「The Day of the Triffids」鑑賞

怪物パニック小説のパイオニアであるジョン・ウィンダムの傑作小説を、BBCが3時間の2部編成ドラマとして再映像化したもの。有名な小説だから話はみんな知ってるよね?知らない?舞台は近未来で、毒の鞭をもち移動もできるトリフィドという肉食植物から人類は良質の油を摂取することに成功し、ガソリンの代わりになるということでトリフィドを農場で育てるようになっていた。そしてある日、非常に大規模な流星群が見られることになり、世界中の人々は夜空を見上げる。しかし原因不明の現象により、流星群を見た人々はすべて盲目になってしまっていた。こうして人類が築き上げた文明は一夜にして崩壊する。さらに悪いことに、農場を脱出したトリフィドたちが人々を襲い始めるのだった…という物語。

今回の映像化も基本的には小説のプロットをなぞっているものの、人々が目撃するのが流星群でなく太陽のフレアの放射だったり、登場人物の設定などにいろいろ変更が加えられている。皆が盲目になったからってロンドンが核戦争後の世界のごとき姿になるのはどうかと思うが(ビッグ・ベンが吹き飛んでいるのはご愛嬌)、「28日後」を彷彿させるパニックの描写はなかなか面白い。

問題はそのあと目明きの人間たちの権力争いのようなものがダラダラと続くことで、肝心のトリフィドがあまり怖い存在として描かれていないような。原作を読んだのは20年以上も前になるけど(しかもジュヴナイルSF版)、もっと人類は「負けた存在」として描かれていて、トリフィドにブチブチと殺されていくような話じゃなかったっけ?今回のやつは話が進むごとに登場人物がみんな目明きの人になってしまって、人類の絶望感がどんどん希薄になってくんだよな。あと原作では流星群が細菌兵器を積んだ人工衛星を直撃したことで人類は盲目になったのではないか、という「人災説」が唱えられたのが面白かったんだけど、今回は人々が盲目になった理由の説明は一切なし。そもそもなんで地球の反対側の人たちも太陽のフレアが見れたんだろう。

主人公の科学者を演じるのは「M:I-2」のダグレイ・スコットだが、鉛のごとく固くて重い演技がダメ。周りの人の困窮をあまり気にしないまま「トリフィドが大変なことになるぞ!」と騒いでばかりいる空気の読めなさ加減がカッコ悪すぎる。その脇をヴァネッサ・レッドグレイヴやブライアン・コックスといった名優が固めているものの、あまり出番がなかったのが残念(特に前者)。いちばん演技が良かったのは憎たらしい権力者を演じるエディ・イザードだけど、彼はどの作品においても似たような役を演じる人なので、どうも作品の世界観に合わず一人で浮きまくってたような。

単純にヒドかった1962年の映画版に比べれば遥かにマシな出来だけど、せっかくの素晴らしい原作をうまく映像化できなかったのが残念な作品。話によると1981年のテレビ版は面白いらしいので、そちらもいずれ観てみようかな。