「HUNGER」鑑賞


おととしの東京国際映画祭にも「ハンガー」という題で出品されて、そのあとどこかで配給されるかと思ってたんだけど未だに日本公開されてないイギリス映画。

80年代初頭のボビー・サンズのハンガー・ストライキを題材にしたもので、そのハンストの詳細については「SOME MOTHER’S SON」のところに書いたので参照されたし。あちらがハンストに巻き込まれた母親の苦悩を描いていたのに対し、こちらはサンズ本人に焦点を当てた話になっている。

冒頭から20分くらいは殆ど会話のシーンがなく、政治犯として囚人服を着ることを拒んだ青年が毛布だけをあてがわれて監房に入れられ、仲間と一緒に「不潔抗議」を実施して人糞を壁に塗りたくり、尿を床にたれ流し、その戒めとして機動隊員に袋叩きにされたりしつつも、巧妙に外部の仲間たちと連絡をとりあう姿が描かれ、それからサンズのハンストへと話はシフトしていく。

監督のスティーブ・マックィーン(いや、あっちのマックイーンじゃないよ)は本業はモダン・アートのアーティストでこれが初監督作品らしいが、そのカメラワークやライティングなどは目を見張るほどに美しい。ウンコや残飯まみれの監房が奇麗に見えてしまうほど。そして話の途中でサンズと、彼のハンストを止めさせようとする神父が論じあうシーンがあるんだが、そこでは2人の会話を15分以上にわたって1つの固定されたアングルで長回し撮影するという離れ業をやってのけている。普通なら観客が退屈して怒りそうな場面だが、2人の話にじっと耳を傾けたくなるような作りにしているのは見事だと思う。ただし両者のアイルランド訛りがきつくて、半分くらい会話が聞き取れなかったのは残念。

またサンズを演じるミヒャエル・ファスベンダーも周囲が本気で心配したほどの過酷なダイエットに挑み、あばらが浮き出てガリガリに痩せ、栄養失調のため皮膚が荒れまくって出血したサンズの壮絶な姿を熱演している。体は痩せても顔はあまり痩せないタイプらしいのがちょっと損してたけどね。

ただし全体的にはあまりにもアート映画的な雰囲気が強く、政治的なテーマを扱っているとはいえ人の心に訴えるようなものを持った作品ではなかったかな。いちおう当時に非人道的な扱いを受けた囚人たちと、アブグレイブとかで虐待された現代の囚人たちの姿を重ねあわせるという目的があったらしいが、あまりメッセージ色のようなものは感じられなかったかな。話も刑務所の中のサンズの描写に徹底していて、彼が投獄中に議員に立候補したことなどは殆ど言及されていなかったりする。そもそも北アイルランドの紛争って百姓の領地争いのようなものが根底にあるわけで、こういうアート的なアプローチよりももっと土臭いやり方のほうが似合っている気がしなくもないけどね。そういう意味ではハンストに巻き込まれた一般人の困惑を描いた「SOME MOTHER’S SON」のほうが観ていて心に響く作品であった。

北アイルランドに関するそれなりの知識が必要とされる映画なので、なかなか日本人受けはしないだろうが、その映像美は一見に値するし、せっかく日本語訳が存在する(らしい)わけなので、ぜひ日本でもDVDとかが出て欲しい作品。

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