「裏切りのサーカス」鑑賞


iTunes UK経由で。何を語ってもネタバレになりそうな作品なので、以下を読む時はお気をつけ下さい。

舞台となるのは1973年の冷戦下のイギリス。情報局秘密情報部(通称「サーカス」)のトップはある情報を得るためにハンガリーへエージェントを送るがその作戦は失敗し、その結果サーカスのトップおよび彼の右腕のジョージ・スマイリーは引退を余儀なくされる。しかしサーカスの上層部に共産側のスパイが潜り込んでいるらしいとの情報を聞きつけた政府は、スマイリーを呼び戻してスパイを探し出すよう命じるのだったが…というような話。

ジョン・ル・カレの原作読んでないし、アレック・ギネスの70年代のTVシリーズも当然観てないズブの素人が言うのも何ですが、かなり難解な映画だったなあ。ストーリーそのものが難解というよりも説明的なセリフやショットが極力省かれていて、話の行間を読むというか、登場人物の間の空気を読むことが多分に求められる演出がされていたのだよ。おかげですごく話が凝縮されて緊迫感があるのだが、ちょっとでも話を聞き漏らすとあとの展開が分からなくなるような感じでもあった。またフラッシュバックが多用されており、さっき死んだ人物が過去のシーンで再登場するなんてことが頻繁に起きていた。

登場人物もかなり多くて、それが話の複雑さに輪をかけているわけだが、主人公を演じるゲイリー・オールドマンを筆頭にみんな濃い演技を披露してますよ。コリン・ファースにトム・ハーディにカンバーバッチなどなど。個人的にはジョン・ハートとマーク・ストロングの演技が良かったな。特にストロングはベタな悪役ばかり演じてる印象が強かったので、繊細な演技が出来ることを改めて知った次第です。ただ映画として主人公の探すスパイにそれなりの役者を起用する必要があるため、何となく誰がスパイか想像がついてしまうのが難しいところか。小説だと誰もがスパイになり得たんだろうけどね。

あと特筆すべきは当時の諜報活動の描写で、70年代とはいえ終戦直後の世界のようにすべてが重々しく表現され、エージェントたちは報われない仕事を黙々と続けている。派手なドンパチもないし、スパイものとはいえ007シリーズとは対極をなす光景がずっと続いていく。バカでかい電話の受話器とか電線とつながって本国と連絡がとれるタイプライターといった機器を見ていると、携帯電話のおかげでスパイ映画がどれだけ変わったかというのかが良く分かりますね。

決して万人受けするような作品ではないし、気楽に見られるものでもないが、最近では珍しいくらいに密度の高いサスペンスであった。イギリス映画の本領発揮ですな。

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