「THE GHOST WRITER」鑑賞


いろいろ巷で話題になっているロマン・ポランスキーが、スイス警察に逮捕されながらもしれっと作ってしまった政治サスペンス(刑務所で編集をしたらしい)。

物語はユアン・マクレガー演じる主人公の作家が、イギリスの前総理大臣であるアダム・ラングの回顧録のゴーストライターの仕事を持ちかけられるところから始まる。既に回顧録には別のゴーストライターがいて草稿を書き上げていたのだが、彼は謎の溺死を遂げてしまったというのだ。そして主人公は政治に疎いものの、原稿執筆の早さを見込まれて仕事を与えられ、そのままラングが滞在しているアメリカはマサチューセッツの孤島(マーサズ・ヴィニヤード)へと送られる。そこで彼はラングのほか、彼の秘書や神経質な妻に出会う。さっさと仕事を片付けて島から出ようとした主人公だが、ラングが首相のときにイギリス国籍のテロリスト要員をアメリカに引き渡して拷問にかけさせていたことが世間に明らかになり、ラングは戦争犯罪で裁判にかけられる可能性が出てきてしまう。とつぜん身の回りが慌ただしくなってきたなか、主人公は自分の前任者が残した謎めいた資料を発見し、彼の本当の死因を探ろうとする。そして調査を進めるうちに、主人公は衝撃の事実を知るのだった…というのが大まかなプロット。

とにかく雰囲気の盛り上げかたやストーリーの進め方が巧い。人里離れた僻地を舞台に、絶妙なカメラアングルを用い、臨場感ある音楽を絡めて謎を少しずつ解き明かしていく手腕はさすがベテランですね。「チャイナタウン」のようなギラギラした感じはないものの、じわじわと不気味な謎がストーリーに染み込んでいくさまは「ローズマリーの赤ちゃん」に通じるものがあるかな。孤島を舞台にしたサスペンスとしては「シャッター・アイランド」よりも遥かに面白かったぞ。無人の車がフェリー内で見つかる冒頭から、衝撃のラストまで観る人を飽きさせない。

イギリスの元政治記者が書いたフィクション小説が原作なのだが、前総理大臣のアダム・ラングは露骨にトニー・ブレアをモデルにしていて、彼の政権とアメリカの癒着を暗に批判した内容になっている。ラングを演じるピアース・ブロスナンも腹に一物ある政治家を巧みに演じているほか、彼の妻を演じるオリヴィア・ウィリアムスもいい感じ。ただしウィリアムスは「天才マックスの世界」の清純な女教師のイメージが個人的にはあるので、最近こういう影のある役を演じることが多くなったのには少し複雑な気分がするのですが。ラングの秘書を演じるキム・キャトラルだけが少し浮いていたかな。どうしてもSATCのイメージが強すぎるので。あとイーライ・ウォラック(94歳!)がチョイ役で元気な姿を見せてくれるぞ。

(ネタバレ注意)「イギリス政権はアメリカの傀儡だった!」というオチには、そんなもん皆すでに知っとるわい!と思ったりもしたが、非常に優れたサスペンスであることは間違いない。世間ではこれがポランスキーの最終作になるのではという声もあるようだが、これだけ面白い作品を作れる監督がこれで打ち止めとは勿体ない。いたいけな13歳の少女を人身御供にしてでも、ぜひまた映画を作って欲しいところです。

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