日本では「はじまりへの旅」という題で4月1日に公開。なおエルトン・ジョンの同名のアルバムとは何も関係なし。

ベン・キャッシュは俗世間に幻滅し、人里離れた山奥に移って6人の子供たちと暮らし、サバイバルの技術と資本主義に頼らないものの考え方を教えていた。彼の妻のレスリーは病気療養のため実家に戻っていたのだが、改善せずに亡くなったとの連絡がベンのもとに届く。ベンのことを好ましく思っていないレスリーの両親は、彼を招かずにキリスト教の葬式を挙げようとするが、レスリーは仏教徒であり火葬を望んでいたことを知っているベンは、レスリーの遺体を取り返すため、おんぼろバスを運転して子供たちとともにレスリーの両親のもとに向かうのだった…というあらすじ。

2時間の尺のうち1時間がロードムービー、1時間が両親たちとのやりとりという内訳で、ニューエイジ・カルトの人たちが山から下りてきたというプロットのクリーシェが満載でお腹いっぱい。同年代の女の子たちを見てドギマギする思春期の長男とか、ゲームばっかりやってる都会のクソガキに対して博識を披露する末の子とか、保守的な養父母に接するにあたって空気の読めない行動を繰り返す父親が、結局のところ自分の限界を知って苦悩するところとか、なんか他の映画でも見たよなあ、という展開が繰り返されるだけで目新しさはなし。もうちょっと話をヒネれば良かったのになあ。

ベンの一家はクリスマスの代わりにノーム・チョムスキーの誕生日を祝うような人たちで、スーパーでは代金を支払わずに万引きをしたりするものの、法律や科学について熱心に学んでいたりするのでそれなりに常識人として描かれている。監督のマット・ロスって俳優としての活動が有名な人で、自分の子育ての経験をもとに脚本を書いたらしいが、どうも主人公たちが美化されすぎている気がするんだよな。世間から離れて子を育てることって、例えば「Dogtooth」で描かれたような歪んだ家族になるリスクだって十分にあるはずなのだが、そこらへんは深く掘られず、主人公のベンはあくまでも「良い人」のままである。心を病んでいたという妻のレスリーがなぜそうなったのかという話があれば面白くなっただろうけど、遺体は何も語りません。あと最後にレスリーが好きだったという歌が披露されてね、個人的には選曲がかなり鼻白むものでした。

主人公のベンを演じるヴィゴ・モーテンセンはチンコ出したりして父親役を熱演し、アカデミー主演賞にノミネート。「リトル・ミス・サンシャイン」もそうだが、アカデミーってこういう役柄が好きなんでしょうね。一家の長男はどこかで見た顔だな、と思ったら「パレードへようこそ」のジョージ・マッケイだった。あとはスティーブ・ザーンとかフランク・ランジェラといった役者が脇を固めてます。

個人的にはピンとこない作品だったけど、まあ気に入るひとは気に入るんじゃないですか。日本で劇場公開されるだけマシかと。どことなく似た雰囲気のある「 Hunt for the Wilderpeople」なんてDVDも出ずにVODスルーですからね。ああ勿体ない。


感想をざっと。

・個人的な偏見で言わせてもらうと、そもそもドクター・ストレンジって映画で主役はれるキャラクターではないのである。コミックでもスティーブ・ディトコが描いていた60年代の最初期こそはディトコのサイケなデザインと当時のニューエイジ文化がうまくマッチして彼を人気キャラクターにのし上げたものの、それ以降は主役のシリーズがあっても、いまいちトップクラスのスーパーヒーローにはなれなかったような。DCコミックスの魔法キャラはアラン・ムーアやニール・ゲイマンのおかげで設定の凝ったキャラクターが多数いた一方で、マーベルは魔法世界や魔法キャラの設定が曖昧で、さほど確固としたグループが構築できなかったんだよな。よってドクター・ストレンジも他のヒーローのコミックに脇役として出てくる分には面白かったものの、主役となったシリーズはどれも評価がさほど高くなかったような覚えが。しかし90年代後半にジョー・ケサーダが編集長となってからはなぜか彼をゴリ推しする運動が始まり(これはケサーダも明言している)、それが決して成功しているとは思えなかったものの、こうしてハリウッドの大作映画も1つできてしまった。ケサーダはドクター・ストレンジがなぜそんなにも好きなのだろう。

・そして今回の映画版だけど内容は完全にオリジン・ストーリー。スーパーヒーロー映画の第1作がオリジン話になるのは仕方ないことだが、以前のアニメ映画でもオリジンをやってるので、またかよという気もしました。

・コズミック的な話を扱っているせいか、雰囲気は「マイティ・ソー」、特に「ダーク・ワールド」に近い。とりあえず脅威が現れて、とりあえず戦って、おいしいところは続編に残していくというか。この時点になるとマーベル映画はユニバース構築に勤しんでいて、1つの映画にすべてをブチ込むくらいの心意気で映画を作ってないのが残念。モンドの話とか、続編ありきで考えてるものね。その一方ではストレンジの高慢さからの改心とか、暗黒のパワーの正当性とか、もっと深く切り込める要素はあったのに、家族向け映画としての娯楽性を優先して、人間関係のドラマを深堀できなかったのが残念。ストレンジの事故のトラウマからの脱却とか、ナイト・ナースとの関係とか、元となったコミック「THE OATH」のほうがもっときちんと描いていたよね。多次元宇宙の映像とか、自在に動くビル群とか確かに見事であるものの、肝心のストーリーが弱いことは隠せないだろう。

・その一方で「これがマーベル映画だ!」という一定のクオリティは保たれているし演出も手堅いので、普通に楽しめる映画であることは間違いない。カンバーバッチもシャーロックっぽいけど適役だし、白人ということで議論を呼んだティルダ・スウィントンも相変わらず好演。マイケル・スタールバーグの出番はもうちょっと欲しかった。ベンジャミン・ブラットがずいぶんチョイ役だなと思ったら最後に出てきてましたね。

・あと今回から冒頭のマーベルロゴが一新され、コミックのページの映像が殆どなくなって、MCU映画の映像ばかりになったのが、なんかコミックをおろそかにしている気がして寂しいな。さらにこの映画ではムビチケや前売り券の一般販売が行われていなかったわけで、マーベル映画について何か変な囲い込みが行われてるのではないかと、一抹の不安を抱かずにはいられないのです。


感想をざっと。

・スコセッシの前作「ウルフ・オブ・ウォールストリート」はドタバタが続いて3時間があっという間の作品だったが、こちらは主人公たちが苦悩する姿が同じくらいの時間続くので、なかなか観ていてしんどい作品ではあったよ。大作ではあるのだが、シネコンで大勢で観る映画にしてはアートシネマすぎるというか。

・原作は読んでないので比較などはできません。なぜ日本ではそもそも根付かないのかということや、仏教との比較などについてもっと掘り下げて欲しかった気もするものの、そこらへんは原作だとどうなっているんだろう。ただ映画というのは必然的に映像の媒体であるわけで、目から映像が入ってきてしまうために神の痛々しい「沈黙」を表すのは小説に比べて不向きであるような気もする。

・その反面、映像の美しさは際立ったものがあった。撮影監督のロドリゴ・プリエトって「ウルフ〜」からスコセッシと組むようになった人なのか。台湾で撮影されたとはいえ日本の村のセットなどもよく出来ていたと思う。

・司祭にほとんど会ったことのない村民までもが英語に堪能なのはご愛嬌。というか劇中ではポルトガル語を話しているという設定なのか?

・役者は窪塚洋介よりも浅野忠信のほうが良かったと思う。悪役なので得しているというか。当初あの役は渡辺謙が演じる予定だったらしいけど、浅野忠信が演じて正解だったのでは。イッセー尾形は逆に役を作りすぎてしまったような印象を受けた。

・アンドリュー・ガーフィールドもね、彼の演技が巧いと思ったのはこれが初めてかもしれない。アダム・ドライバーは相当減量したらしいが、海兵隊仕込みの筋肉がまだ残ってるのでやけにガタイのいい司祭でありました。リーアム・ニーソンは長髪にするとどうしてもクワイ=ゴン・ジンに見えてしまう。スパイダーマンをダークサイドに誘うクワイ=ゴンさん。

・キリストの声をあてたのは誰だ?クレジットにないよね?直感的にモーガン・フリーマンかとも思ったけどたぶん違うだろう。

・音楽監修にロビー・ロバートソン。そもそも音楽なんてほとんど使われてない気がしたのだが、クレジット見たらずいぶん使われてましたね。サントラも出てるとか。

・スコセッシの作品としては「ウルフ〜」や「ヒューゴ」ほどではないと思ったけど、そもそもベクトルが違う作品なので比べるのは野暮でしょう。日本ではかつてこうしたことが起きていたんだよ、ということを知る意味でも、観ることに意義がある作品かと。


昨年にサンダンスなどで公開されて高い評価を得ていた作品。

11歳の少女トニは地元の体育館で兄と一緒にボクシングを習っていたが、たまたま目にしたチームダンスのレッスンに心を奪われ、ダンスのレッスンも受けて他の少女たちに追いつこうとする。しかしチームのなかで奇妙な痙攣を起こして卒倒する少女が表れ、さらに同様の症状を起こす少女が続出したことでトニは不安になっていく…というあらすじ。

ホラーっぽい演出もあるんだけどホラーではなくて、むしろ思春期を迎える少女の不安定な心境を映し出した内容になっている。72分という短い尺のなかでは怪奇現象に対する説明などは一切行われず、ムダな部分がないままトニの話が淡々と続いていく。セーレムの魔女狩りなどの集団パニックの話をベースにしているらしいが、怪奇現象に見舞われる人が続出した場合、むしろ症状が出ない人のほうが異端なのでは?ということも示唆されていて、題名の「FITS」は「痙攣」だけでなく「周囲にフィットすること」も意味していることがよく分かる。

監督のアナ・ローズ・ホーマーにとってこれがデビュー作になるらしい。著名な役者は出ていなくて、トニ役はロイヤリティー・ハイタワーというなんかカッコいい名前の女の子が演じている。この作品の好評価を受けて、監督も主演女優もこれから活躍していくんじゃないかと。ダンスのシーンもいいですよ。

いわゆるアートハウスシネマなので万人受けする作品ではないかもしれないが、映像も美しくそこそこ楽しめる作品だった。

上位5位と下位5位を、順不同で観た順に並べていく:

<上位5位>
・「ブリッジ・オブ・スパイ
あまり期待しないで観たら、唸るくらいに面白かった。主人公が1対2の捕虜交換に奔走する脚本が巧みなんだよな。

・「オデッセイ
主人公が難題を1つ1つ解決していくさまが、何度でも観られる映画。サバイバルに必要なのは信仰とかではなく科学なんだよという態度も素晴らしい。

・「ハードコア(・ヘンリー)
ギミック映画だと言ってしまえばそれまでなんだけど、意外としっかりSF映画してたし、シャールト・コプリーの演技は見事だった。

・「April and the Extraordinary World
今年は日本に限らず、アニメーションの当たり年だった。

・「Kubo and the Two Strings
もう1つのアニメの傑作。なんでこれが日本で公開されないのか、とんと分からん。

<下位5位>
・「ANOMALISA
なぜリサは日本語を習っているのか?彼女の最後の言葉の意味することは?といったことにまつわるファンセオリーも調べてみると興味深いですよ。
・「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
まあ今年のアメコミ映画は、「デッドプール」や「アポカリプス」よりもこれだろうなあ。
・「ハイ・ライズ
・「MIDNIGHT SPECIAL
空から火の玉が降ってくるシーンはとても良かった。
・「ロブスター」
かなり遅れて観たけど、ランティモス節が炸裂してて「アルプス」よりずっと良かったです。

インディペンデント系で高評価を得ている「グリーン・ルーム」や「Swiss Army Man」はそこまでいい作品だとは思わず。邦画はアニメも含めて興行成績が好調だったようですが、やはり「シン・ゴジラ」は全く肌にあいませんでした。あとはアカデミー賞にひっかかりそうな作品も最近はNetflixスルーというものが出てきて、劇場でかからない代わりに細分化された配信プラットフォームで独占配信されるというのがちょっと厄介なところです。

来年はアメコミ映画が5本?くらい公開されるようで、どんな出来になるでしょうね。個人的にはやはり「トレインスポッティング2」に期待したいところです。