「ザ・バットマン」鑑賞

感想をざっと。ネタバレ注意。

  • マット・リーヴスが監督した「猿の惑星: 新世紀」は個人的にSFアクションの教科書的作品だと考えてまして、猿の側にも人間の側にも良い奴と悪い奴がいることを紹介したうえで、両側の衝突が不可避となってテンションが高まっていくさまを丁寧に描き、クライマックスの後に題名通り夜明け(DAWN)を迎えるところが本当に素晴らしい出来だったのです。
  • それでもって今回の作品だが、ほぼ3時間という長尺でありながら同様のテンションの高まりを築くことはできず、スーパーヒーロー作品としてはカタルシスを与えてくれる内容になっていなかったと思う。
  • いちばん引っかかったのはバットマンの圧倒的な未熟さで、犯罪と戦うにあたって最後までリドラーに翻弄されて彼の計画を防ぐことができない。格闘においてもやたら脇の開いたパンチを繰り出して、防弾スーツに頼って銃弾をモロにくらってぶっ倒れる次第。事件の捜査も警察にかなり頼ってるなど、まだ経験不足で衝動的という設定とはいえ、「さすがバットマン!」と思わせる展開が皆無だった。
  • このように肝心のクライマックスが欠けたことで、話としてはずいぶん平坦なものになってしまっていたような。もちろん金のかかったアクションも多いし決して退屈ではないものの、あくまでも「彼」が登場するであろう続編(あとまあペンギンのTVシリーズ)につなげるためのTVドラマのような序章、という印象を抱いてしまったよ。ピントがボケた暗い雨のシーンで雰囲気を盛り上げるのはいいのだけど、本当に雰囲気だけで終わっているのでは。
  • ベースにしたコミックは「イヤー・ワン」と「ロング・ハロウィーン」、あとは意外にも「アース・ワン」あたりかな。例によってコミックにまつわるイースター・エッグが散りばめられてましたね。
  • リドラーはリドラーじゃなくてゾディアックすぎるだろ。彼が結局何をやりたかったのか分からなかったの、俺の頭が悪いのか?
  • 興行的には大成功しているようで、間違いなく続編が作られるでしょう。その続編とあわせることで真っ当な評価が下せる作品ですかね。それが良いことだとは思わないが。

「The Thing About Pam」鑑賞

米NBCのミニシリーズ。日本ではあまり知られてないが、ここ数年アメリカでは実録犯罪もののポッドキャストが流行ってまして、火付け役になったのは2014年の「SERIAL」なのかなあ。なぜそんなジャンルが流行ってるのかは正直いってよくわからんのですが、実録犯罪ものが好きな国民性(ジョンベネちゃん殺人事件とか)とポッドキャスト文化がうまくマッチしたのかのう。「SERIAL」は確か、逮捕された人物が無罪なのか有罪なのか?というジャーナリズム的切り口が話題になったと記憶しているが、ただ単に「事件で何が起きたか」を説明するだけのポッドキャストなんかは、ウィキペディアを読めばその顛末が5分で分かったりするわけで、なぜ時間をかけてポッドキャストを聴くのかがよく理解できんのよな。

そしてこのミニシリーズも、NBCのニュース番組の特集を元にしたポッドキャストをさらに元にしたものだそうな。ポッドキャストが原作のテレビシリーズが作られるのも最近のトレンドで、こないだ言及した「The Dropout」もセラノスの事件を扱ったポッドキャストを原作にしたものだった。例えば小説やコミックが映像化された作品だったら、その小説やコミックの邦訳があればそれを読んで映像作品と比較することもできるだろうけど、ポッドキャストを翻訳することはできないだろうから、そういう原作にアクセスし難いのが日本人にとってはディスアドバンテージになるのかな、とよく考えるのです。

そんでこの作品は2011年にミズーリの町で起きた殺人事件を扱ったもので、主婦のベッツィー・ファリアが死体となって発見される。自らのガンを苦にした自殺かと思われたものの、多数の刺し傷があったことから他殺扱いとされ、彼女を発見した夫が容疑者として逮捕される。しかし実はベッツィーの友人である女性パム・ハップが裏で怪しいことをしていて…という話。

この事件も例によってウィキペディアに詳細が載ってるのでネタバレしてしまうと、パムはサイコパスの人のようで、ベッツィーだけでなく他の人物も殺害した容疑で逮捕され、現在は無期懲役で服役しているそうな。殺人にあたりずいぶん手の凝ったアリバイ作りを行い、ベッツィーの夫が誤って逮捕されたことなどからメディアの注目を集めたのだそうな。

実際の殺人事件を元にしたとはいえ、全体的なトーンはコメディ風味になっていて、小さな町における主婦の殺人事件(ナレーション付き)というのは20年遅れてきた「デスパレートな妻たち」といった感じで新鮮味はなし。ただ最大の特徴はパム役をレネー・ゼルウィガーが演じていることで、こないだアカデミー賞とった彼女がなぜファットスーツを着てこんな役を演じているのかは謎。でも彼女は「ジュディ」の真面目なヒロインなんかよりも、ちょっと頭のネジが外れたキャラクターを演じる方が似合ってると思うので、こういう役は嫌いではないですよ。あとは脇役で検察官役に「永遠の脇役」ジュディ・グリアーが出ているほか、弁護士役でジョシュ・デュアメルが出てくるみたい。

キャスティングからタイミングから、なんでこれ今つくったの?と考えてしまう作品だが、今後も実録犯罪もののポッドキャストの映像化は当分続くんじゃないだろうか。

「SUPER PUMPED」鑑賞

米SHOWTIMEのアンソロジーシリーズ。なぜミニシリーズでなくアンソロジーなのかと思ったら、シーズンごとに大手ベンチャー企業の裏側を描いたものにするそうで、第2シーズンはFacebookがテーマになるんだそうな。そんで第1シーズンは「The Battle for Uber」とあるようにライドシェアサービスのUberを扱ったものになっている。

こういう、つい最近の出来事を映像化したTVシリーズおよびTVムービーって、ひと昔前ならLIFETIMEかBETあたりが女性が主人公のスキャンダラスな実録もの作品をよく作ってて、政治的なテーマのものはHBOの得意とするものだったと思うが、ここ数年は配信プラットフォームの台頭の影響かいろんなところで制作されるようになって、この作品のほかにもセラノスの血液検査詐欺を扱った「The Dropout」とか、Netflixの「タイガーキング」をさらにベースにしたPeacockの「JOE vs CAROLE」とか、もう何でも映像化されるようになった感じ。しかしベンチャー企業の成功と失敗の話なんて、みんなそんなに目にしたいかね?

そしてUberといえば、日本では四角いカバンかかえて自転車すっとばしてる人たち(危ないのよ)という印象が強いが、海外では当然ながらライドシェアのサービスとして知られている。交通渋滞のもとになってるとかドライバーを低賃金で働かせてるとかいろいろ叩かれてるけど、個人的には海外出張のときとか重宝してたのよな。極端な話、言葉が通じなくても行先が伝えられるし料金も明瞭で、怪しいタクシーにボラれるというリスクが無くなったのは非常に便利なのであまり悪い印象は抱いてないのです。

しかしこの作品は元CEOのトラビス・カラニックを主人公にして彼の野望を描いているので、利用者やドライバーの目線での話はなし。UberCabという名称でサービスを立ち上げた、中途半端なところから話が始まるので前後関係がつかみにくいが、大口の出資を受けたカラニックはサンフランシスコの司法の規制をくぐり抜けてUberを成功させ、ニューヨークにサービスを拡大させるが、そのあこぎな商法が周囲の反感を買うことになり…というあらすじ。

劇中の描写がどこまで事実に基づいているかは別として、普通こんな会話しないだろ、というような「狙った」セリフがぽんぽん飛び交い、ニューヨーク進出にあたってはデブラシオ市長との掛け合いがグランド・セフト・オート風に描かれるなど、いろいろ凝ってはいるものの逆に観てて疲れるところもあるかも。主人公が公私においてエゴむきだしで突き進んでいくさまが楽しめるかどうかで観る人を選ぶ作品かな。

主人公のカラニックを演じるのはジョセフ・ゴードン=レヴィットで、若々しくガンガン押してく演技はよく似合ってますね。彼の出資者にカイル・チャンドラー、母親役がエリザベス・シューなど。あと自分が観た話数ではまだ登場してないがアリアナ・ハフィントン役にユマ・サーマン、アップルのティム・クック役にハンク・アザリア、ってなんかウケ狙いのキャスティングのように感じられるな。あとなぜかナレーションをクエンティン・タランティーノがやってるらしいのだけど、そもそもナレーションが殆ど使われてなかったような?

正直なところ、どのような視聴者を想定して制作したのかよく分からない作品ではあるものの、こういうベンチャー企業の成功(と失敗)の物語が映像化されるトレンドって今後も続くのだろう。数年後にはNYタイムズによるWordle買収の物語なんかが映像化されるんじゃないですか。知らんけど。スーパーコピー

「AFTER YANG」鑑賞

デビュー作「Columbus」が素晴らしかったコゴナダ監督の長編2作目。アメリカでは劇場公開とあわせてSHOWTIMEで配信という変則的なリリース形態で、仕方なしにゴニョゴニョしてSHOWTIMEに加入することに。以下はネタバレ注意。

舞台は未来。テクノと呼ばれるヒューマノイドが普通に家庭で暮らす時代。ジェイクとキラの夫妻は、中国から養子に迎えた娘のミカの兄代わりとして、中国文化に詳しい「ほぼ新品」のテクノであるヤンを家族の一員として迎えていた。しかしある日ヤンが作動しなくなり、ジェイクは彼を元に戻そうと奮闘することになる。元の売り場でヤンを直せないことを知った彼は非正規の修理人に頼み込むが、そこで彼はヤンが今までの生活のメモリーバンクを備えていることを知る。そのメモリーバンクを開いたジェイクは、ヤンの意外な記録を知るのだった…というあらすじ。

原作となった短編小説があるそうで、内容は「Columbus」に比べると意外なくらいにSFしているのだが、派手なアクションなどがあるわけではなく、家族の一員の喪失とその思い出を中心にしたしんみりとした話になっている。家族に迎えられたヒューマノイドの話という点ではスピルバーグの「A.I.」に通じるものがあるが、知的なアートSFとしてはアレックス・ガーランドの作品やスパイク・ジョーンズの「HER」のような雰囲気があるかな。

コゴナダの画面作りは前作以上に美しいものになっていて、室内のシーンでは壁・廊下・壁といった仕切りで画面を3分割し、廊下の奥を覗き込んでいる構図のものが多かったな。色使いも特徴的で、屋外のシーンでは芝生の映えるような緑が強調されていた。また自動運転?の車のなかで会話するシーンも多く、車に映る光の使い方も印象的であった。

ジェイクを演じるのはコリン・ファレル。「ザ・バットマン」みたいな大作に出る一方で、これやヨルゴス・ランティモスの作品に出たりと幅の広い出演をしてるな。キラ役はジョディ・ターナー=スミスで、あとはクリフトン・コリンズJr.なんかも出てました。コゴナダは韓国出身だが劇中では中国の文化に関するトリビアがヤンから語られ、音楽は坂本龍一がテーマ曲を担当しているほかミツキの歌が使われていたりと、いろんなアジアの要素が含まれている作品でもありました。

SF的な要素に押されて、前作に比べると感情的な盛り上げに少し欠ける気もするが、これは物語の要であるヤンが不在であることも関係しているかな。とはいえ映像の非常に美しい、幻想的な作品でした。劇場の大画面で観るとまた感想が違ってくるかもしれない。

「OLD HENRY」鑑賞

前知識なしで観た、ティム・ブレイク・ネルソン主演のウェスタン。以下はネタバレ注意。

舞台は1905年のオクラホマ。人里から遠く離れた荒地に息子と住む農民のヘンリーは、瀕死の男が倒れているのを発見し、さらにその近くに大金が入った袋があるのを見つけ、男と袋を家に持ち帰る。男を拘束しつつも息子とともに介抱するヘンリーだったが、彼を探して保安官と称する三人の男が彼のもとにやってくる。男のことは知らないとヘンリーは答えるものの、彼を疑う男たちによってヘンリーの家は襲撃される。こうしてヘンリーは銃を手に取って戦うことになるのだった…というあらすじ。

ヘンリーが謎めいた過去を持っていることは最初から示唆されていて、まあいわゆる「銃を捨てた老ガンマン」っぽいな、というのは大体察しがつく。妻が亡くなり子供とともに細々と暮らしているものの、やがてまた銃を持って戦うことになる…という展開はイーストウッドの「許されざる者」まんまでクリーシェじみているとは思うものの、そういう話の展開って個人的には嫌いではないですよ。そして肝心のヘンリーの過去についてはちょっと意外な事実が明かされ、設定の巧みさには関心してしまった。アイデアの勝利。

ティム・ブレイク・ネルソンの演技が素晴らしいことは毎度のことながら、今回はコメディ要素の全くない渋い役を演じ切っている。彼と戦う保安官役のスティーブン・ドーフも年取って渋くなってきましたね。監督&脚本のポッツィ・ポンチローリってこれまではコメディ番組の監督やプロデュースをやってた人らしいが、今作では女性が全く登場しない硬派な西部劇の世界を作り上げている。

クリーシェが多いことは確かだし、ウェスタンに新しい風をもたらすような作品ではないだろうが、評論家に高い評価を得ているのもうなずける良作。ウェスタン好きな人は観て損はないかと。