近所の図書館で小野耕世の「アメリカン・コミックス大全」なる本を発見したので、借りて読む。小野耕世といえば70年代のSFマガジンで書いてた、アメコミに関するコラムを集めた本「スーパーマンが飛ぶ」と「バットマンになりたい」は結構名著だと思ってるんだが、この本は実にそれ以来の、30年くらいぶりの単行本になるらしい。もっともその間に「マウス」とか「ボーン」の翻訳など、何かしらアメコミと縁のある仕事をしてた人なんだけどね。

本の内容は3章に分けられ、最初は70年代の原稿をベースに、それ以前のコミックおよびスタン・リーやジャック・カービィにまつわる文章(本人たちへのインタビューもあり)が載せられている。
第2章は新聞連載のコミックが中心で、「ブロンディ」や「リル・アブナー」といった古典的作品の話から、「キャルビンとホッブス」や「善かれ悪しかれ」といった最近の作品などについて書かれている。日本ではなかなか知ることができない、アメリカの新聞連載コミックスについての情報はかなり貴重。「ブロンディ」を語るサミュエル・フラーのインタビューなんてのも載せられている。

そして第3章はいわゆるオルタネイティヴ・コミックスが中心となり、これも日本ではあまり知られていないジェフ・スミスやアート・スピーゲルマンやジョー・サッコといった作家たちの話が、本人たちの生の声とともに紹介されているのが非常にためになる。ハーヴェイ・カーツマンやウィル・アイズナーといった古典的「オルタネイティヴ」作家についての文章もあり。

個人的には小野耕世ていうと70年代の人というイメージが強かったんだけど、この本に書かれた文章は非常にアップトゥデートなものであり、「スパーダーマン」や「バットマン」の映画版や、911テロがコミックに及ぼした影響などについてもいろいろ書かれている。よってアメリカン・コミックス(特にオルタネイティヴ系)の最近の状況を知るうえでも役立つ本だと言えよう。最近は映画雑誌がよく「スーパーマン・リターンズ」や「X3」つながりで、アメコミに関する生半可で間違いだらけの記事を載せてるけど、あんなのとは比べものにならないくらい内容の濃い本になっている。

但し残念なのは、文体がいわゆる独りよがりな学者風でとても読みづらい(つうか文章ヘタ)うえ、明らかな誤訳にもとづいた文章があったり、ジム・ウッドリングの「フランク」について「フレッド」と誤記してたり、「ウォッチメン」のアーティストを「ウィリアム・ギブソン」と記したり(!)と、モウロクしてまっかあ?と思ってしまうようなミスが多い点。本当に近年の文章は文脈の逸脱が激しく、読んでてイライラさせられるところも少なくない。「ヘルナンデス兄弟という名まえは、明らかにスペイン系だから、彼らがメキシコとの国境近くの出身なのか、中米に住んでいたのか、そのあたりのことはわからない。もちろん調べればわかるけれど、それはたいしたことではない。」なんて文を読んだときは、本をブン投げようかと思ったくらい。ちょっとは調べろよ!あと「バッドマン」なんて表記が普通に載ってるのを見ると、編集者もそうとう手抜き仕事やったんだろうね。

こうした欠点のおかげで決して出来の素晴らしい本だとはいえないけど、アメコミを身近な視点から紹介した本としては日本では唯一といってもいいくらいのものであるのは間違いない。読むにはアメコミの初歩知識が必要かもしれないが、アメコミの深い世界を知りたい方には一読をお勧めします。

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