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「ジャッジ・ドレッド」や「ローグ・トルーパー」などの作品で知られるイギリスのコミック雑誌「2000AD」に関するドキュメンタリー。

物語は70年代後半から始まる。イギリスで不況の嵐が吹き荒れてパンク・ロックが盛り上がりを見せるなか、コミックのライター兼編集者であるパット・ミルズは当時のイギリスの凡庸なコミック業界に風穴を開けるために「Action」誌を発刊。「ジョーズ」などのハリウッド映画に影響を受けた作品を載せたこの雑誌はイギリスの少年たちに大きな人気を博するものの、その暴力的な内容によってメリー・ホワイトハウス(そういう有名な保守の活動家がいたんすよ)たちの抗議を受けて廃刊に追い込まれる。このためミルズは検閲を逃れるためにSFっぽい話を多くした「2000AD」を、仲間のライターであるジョン・ワグナーとともに小さなオフィスで立ち上げる。

人を食いちぎる恐竜や、架空の共産国に侵略されるイギリスといった題材を、相変わらずの暴力描写で描いた「2000AD」はすぐさまヒット。しかし作品の多くは反体制的なものでありながら、明らかにファシストである主人公をもった「ジャッジ・ドレッド」が一番の人気作品になったのは皮肉ではありますね。

そして「2000AD」はイギリスの数多くのコミック・ライターおよびアーティストが活躍する場となり、このドキュメンタリーでもグラント・モリソンやケヴィン・オニール、デイブ・ギボンズ、ニール・ゲイマンなどといった錚々たる面々がインタビューに応えている。例によってアラン・ムーアは出てないけど、娘のリア・ムーアは出てます。

なお著作権をめぐってムーアがケンカして打ち切られた作品「ヘイロー・ジョーンズ」が本来ならばどういう結末を迎えるはずだったのかをムーアに教えてもらったゲイマンが、その内容を思い出しながら涙目になってるところが印象的。リア・ムーアが「私もヘイロー・ジョーンズの続きを教えて欲しいんだけど、パパ忙しいのよね…」とか語ってるのだが、いやそれは絶対聞き出して公表したほうがいいぞ!

こうして多くのライターとアーティストを輩出し、作品に彼らの名前をクレジットしていた一方で、「2000AD」の出版社は彼らの著作権を一切認めず、海外でリプリントされた作品についても印税を払わないなど、その労働条件は決して良いものではなかった。さらに80年代前半には海外の才能ある人々を探しにやってきたDCコミックスによってライターとアーティストがごっそり引き抜かれ、それが後の「ウォッチメン」やカレン・バーガーによる「ヴァーティゴ」の設立につながるわけだが、こうした作家たちを失った「2000AD」は人気が低迷していくことになる。

んで皆の証言によると90年代半ばあたりがいちばん低迷してた時期らしいですが、おれこの頃の「2000AD」は比較的よく読んでたんだよな。まあ「B.L.A.I.R. 1」みたいな俗っぽいパロディを連載してたりしたので世間受けは良くなかったのでしょう。それでこれはいかんということで編集長が代わり、出版社も別のところに移り、2000年代になってまた活気が出てきたよね、というような話で締めくくられている。個人的には最近は読んでないのでどうクオリティが向上してるのか分かりませんが。

いちばんインタビューの時間が割かれているのが(当然ながら)パット・ミルズで、意外とおとなしいジョン・ワグナーに比べて、ことごとく悪態をつきながら「2000AD」の歴史を語っていくその姿は高齢ながらも非常にエネルギッシュであった。往年のファンのとっては必ずしも新しい情報が含まれてるドキュメンタリーではないが、イギリスのコミックに興味がある人には格好の入門書となるような作品ではないでしょうか。

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DCコミックスやデルなど戦争ものやウェスタンのコミックを描いていたサム・グランズマンが、第二次大戦における自分の従軍の経験を綴ったコミック。元々は1987年と89年にマーベルから出版された2冊を合本して、ドーバー社が昨年出版したもの。

真珠湾攻撃から1年後の1942年の末、18歳になったばかりのグランズマンは海軍への従軍を希望し、駆逐艦USSスティーブンスへと配属される。狭い船のなかに乗組員の男たちがひしめくなか、スティーブンスはパナマ運河を渡りハワイへ抜け、さらにサイパンなどに配属され、グランズマンは様々な出来事を経験して一人前の海の男へと成長していく。

内容は日本軍との戦闘よりも駆逐艦の日常生活に多くのページが割かれているが、こないだ他界した水木しげる同様に、兵士たちのおかしな日常というのは実際に経験した人じゃないと描けないですね。赤道を通過する際の儀式とか、船を脱走して中国の娼館に行った話とか、艦の中は暑苦しいので甲板の上で寝ようとした話とか、我々には想像もできないような話が次々と語られていく。またスティーブンスの内部や武装についても詳しく説明がされており、ミリタリーマニアの人にはたまらない内容になってるんじゃないでしょうか。
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しかし日本軍と違うなあと思うのは、艦の食事は常に新鮮で大量にあり、コーヒーは飲み放題。空母にはアイスクリーム製造機があるのに駆逐艦にはないと愚痴をこぼせるほどの贅沢さ。当時のグランズマンはキザっぽくポニーテールを結わえ、自ら機関士への異動を志願したにもかかわらず、想像とは異なる職場であることを察した彼は、毎日のように上司の目を逃れて仕事をサボり、しまいにはまんまと別の部署へと異動してしまう。これ日本軍だったら上司にリンチされて半殺しの目に遭っていたのではないか。

こういう楽しげな日常生活が描かれる一方で、戦争の惨禍についてもきちんと説明がされており、船員の何人かはPTSDを発症してある者は頭がおかしくなり、ある者は何もせずにただ甲板に座りつくしている。また戦争の後期になると日本軍が神風特攻を行うようになり、噴煙をあげて戦闘機が艦に突っ込んでくるさまが驚異とともに描かれていた。
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スティーブンスはミッドウェイや沖縄でも激戦地からは離れていたようだし、グランズマンも機関室にいたはずなのでどこまで戦闘を実際に目撃してたのかはよくわからないけど、大空を舞う日本の戦闘機を彼は龍にたとえ、日本人兵士をちゃんと敬意をもって描いている。また戦争によって破壊されつくしたマニラや、サイパンの集団自決によって海に浮かぶ死体などについても描写がされていた。
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グランズマンはいま91歳だがまだ存命で、第二次大戦の物語はここに収録されたものの他に数多くの作品を描いている。たしか神風パイロットについて詳しく扱った作品もあったはず。この本の評判がよければドーバー社はさらなる再販を企画しているらしいので、彼の作品がより多くの人の目に触れることに期待します。

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イギリス出身のコミックライターであるピーター・ミリガンと、アーティストのブレンダン・マッカーシーがコンビを組んで70年代後半から80年代にかけてさまざまな雑誌に掲載していたコミック作品の傑作選。

ブレンダン・マッカーシーのアートの素晴らしさは過去にも書いたが、インド絵画に影響を受けたという強烈にサイケデリックなアートが大きめのページで堪能できてもう満足。各作品のストーリーもアートに合わせてトリッピーで、当時のイギリスの労働者階級文化を反映したものから、哲学的なものまでと扱ってる幅が広い。「ROGAN GOSH」と「SKIN」を除けばどの作品も1話数ページで、おまけに掲載されてた雑誌が長続きせずに尻切れトンボで終ってるものばかりなのだが、その凝縮されたストーリーはいずれも読み応えがあるかと。いくつか代表的な作品を紹介すると:
「PARADAX」
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物質を通り抜けられるスーツを手に入れ、スーパーヒーロー「パラダックス」となったニューヨークの少年の物語。ヒーローと言いつつもチャラくて自分のことしか考えておらず、周囲につつかれて仕方なく悪と戦うそのスタイルは、グラント・モリソンの「Zenith」(あれもキャラクターデザインはマッカーシーだった)の先駆けといったところか。実際マッカーシーは「Zenith」をパクリだと考えてるらしい。

「ROGAN GOSH」
これ以前にDCコミックスのヴァーティゴからも再販されてましたね。インド神話(?)のヒーロー、ローガン・ゴッシュが登場するサイケなサイケな物語。

「FREAKWAVE」
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オーストラリアで「マッドマックス」を観て大きく影響されたマッカーシーによる、大海洋を舞台にした「ウォーターワールド」と「マッド・マックス」を合わせたような作品。でも2話目から内容が大きく変わってチベット仏教みたいな内容になってるのがお茶目ではある。

「SKIN」
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サリドマイドの影響で短い腕を持ったスキンヘッドの少年が暴れまくるという内容が大きな論議を呼び、数々の出版社が出版を断念したといういわくつきの作品。他の作品に比べるとアートは比較的おとなしめで、絵本のような感じで読める内容になっている。ストーリーも結構真面目で、実は感動する内容になってたりする。まあ当時はこれくらいの内容でも出版が見送られたりしてたんですよ、

あくまでも傑作選なのですべての作品が網羅されてるわけではなく、彼らの最後のコラボ作品となった92年の「SHADE, THE CHANGING MAN」#22などからは数ページが掲載されてるのみ。ケンカ別れしたわけではないと思うのだけど、20年以上も一緒に仕事してないのは何故だろう?

その後もミリガンはコンスタントにコミックを書き続けてDCやマーベルでいろいろ作品を出してるわけだが、マッカーシーのほうはハリウッドへ映画の仕事をやりに行ったもののあまり音沙汰がなかったんだよな。しかし!今年は彼がジョージ・ミラーと長年ひたすら構想を練っていた「マッドマックス 怒りのデス・ロード」がついに公開されるのである!マッカーシーのインプットがどれだけあるのかはよく分からないが(車両のデザインとかは他の人がやったらしい)、「怒りのデス・ロード」は俺にとってはブレンダン・マッカーシーの映画なのである!

というわけで映画がヒットしてマッカーシーがハリウッドで活躍できれば良いなと思う反面、コミック業界に戻ってきて欲しいと欲しいと思うわけだが、ここ数年は「Spider-man: Fever」とか「Zaucer of Zilk」といったコミックをちらほら描いたりしてるので、またミリガン&マッカーシーでコンビを組んで作品を出して欲しいところです。
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アラン・ムーア&ケヴィン・オニールの『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』外伝第3巻にして「ネモ」シリーズの最終章。いちおうネタバレ注意。

舞台は1975年。女海賊として恐れられたジャンニ・ダカールも年齢には勝てず、耄碌して過去の父親や夫たちの幻影を目にしているのではないかと周囲には疑われていた。そんななか、彼女が前巻で壊滅させたトメニア(いわゆるナチスドイツな)の残党たちが南米に潜んでおり、さらには彼女が殺したはずの女王アッシャが目撃されたとの話を聞いた彼女は、娘の警告も聞かずに部下たちを連れて漆黒のノーチラス号を駆り、アマゾンの密林の奥へと向かうが、そこで彼女が目にしたものは…という展開。

今回は南米が舞台ということで、アマゾンの半魚人!失われた世界!ブラジルから来た少年!などといった南米ネタが盛り込まれています。あとは「ステップフォードの妻たち」とか。ヴィンセント・プライス主演のコメディ映画なども元ネタになってるようで。そこらへんは例によってジェス・ネヴィンズ氏が注釈用のウェブサイトをつくっていろいろ説明してくれています。

ジャンニ側の新キャラとしてはヒューゴー・ヘラクレスという怪力キャラが登場して、なんか20世紀初頭に新聞で5ヶ月だけ連載されてたという超マイナーなキャラクターらしいのですが、英「ダンディ」誌のデスパレート・ダンの父親であることが示唆されてたりして、ムーアは相変わらず人のオモチャでいろいろ遊んでんなあと。ただしヒューゴー・ヘラクレスがチート的に強すぎるのと、主人公たちが奇襲をかける側であるため、話のスリルは前巻ほどではないかな。

あとは前巻同様に女性たちの戦いが強調されていて、「1910」で始まったジャンニの激動の物語はこれで幕を閉じることになる。また「2009」に登場したジャンニの孫の生い立ちも語られています。

なお「リーグ」の話はこれで終ったわけではなく、また新しい話が始まることをムーアがインタビューで語っていたような。外伝ではなく「ボリューム4」になるのかな?舞台がいつで、誰が主人公になるのかも全く分からないけど、コンスタントに面白い作品なのでまた近いうちに新刊がでることに期待したいところです。

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久しぶりにアメコミの話をば。

今週のワシントン・ポスト紙に「マイルストーン・メディアが再び活動するよ」みたいな記事が載っていて、アメコミ業界でちょっと話題になったわけですが、このマイルストーン・メディア(別名マイルストーン・コミックス)というのは1993年に立ち上げられたアメコミの出版社でして、当時のアメコミ業界ってかなりバブルだったものですから、イメージ・コミックスを筆頭に、ヴァリアント・コミックスとかダークホース・コミックスが次々とスーパーヒーローもののコミックを打ち出し、独自のユニバースを構築していたわけですな。

そしてマイルストーンもそんな新興出版社の1つだったわけですが、彼らの特色は黒人のクリエーターたちが集まって「有色人種のスーパーヒーローたち」を創造したことで、よって各タイトルの主役はみんな黒人。スーパーマンのアナローグであるアイコンや、アイアンマンに似たハードウェア、スーパーパワーを持ったギャングであるブラッド・シンジケート、電気を自在に操る少年のスタティックを主役とした4つのタイトルが創刊され、あとからアジア人が主役でアラン・ムーア御大も褒めたという「XOMBI」や白人が主役の「コバルト」などが加わわり、架空の都市「ダコタ」(実在のダコタとは異なる)を舞台にストーリーを展開していったんだよな。
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登場人物の肌の色を的確に表現するために独自のカラーリング方法を起用し、現実の黒人社会の犯罪問題などを反映させた内容は、「Grim and Gritty」と呼ばれる暗くて暴力的なヒーローたちが「リアル」な存在として流行っていた当時においてはちょっと異質で、個人的には好きだったのです(もちろんマイルストーンの作品もGrim and Grittyの影響を多分に受けているのだが)。

中でも俺の好みは「スタティック」で、スタティックことヴァージル少年は内気ながらも気のいい少年で、パブリック・エネミーとかが好きで、白人(ユダヤ系)のガールフレンドがいて、普通のティーンの目線で街のチンピラたちと戦っていく姿がとても斬新だったわけですね。それまでのティーンのヒーローって、大人のヒーローに鍛えられたエリートみたいな連中が殆どだったから。
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今となっては意外に聞こえるかもしれないが、90年代のアメコミってまだまだ保守的なところがあって、マーベルのノーススターが92年にゲイであることを「カミングアウト」してものすごい論議が巻き起こったりしてたわけなんですね。そんななかで白人のガールフレンドがいる黒人とか、ゲイのキャラクター(ブラッド・シンジケートに一人いた)とかを登場させたマイルストーンって、他社の暴力的なヒーローよりもずっと革新的だったと思う。

またジョン・ポール・レオンやハンベルト・ラモス、JH・ウィリアムス3世といった現在でも活躍してるアーティストが、まだ新人のときにマイルストーンの作品を担当していたことも特筆されるべきだろう。

ただしそのコンセプトゆえか、あるいはDCコミックス(当時は古くさい会社という印象を持たれていた)に販売委託をしていたせいか、他社の派手な作品に比べると業界紙とかでの扱いも低かったような気がする。そしてDCユニバースとのクロスオーバー・イベントも行なわれたものの人気はぱっとせず、アメコミ業界のバブルの収縮にともなって、他社と同じように3〜4年ですべてのタイトルは打ち切りとなってしまった。日本でも「あんなの映画『マルコムX』に便乗してるだけでしょ」なんて言った奴もいたな。

でもキャラクターの権利の管理はちゃんと行なわれていて、「スタティック」は「スタティック・ショック」という名前でアニメ化されたし、2000年代後半にはDCユニバースに吸収される形でキャラクターが「ティーン・タイタンズ」なんかに登場したんだよな。フレイザー・アーイングがアートを担当した2011年の「XOMBI」なんて本当に面白い作品だったのに、DCがろくにサポートしなかったせいか6話で打ち切られたのが残念。
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そして冒頭の記事に戻りますと、マイルストーンの創設者であるレジー・ハドリン(「ジャンゴ 繋がれざる者」のプロデューサーな)やデニス・コーワンなんかが集まって、またマイルストーンのキャラクターたちを復活させようね、と話し合ったというもの。まだ具体的な作品などが発表されてないので何とも言えないが、今年のコミコンで発表があるのかな?

過去のスタッフではアニメの脚本とかも書いててキャリア的に絶好調だったドウェイン・マクダフィーや、「スタティック」のライターだったロバート・ワシントン3世が数年前に若くして亡くなっているのが惜しまれるが、90年代に比べるとアメコミの世界はずっと多様性が広がっていて、いろんな人種やセクシャリティや宗教のキャラクターが活躍しているわけですね(売れ行きが苦戦したのもあるけど)。そういう意味ではいまマイルストーンが復活すればより多くの読者を獲得できるのではないかと、往年のファンとしては期待してしまうのです。