「Star Wreck: In the Pirkinning」鑑賞

フィンランドのトレッキーが7年かけて製作した、「スター・トレック」のパロディ映画「Star Wreck: In the Pirkinning」をダウンロードして観る。 ここ最近のスタトレのファン映画は、コンピュータの性能が向上したことを反映して、「特撮は一流・演技は二流」なものが多いというのは前にもどっかで書いたけど、この作品も例にもれず出演者の演技が素人くさいかな。でも特撮は本当に目を見張るくらいの出来で、そこらへんのハリウッド映画に比べても遜色のないレベルになっているのが本当に凄い。エンタープライスAやDやEにディファイアントなんかが縦横無尽に飛び回るさまなんかは、「ファースト・コンタクト」の冒頭の先頭シーンなんかよりもカッコいいんじゃないだろうか。おまけに「バビロン5」のパロディも多分にやっていて、「トレック」対「B5」という、ファン映画ならではのアクション・シーンが満喫できる。

演技は素人くさいとはいえ、特撮の出来があまりにも素晴らしいことと、ストーリーが単なるパロディではなく、ちゃんと山場のあるものになっているため、観ていて意外と出演者に感情移入できる展開になってるのもいい。コメディはベタだし英文字幕の出来もイマイチだけど、それを差し引いても十分に楽しめる映画になっている。本当に特撮は凄いよ。

この作品は普通のコンピュータを使って、ごく僅かな予算でコツコツと製作されたらしい。予算の都合でセットも一切作らず、宇宙船の内部などは全部ブルースクリーン撮影なんだとか。そしていざネット上で公開されたら世界中からダウンロードが殺到して、何と史上最も多くの人に観られたフィンランド映画になってしまった。何か冗談みたいだけど本当の話。

この作品は権利的にはクリエイティブ・コモンズに属していて、公式サイトなどから無償でダウンロードできる。これも前に書いたけど、「スター・トレック」のような作品は、メジャー・スタジオが大金をかけて新作を製作するよりも、いっそファンに製作権を解放して、そこからロイヤリティをとるような仕組みにしたほうが効果的なんじゃないだろうか。ちょうどこの作品を観たあとにパラマウント主催のスター・トレックのイベントに足を運んだのだけど、遠い地方からわざわざやってくるようなファンの熱気を見てると、バーマン&ブラガなんかよりもずっとスタトレに誠実な作品を作ってくれそうな気がしてならないのです。

「THE FAST AND THE FURIOUS」 鑑賞

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ロジャー・コーマン大先生が1954年に製作した映画「THE FAST AND THE FURIOUS」(「速き者、激しき者」)をarchive.orgからダウンロードして鑑賞する。こんな作品まで無料で入手できるんだから、パブリックドメインて本当にいいよなあ。 ユニバーサルののアクション映画「ワイルド・スピード」(「THE FAST AND THE FURIOUS」)がタイトル使用権を買い取ったことで知られる映画だが、内容は全然違う。無実の罪で刑務所に入っていた男が脱走し、女性レーサーを人質にとって逃避行を敢行。そして2人はレースに紛れ込んでメキシコに逃亡しようとするのだが…というのが大まかなストーリー。話の展開が都合良すぎるとか、前半のスリリングな逃避行シーンに比べて後半の展開がが少したるむ感じがあるものの、主演のジョン・アイアランド(監督も兼任)とドロシー・マローンの演技が手堅いことや、最後のレース・シーンがちゃんと迫力的であることなどから、低予算映画とはいえ十分鑑賞に値する作品になっている。ちなみにコーマンによると「ワイルド・スピード」のストーリーは、彼の別の作品「T-Bird Gang」をパクったものなんだとか。本当かどうかは知りませんが。

観るだけ時間のムダだった「ワイルド・スピード」なんぞよりもずっと面白い作品。

REEFER MADNESS 鑑賞

1936年に公開され、その内容のチープさが60年代あたりにカルト人気を呼んで、最近ではミュージカル化やそのTVムービー化までされた教育映画(といっても実はエクスプロイテーション映画)「REEFER MADNESS 」をarchive.orgからダウンロードして観る。 タイトルから想像がつくように、これはマリファナ(当時はMARIHUANAと綴ってた)の害を警告するために製作された作品。ある健全な若き恋人たち(「ロミオとジュリエット」を朗読したりするのが見ててムカつく)が、マリファナ・パーティーを開いている男女に勧められて悪魔のハッパに手を出してしまい、それが悲劇に結びつくことになる…という、まあ、教育映画にありがちなストーリーです。

いちおう最初と最後に博士らしき人物が登場して「この物語は事実に基づいたものであり、マリファナの恐ろしさを訴えるものです…」みたいな、実におざなりなメッセージを添えてるんだけど、肝心の内容には、犯罪・殺人・ひき逃げ・レイプ未遂・自殺・セックス・そしてもちろんドラッグと、エクスプロイテーション映画の要素がぎっしりと詰まっていたりする。それにこの時代特有の過剰な演技が加わって、教育映画の堅苦しさなんぞ微塵も感じられない娯楽作品になってしまっているのがミソ。雰囲気的にはジョン・ウォーターズの「シリアル・ママ」に似てるかな。劇中ではマリファナをふかした人があまりにも簡単にハイになってしまうものだから、あー自分もやってみたい、と思った観客も当時いたんじゃないだろうか。むしろ禁煙指向の現代人にとっては、平気でタバコに手を出すヒロインの姿のほうがショッキングに映るかもしれない。

現在では大統領もやってたらしい悪魔のハッパですが、1930年代においてはとっても怖いものだと見なされてたんですね。

我が国 日本

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www.archive.orgで公開されている、パブリック・ドメイン入りをした作品の数々がなかなか面白い。ダウンロードが遅い・カテゴリ分けが半端・画質が悪いなどのデメリットを差しおいても、フライシャー兄弟の「スーパーマン」、「3バカ大将」「ローレル&ハーディ」をはじめ、ロジャー・コーマンの初期の作品やオリジナル版「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」なんかまでが置いてあるのが非常に素晴らしい。 でもこうした傑作群はもっといい画質のやつがDVDで入手できたりするわけで、このサイトでしか手に入らない有象無象の作品のほうが実は価値があるのでしょう。

よって今回観たのは「MY JAPAN」という、第2次大戦におけるアメリカのプロパガンダ・フィルム。日本の脅威を一般市民に知らしめるためのものなんだけど、どう見ても白人にしか見えないナレーターが日本人のフリをして「贅沢なあなたたちアメリカ人と違い、我々は質素な食事で暮らしていけるから戦争になっても恐れるものはないのです。ハッハッハ」などと怪しいアクセントで語るのが、実に胡散臭くていい感じ。そして最後に、お決まりの「軍事公債を買ってアメリカを勝利に導こう!」といったメッセージが流れて終わり。

でも日本人に対するアメリカ人のイメージって、この頃も現在もあまり変わってないような気がする。

「バットマン・ビギンズ」鑑賞

本日公開の「バットマン・ビギンズ」をさっそく観てくる。入場料がちょと高いIMAXに行けば混んでないかな、と思ってたら何とほぼ満席状態。広いIMAXシアターが人で溢れてる光景はなかなか壮大ですね。映画の開始時、バカでかいスクリーンにDCの新ロゴが映し出されたのにも感動。 そして作品の内容は、もう最高。コミックに比べて人物設定などが多少違ってるものの、原作の本質的な要素をうまく取り出して昇華することに成功した傑作となっている。

内容は「バットマンの成り立ち」を扱ったものなので、最初の1時間くらいは主人公ブルース・ウェインの幼少時代や修行の光景が描かれる。バットマンのアクションを冒頭から期待してると肩すかしをくらうかもしれないが、いかにブルースが悪と戦うことを決意したかということと、この作品のテーマである「恐怖の克服」についてが深く語られ、観ててどんどん話に引き込まれていく。極端な話、この映画ってアクション以上に人間ドラマの方が面白かったりするのだ。

主演のクリスチャン・ベールは今までの誰よりもブルース・ウェインを的確に演じきり、バットマンとしてゴッサム・シティから悪を追放しようとする熱意がよく伝わってくる。リーアム・ニーソン演じるヘンリ・デュカードってコミックだとゴルゴ13みたいな孤独なヒットマンなのに対し、この作品ではブルースを鍛える師匠のような役割になっている。そして彼のボスである渡辺謙もなかなかミステリアスな雰囲気があっていい。でもやはり英語が出来ないと、今後の海外での活躍の支障になるかな。彼の演じるラーズ・アル・グールはもっとも原作とかけ離れたキャラクターになってるが、あまり詳しくは説明しません。

他にもモーガン・フリーマンやゲイリー・オールドマン、トム・ウィルキンソンにルトガー・ハウアー御大と、実に渋いオヤジたちが次々と登場してストーリーを盛り上げている。特筆すべきはマイケル・ケインで、他の役者を圧倒するような存在感をもって執事のアルフレッド役を好演。すました演技から真剣な演技まで何でもござれといった感じで、この人の巧さにあらためて感心してしまった。

一方若者ではキリアン・マーフィーが悪役スケアクロウとして登場。公開前は「何故スケアクロウみたいな比較的マイナーな悪役が出るんだ?」と思ってたけど、恐怖ガスをまき散らすという彼の戦法が、前述した「恐怖の克服」にうまく結びついていて納得。やられ方はカッコ悪いけど。紅一点のケイティ・ホームズも、抑え気味の演技でもってブルースの幼なじみを好演している。

悪名高いシューマッカー版バットマンのみならず、世間では比較的高い評価を得ているティム・バートン版のバットマンも監督の趣味が出過ぎてるようで個人的には好きではなかったんだが、「バットマン・ビギンズ」はもう、これこそがバットマンだ!という感じで非常に楽しい。製作者が原作の魅力をちゃんと理解し、アクション大作だからって変に家族向け映画にせず、シリアスな作品にしたことに拍手を送りたい。ちなみにミスター・ザズがちょろっと出てたり、「バットマン:イヤー・ワン」そっくりな展開があったりと、原作のファンならニヤリとするようなシーンもあります。

あえて不満を挙げるとすれば、前述したように人間ドラマに比べるとアクションの部分がどうしても凡庸に見えてしまうことかな。特にバットモービルでのカーチェイスはやり過ぎかと。あんな目立つ車で逃走しようとするのは無理があると思うんだが…。バットマンにはオフビートなアクションが似合うと思うけど、まあ大作映画なんだし仕方ないか。

とにかく観て損はない映画。THE DARK KNIGHT HAS RETURNED!!