓器の登録オフィスの助手役にクリステン・スチュワートだが、スチュワートは有名人すぎるので、この役はもっと無名の役者が演じた方が効果的だったかもしれない。手術マシーンの修理を手伝う女性ふたりとか、冒頭に出てくる少年の母親とか、無名の役者(失礼)が演じる女性のほうがミステリアスな雰囲気があってよかったな。

クローネンバーグの久々のボディホラー、と過度に期待すると肩透かしをくらうかもしれないが、悪い作品ではないです。内容が内容だけにろくに宣伝もできず興行成績は散々だったらしいが、次の監督作も決まってるようなので期待しましょう。