「ホーリー・モーターズ」鑑賞

昨年海外では絶賛されていたフランス映画。監督のレオス・カラックスって名前は知ってたけど作品を観るのはこれが初です。なんかよく分かんないんだけどとてもすごい映画であったよ。

ある晩に目覚めた男(カラックス本人)が自室の壁にあった隠し通路を発見。そこを抜けると大衆がサイレント映画を観ている劇場だった…というオープニングは本編とまったく関係なくて、本編の主人公となるのはオスカー氏という男性。大邸宅に住み子供たちにも恵まれた彼は、巨大な白いリムジンに乗って仕事へと向かう。そんな彼の仕事とは、与えられたファイルをもとに、変装をしてさまざまな「業務」をこなすことだった。まず老婆に変装して橋の上で物乞いをしたオスカーは、それからゲーム用のモーションスーツを着込んで撮影用のスタジオでハードなアクションをこなし、同じくスーツを着込んだ女優とセックスの模擬をする。このようにしてオスカーは9つの業務を1日のなかでこなしていく…というストーリー。

ストーリーは本当にこれだけでして、オスカーに仕事を与えるエージェンシーがあることや、同じような仕事をしている人たちが他にもいることが示唆されるんだけど、オスカーの動機とか仕事の目的などは一切説明されず、彼が変装して暴れまくる怒濤の展開が繰り広げられていく。

リムジンに乗った1日の出来事というコンセプトはクローネンバーグの「コズモポリス」、他人の演技をする人たちというのはギリシャ映画の「アルプス」に通じるところがなくもないが、実際の映画はその2つに似ても似つかない実に奇妙なものになっていて、観る者を圧倒させていく。さらに映画の中盤ではご丁寧にもインターバルが儲けられていて、アコーディオンを抱えた集団が一曲奏でてくれるぞ。

登場人物はそんなに多くない、というかオスカーを演じるドニ・ラヴァンが変装して何役もこなし、完全に話を喰ってしまっている。いちばん体を張っているのは3番目の「メルド氏」に変装するところで、カラックスが以前撮った短編にも出てきた役らしいが、地下道を通り抜けて墓場に登場し、献花などをムシャムシャ食べながら(ここで何故か「ゴジラのテーマ」が流れる)、撮影をしていたエヴァ・メンデス演じるスーパーモデルを誘拐し、自分はすっぽんぽんになって彼女の膝枕で眠りだす仕舞。なに言ってるか分からないかもしれないが、本当にそんな展開なんだってば。でもハチャメチャなようで、全体を通じて何ともいえないペーソスがあるのが不思議なところでもある。

あとは彼と同じような仕事をし、彼とは古いつきあいがあるらしい女性をカイリー・ミノーグが出てきて、ニール・ハノンによる曲を歌ってくれたりします。そしてリムジンのドライバーを演じるエディット・スコブって女優、「顔のない眼」の娘さんだった人なのか!

さらに特筆すべきはその映像の美しさ。フランスのアートシネマってチープな撮影しかしてないかと思いきや、夜のパリの車道とか、閉鎖されたデパートとかの光景がとても見事で、カメラワークも凝ってるのですよ。モーションキャプチャーのシーンなんか3Dで観たいと思ったくらい。

この映画が何を伝えようとしてるのかは、俺のような凡人の理解を遥かに超えていることだし、たぶん答えは出されないだろうから深く考えたりはしない。だから観たあとで何が心に残るのかというと戸惑ってしまうのだが、とにかく観てるあいだは圧倒される作品。あなたが今年観る映画のなかで最も独創性にあふれた作品の1つになることは確実でしょう。

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