「The Complete Ballad of Halo Jones」読了


アラン・ムーアが「2000AD」誌のために執筆していたSFコミック「The Ballad of Halo Jones」の全話を収録した単行本で、アーティストはイアン・ギブソン。「2000AD」でのムーアの作品のなかではいちばん有名で評価が高いものじゃないかな。以前に単行本化されたときはムーアの前書きが付いていたらしいけど、今回は未収録。ただしムーアのスクリプトが数ページほど紹介されている。

ストーリーは西暦4900年代の遠い未来を舞台に、閉塞的な地球を嫌って宇宙へ飛び出すものの、環境の変化と時代の流れに翻弄されてしまう少女ヘイロー・ジョーンズの姿を描いた内容になっていて、ディストピアの未来における少女の物語という点ではフランク・ミラー&デイブ・ギボンズの「マーサ・ワシントン」シリーズに似ているかな。ただしあちらよりももっとスペースオペラの要素が強いけど。かといって宇宙を股にかけた冒険譚になっているわけでもなく、主人公は貧しいが故にまっとうな職につくことができず、あちこちでつらい目に合うという、なかなか社会派の作品になっている。それとイギリスでは男性向けの作品が多かった「2000AD」において強い女性を描いたということで評価が高いようだけど、今になって読むとあまりフェミニスト的なものは感じられないかな。

全体では3部構成になっていて、アシモフの「鋼鉄都市」みたいな地球においてヘイローと友人が買い物にいくのが第1部、地球を飛び出したヘイローが巨大な宇宙船で雑用係として働くのが第2部、軍隊に入ったヘイローが戦場で悲惨な体験をするのが第3部のそれぞれの内容になっている。本来は9部作になる構想があったらしいが、例によって権利の問題でムーアと出版社がモメて立ち消えになったそうな。なおイアン・ギブソンのアートはちょっとクセがあるので、受け付けない人もいるかもしれない。出てくる女性の口がみんな極端な「ヘの字」になっていて、どれも同じ顔に見えてしまうんだよな。

「D.R. and Quinch」と同様に、後のアラン・ムーアの作品のクオリティに達しているとは言い難いものの、優れた作品ではあるので、ムーアのファンならチェックしてもいいんじゃないかな。