MILLIONS

ダニー・ボイル監督の最新作「MILLIONS」を観る。「トレインスポッティング」や「28日後」などのキワモノ的作品も撮っているボイルだが、今回の作品は非常にストレートで心暖まる家族向け映画になっている。

舞台となるのはイギリスのとある住宅地。母親を亡くし、父親とともに引っ越してきたアンソニーとダミアンの幼い兄弟はすぐに新しい家に夢中になる。そしてダミアンは家の裏にある線路の横に段ボールの家をつくり空想にふけるが、ある日突然そこに大金の入ったボストンバッグが降ってくる。親や警察に伝えればお金が没収されてしまうと考えた彼とアンソニーは大金を自分たちで使うことにするのだが、やがて英ポンドがユーロに切り替えられ、彼らのお金が使えなくなる日が近づいてくる…というのが大まかなストーリー。無垢な兄弟(特にダミアン)が大金を手にしたとき、彼らはどのようなことに使っていくのかという光景を、社会風刺などは殆ど絡めずに率直に描いていっている。ダミアンはキリスト教の聖人にやたら詳しいという設定だが特に宗教色が強いわけでもなく、むしろ彼の前に実際に登場する聖人たちが非常に人間くさく、話に笑いを沿えている。
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ダブリン上等!

「ダブリン上等!」(INTERMISSION)をDVDで観る。何の特典も付いてないDVDなんてこっち来てから初めて見た。

内容は、まあ、「トレインスポッティング」になろうとしてなれなかった多くの作品の1つといった感じでしょうか。なんかどの登場人物にも感情移入できないというか、奇をてらうあまり率直にストーリーを語ることができてない印象を受けてしまう。とりあえずパブ帰りの酔っぱらいが撮影したようなカメラの揺れはどうにかしてくれ。グラグラ揺れ過ぎだっての。あと覆面をしたまま話すシーンが多いのも問題だろう。暴力が日常茶飯事で、パブかクラブに行く以外何も娯楽がないダブリンの田舎っぽさはうまくとらえてると思うけど。

コルム・ミーニーやケリー・マクドナルド、コリン・ファレル、キリアン・マーフィーといったそれなりに豪華なキャストが出てて、ニール・ジョーダンが製作やってるんだからもうちょっと出来のいいものが欲しかった。

THE WEATHER UNDERGROUND


70年代の左翼ゲリラ「ウエザーメン(別称ウエザー・アンダーグラウンド)」を扱ったドキュメンタリーで、アカデミー賞にもノミネートされた「WEATHER UNDERGROUND」をDVDで観る。大学間の学生団体から過激派が脱退し、当時世界中で起きていた革命や暴動に感化されてウエザーメンが結成されたいきさつから始まり、その活動や衰退などを当時のメンバーが淡々と語っていく内容。ちなみに作品中の音楽にはフガジのイアン・マッケイが関わっていた。

ボブ・ディランの歌詞「風向きを知るのに天気予報士はいらない」からとった団体名や、ヒッピーのグルであるティモシー・リアリーの脱獄などでアメリカでの知名度は高いウエザーメンだが、他に行ったことはマニフェストの朗読や無人の政府施設の爆破くらいで、他の団体ほど凶悪なことはあまりやってない(異論はあるだろうが)。ブラック・パンサー党にも刺激をうけ、白人の若者の間に革命思想を広めようとするが、当のブラック・パンサーには嫌われていたとか。確かにメンバーは白人ばかりだし、田舎の金持ちの娘などが所属してたわけで、政府により幹部が組織的に暗殺されていったブラック・パンサーにとってみれば甘っちょろい若造の集団に見えたのだろう。その過激な口調のマニフェストなどが逆にニクソン政権にうまく利用され、ベトナム戦争から国民の目をそらすのに使われたという指摘は興味深い。

作品中でイラク戦争のことは特に言及されないが、記録映像で映し出されるベトナム戦争時のアメリカと、現在のアメリカの類似点は誰の目にも明らかだろう。長引く海外での戦争と積み重なる犠牲者に嫌気がさした若者たちがアメリカ政府に宣戦布告する、という出来事は現在でも十分起きかねない。ただ当時はアメリカ側の残虐行為や戦死者がそれなりに大きく報じられ、それが全国的な反戦運動につながっていったのに対し、現政権は報道を制御することによってうまく戦争の真実から国民の目をそらしてるかな、という感はあるが。

そしてベトナム戦争やニクソン政権の終焉ともに、ウエザーメンの活動もまた終わりを迎える。左翼ゲリラのキリのいい終わり方なんて、革命に実際に成功するか警察に全員射殺されるかくらいしかないわけで、そういう意味ではメンバーが次々と自首していくウエザーメンの終わり方は非常に寂しいものがある。でもFBIの捜査が違法な手段を用いていたために、彼らの多くが釈放されたという話には驚いた。しかもメンバーうち何人かは現在教師をやってるとか。どんなこと教えてるんだ?

観たあとの感想としては、彼らの活動内容に関心したというよりも、むしろ若気の至りで始まった集団の盛衰の物語を観たという感じである。意義のあるドキュメンタリーだとは思うが。メンバーの1人が最近のテロリズムを例に挙げ「自分たちが道徳的に勝っていると信じ込むことは非常に危険であり、恐ろしい結果を招くことになる」と語っているのが印象的だ。

アビエイター

アカデミー賞が過ぎて久しいが、今更ながらハワード・ヒューズの伝記映画「アビエイター」を観に行く。俺の周囲では褒める人が誰もいなかったが、スコセッシ&ディカプリオの「ギャング・オブ・ニューヨーク」は個人的には佳作だと思ってます。もっともあれはダニエル・デイ=ルイスが他の役者を完全に凌駕した怪演を見せてくれたおかげで満足できる内容になってたのだが。そして今回は晴れてレオ様が主役の座に躍り出たわけだが、残念ながら作品の出来自体は「ギャング〜」の足下にも及ばないと言わざるを得ない。主人公がいちばん若くて富を持っていた時点から話が始まって、あとは3時間ずっと下り坂を落ちていくストーリーというのは、いくらなんでもキツいものがあるんじゃないでしょうか。

この映画の最大の問題点は、主人公であり当然最も多くスクリーンに登場するヒューズの頑固さやエキセントリックさを強調しすぎたあまり、観客がまるで共感できないキャラクターにしてしまったことにある。自分の直感のみを信じてハリウッドや航空業界の体制に立ち向かっていく姿は見方によっては非常にヒロイックなものになったかもしれないが、本作では周囲のまっとうな意見を押し切ってヒューズが富を失う光景が次々に映し出されるので、彼が野心家というよりも単に愚鈍なビジネスマンに見えてしまうのだ。しかもその間に彼が経験する苦悩というのは挫折感や失恋などではなく、病原菌への恐怖だけである。他人が触ったドアノブを怖くて触れないため、トイレから出て行けない主人公なんて誰も普通は共感できないだろうに。他人の意見を無視して無謀な計画に大金をつぎ込むテキサス出身の石油成金なんて現実世界で毎日のようにニュースで見せられているのだから、わざわざ映画で見なくても、ねえ。

上映時間は3時間近くあるが、カットや展開が速いので観てる分にはさほど退屈しない。しかし逆にたっぷり時間を割いたシーンが少ないため、ヒューズの人生の1コマがぱっぱと流されているような気になってしまい、彼の内面の情熱や失望をきちんと描いた場面が少ないのも問題だろう。なんで彼が映画や飛行機にあれだけの手間と財産を注いだのかきちんと説明してないから、単に気まぐれな人間にしか見えてこないのだ。もっとも試験飛行のシーンだけは見事で、ヒューズの興奮が容易に理解できる。しかしそれも大半は不時着して終わるので、彼の達成感みたいなものが作品から伝わってこないのだ(彼が達成したものが実際にあるかどうかは別として)。
あと時代の変化に合わせてフィルムの色映えを変えるというアイデアは面白いものの、最初のほうは水色ばかりが強調されてとても冷たい印象を受けるので、なかなか映画の世界に入り込みにくい感じがしたのは俺だけでしょうか。

レオナルド・ディカプリオは決して嫌いな役者ではないし、ジャック・ニコルソンばりに眉間にシワを寄せて頑張ってるのは分かるものの、年とったヒューズを演じるには若すぎた感が否めない。最後の公聴会での演技は良かったけど、あれは相手がアラン・アルダだからいいシーンになったのか?キャサリーン・ヘップバーン役のケイト・ブランシェットは上手。アカデミー賞穫っただけのことはある。役自体はつまらないけど。アラン・アルダも相変わらず上手だが、役がちょっと小さすぎたかな。この他にもジョン・C・ライリーにアレック・ボールドウィン、イアン・ホルム、ジュード・ロウ、さらにはブレント・スパイナーなどが総出演してるけど、みんな役が小さすぎてパッとしない。グゥエン・ステファニに至ってはレコード会社に金を積まれたから出演させた、って感じ。

これもダニエル・デイ=ルイスが主役やってたらいい作品になってたんじゃないか?

SLASHER

ジョン・ランディス初のドキュメンタリー作品「SLASHER」をDVDで観る。劇場用ではなくテレビ用のものらしい。かつては「アニマル・ハウス」や「ブルース・ブラザース」などの傑作を作っていたランディスも最近は失敗作続きで、しまいにはドクター・オクトパスに惨殺されてたりするわけだが、なんかこの作品も監督の意欲と実際の出来がズレたものになってしまっていた。
タイトルの「スラッシャー」とは別に猟奇犯とかのことではなく、車のセールで客との値段交渉を行う販売員のこと。最初にワザと高い値段を設定しておき、そこから値段を切り下げる(=スラッシュ)ことで客に割安感を与えて車を買わせるのが彼の仕事である。この作品ではカリフォルニアに住むフリーのスラッシャーであるマイケル・ベネットがメンフィスで3日間のセールを委託され、いろいろ手を尽くして車を売りさばいていくさまが紹介されていく。(値段について)ウソをつくことが商売である彼の生き様と、アメリカの歴代大統領がついてきた数々のウソを重ね合わせるのがランディスの当初の目的だったらしいが、大統領の映像クリップの使用料がバカ高いことから断念したとか。一応ちょっとだけ冒頭にニクソンとかの映像が使われてるのだけど、それが実に余計というか、作品の内容とまったく関係ない程度に使われてるものだから困ってしまう。あと舞台となるメンフィスの貧しさ(フェデックス以外にまっとうな産業がない)にもランディスは驚嘆したらしいが、そんなことを表すような映像はまるで挿入されない。とりあえず田舎の人たちが中古車を買いに来て、十分に値下げがされてないとボヤく光景が淡々と紹介されるだけである。BGMにデルタ・ブルースがガンガン流れてるのは「ブルース・ブラザース」を彷彿とさせたが。

とにかく話に起伏がないというか、ひたすらセールの光景が映し出されるのが退屈でしょうがない。主人公のベネットはひたすら喋るハゲオヤジで、川崎あたりの安酒場でクダをまいてそうな奴だが2児のよきパパだし、言ってることはそれなりに真面目で自分の仕事に誇りをもったセールスマンである。客の要求に臨機応変に対応しながら巧みに車を売りつけるのだけど、その行為は至ってまっとうなものだ。思うにこのドキュメンタリーには、観る人の興味を引きつけるような「裏社会の真実」とか「商売の裏事情」といった要素がかなり欠けてるんじゃないだろうか。値段交渉でゴネまくる客もいるものの決して不条理な要求はないし、ベネットを雇った販売店の人たちも気の良さそうな人たちばかりである。88ドルまで値段が下がる車(もちろん廃車寸前)が1つだけあると宣伝して客を呼んだり、値段交渉のテクニックなどの小ネタが紹介されるものの、全体としては小さな販売店が貧しい人々を相手にセコセコと商売をしてるような、非常にこじんまりとした印象しか残らない。こんなんだったら数年前に日本で観た、パチンコ屋の開店にまつわるドキュメンタリーのほうが面白かったぞ。セールの最終日には客がほとんど集まらずベネットが焦るなか、販売店が「それなりに車はさばけたし、よしとしようか」といった感じでセールが普通に終了するラストが、この作品の凡庸さを物語っている。

もうこうなったら、ランディスの人気回復には「ビバリーヒルズ・コップ4」しかあるまい。