「THE WAY BACK」鑑賞

「ミラクル」や大傑作「ウォーリアー」など、スポーツ感動もので定評のあるギャヴィン・オコナーの新たなスポーツもの。主演のベン・アフレックとは「ザ・アカウンタント コンサルタント」に続くタッグですな。

主人公のジャックは1年前に妻と別れて建築現場で働くアル中で、朝から晩までビールをグビグビ飲んで、運転中でも飲んでるような奴。しかし彼は高校時代は花形のバスケ選手であり、彼の恩師から母校のチームの監督になることを依頼される。当初は断るつもりだったジャックは酒を飲んで寝てしまったため断りの電話を入れることも出来ず、そのまま監督に就任する。彼の現役時代はプレーオフに進出していたようなチームも今は弱小集団と化し、最低限の数の選手たちが他校との試合に負け続けている次第だった。そんな彼らをジャックは熱意をもって叱咤し、試合に勝たせようとするのだが…というあらすじ。

まあスポーツものにおけるクリーシェは大体含まれていて、荒くれた指導方法とか、選手たちに熱意を持たせるところとか、最初コテンパンにされたライバル高へのリベンジとか、貧困家庭出身の生徒とか、主人公の暗い過去とか、その他もろもろ。でも流石に演出がこなれていて、決してクサい展開にはなったりせず、抑えた感じながら徐々に選手たちが自信をつけていって勝つようになっていく流れが見ていて心地よかったな。ライバル校との再戦とかね、結果は大体わかるもののやはり盛り上がる内容になってたりしますもの。

これはネタバレになるが、クライマックス的な勝利のあとに主人公の挫折が来るという珍しい展開になっている。まあアル中の映画の常として主人公が再び酒に溺れるわけですが、ジャックにもそれなりの理由があることが語られていき、ここもまたクサい展開にはなっていなかった。バーでしこたま飲んで運転するのはどうかと思うけどね。

出演はベン・アフレックのほかに元「デイリーショー」のアル・マドリガル、元「SNL」のミカエラ・ワトキンスといったコメディアンが真面目な役を演じてます。アフレックはご存知のように「アルゴ」でアカデミー賞を獲ったあとにアルコールやギャンブル中毒になって離婚し、最近はリハビリを受けたりしてたわけだが(しかし女性にはモテてアナ・デ・アルマスと付き合っている。許せねええ)、そのアルコールとの確執がこの作品の主人公の演技にメタな効果を与えていることは否めないだろう。でもそれもあってか今回の演技は批評家に絶賛されてるわけで、バットマンとか演じてるよりもこういう地に足のついた役のほうがこれからの彼には向いているんじゃないの。

「ウォーリアー」ほどのカタルシスを与えてくれるものではないが、手堅く作られた良作。

「CAPONE」鑑賞

ジョシュ・トランクの久々の新作。トランクといえばファウンド・フッテージ超能力SF「クロニクル」で華々しくデビューし、スーパーヒーロー映画「ファンタスティック・フォー」の監督に抜擢され、さらには「スター・ウォーズ」のスピンオフ映画も監督することが内定していた人。しかし「ファンタスティック」の興行的および批評的な大失敗、さらに現場での振る舞いが問題視されてその評判は失墜したわけで、もう映画を撮ることは難しいんじゃないかとも思われてたが、しっかり復活したわけです。しかも内容は今までと違って、晩年のアル・カポネを主人公にしたもの。

アルカトラズ刑務所などに長年服役したカポネは40代の若さながら梅毒によって精神をやられており、彼を脅威と見なさなくなった政府によって釈放され、妻のメイたちと暮らすようになる。しかし彼の症状は日を追うごとに悪化していき、現実と妄想の区別がつかなくなっていた…というあらすじ。

内容はほんとこれだけ。痴呆老人と化したカポネが、妄想の世界にとらわれながら失禁したり脱糞したりして周囲に迷惑かけるだけの光景が、2時間弱のあいだにずっと続けられるだけなの。いちおうカポネが大金を隠してるんじゃないかとか、彼の釈放後もFBIが彼をずっと監視しているという設定もあるのだが、まっとうな伏線にもなっていない。

カポネが凶行に走る→妄想でした。また凶行に走る→また妄想でした、という展開の繰り返しなので、どんなに過激な展開があっても、また夢オチじゃね?と思ってしまうのでスリルもサスペンスもなし。カポネはもはやまっとうな発言をすることも出来ず、片言の英語とイタリア語を呟きながらウロウロしているだけ。

これが彼の過去のマフィアとしての行いに結びついているという説明があるとか、妄想がすごく美しく撮られているといった取り柄があれば前衛アート映画っぽく見ることもできただろうが、そういうのも全くなし。監督は何をやりたかったんだろう?という疑問だけが残る、なかなかしんどい作品だった。

カポネを演じるのはトム・ハーディだが、タワゴトを呟いてウロウロするだけの役なのですごく彼を無駄遣いしているような。彼の薄幸な奥さん役に、最近は薄幸な女性の役が多い気がするリンダ・カーデリーニ。あとはマット・ディロンとかカイル・マクラクランといった渋い役者が共演してます。俺の好きなコメディアンのニール・ブレナンも真面目な役でちょっと出てたな。

おれ「クロニクル」は傑作だと思ってるし、ジョシュ・トランクは応援したいと考えてるのですが、この作品はキツかった…。これから彼はどうするんですかね?せめて伝記映画ではなくSFに戻ってきて欲しいと思うのだが…。

「ARKANSAS」鑑賞

クラーク・デュークの初監督作。クラーク・デュークってあまり日本では知られてない役者で、代表作は「キック・アス」とか「HOT TUB TIME MACHINE」あたりか?小太りの童顔なので「未熟なオタク」役を演じてる印象があるけどもう30代半ばだし、子役出身なのでキャリアはすごく長いベテランなんだよな。そんな彼がジョン・ブランドンという作家の小説を映画化したもの。

麻薬の売人をやっているカイルは組織のボスである、フロッグという名の謎の人物の命令を受け、同じ組織のスインという男と合流して麻薬を南部へ運ぶことになる。途中で彼らは森林公園のレンジャーに尋問されてパニックに陥るが、そのレンジャーもまた組織の一員だった。そしてカイルとスインはレンジャーの部下として公園に住みつつ、各地に麻薬を運ぶ仕事をするのだが…というあらすじ。

まあ例によって仕事の途中にトラブルが起きて、それがさらなる問題を巻き起こしていくという展開。5章に分かれた形式をとっているのだが、2章と4章はフロッグの過去が描かれ、彼がいかに麻薬王へとのし上がっていったかが説明される。

全体的にフィルム・ノワールというかサザン・ゴシックの形式をとってるのだが、それにしてはエゲつない暴力描写はあまりなくて、比較的おとなしい内容になっているという印象。画面が妙に暗かったようなのは気のせいか?せっかく現在のカイルと過去のフロッグの姿を念入りに描いてるのに、二人が出会うクライマックスがあまり盛り上がってないのが残念。

こないだの「THE JESUS ROLLS」同様、役者が監督やった際のコネか出演者はやけに豪華で、リーアム・ヘムズワース、ジョン・マルコビッチ、ヴィンス・ヴォーン、マイケル・K・ウィリアムズ、ヴィヴィカ・A・フォックスなどなど。クラーク・デューク本人も弟と出ているほか、なぜかフレーミング・リップスのウェイン・コインなども出ていました。

これだけいい役者が揃ってるのに、どうも無難な話にしてしまったのが勿体ないな。説明的なセリフが多いのも、いかにも初心者監督だな、という感じはあるものの、全体的には悪くない線を行っていると思うので、今後のさらない監督業に期待しましょう。

「VIVARIUM」鑑賞

昨年の個人的ベスト映画の1つである「THE ART OF SELF-DEFENSE」のイモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグという黄金コンビ(?)の新作。冒頭から出資会社のロゴが10社くらい続けて流れるのに驚くが、ヨーロッパのいろんな会社が関わってるみたい。以下はかなりネタバレしてるので注意。

ジェマとトムの若き夫妻は住む家を探しており、マーティンという奇妙な不動産業者に連れられてヨンダーという住宅地へと足を運ぶ。そこは同じ家が立ち並ぶ人気のない郊外で、そのうちの家の1つの案内を受けた二人は、マーティンに置いてけぼりにされたことに気付く。そして自分たちでヨンダーを出ようとした二人だが、どこに行ってもヨンダーを抜け出すことはできず、同じ家の前に戻ってきてしまう。こうして住宅街に囚われてしまった二人だが、食糧や日常品が入った謎の箱がどこからか送られてくるため、最低限の生活を送ることができた。そしてさらには赤ん坊の入った箱が送られてきて…というあらすじ。

脱出ものというよりも不条理SFホラーという出来になっていて、ジェマ達が具体的に何日間(何年間)ヨンダーで暮らしているのか、といった描写はほとんどなし。二人が脱出を諦めるなか、箱で届けられた赤ん坊は不気味な少年に成長していく。作品の冒頭にカッコウの托卵の光景が映されるのだが、まあわかりやすいメタファーですね。

これ内容はJG・バラードの小説あたりにかなり影響を受けてそうな気がするのだが、実際どうなんだろう?ヨンダーにはジェマ達しか暮らしていないので、テクノロジー三部作とか「殺す」みたいな郊外文化の風刺にはなっていないけど、バラードの初期のSF短編っぽい雰囲気を感じました。

1つのネタで勝負している作品なので、「トワイライト・ゾーン」のエピソードを長くしたというか、99分という尺ながら少し中弛みしている感もあるし、演出がもっと優れていれば(監督のローカン・フィネガンはこれが2作目)、より面白くなっただろうシーンもあるのだが、個人的にはかなりツボにはまった良作だった。エンドクレジットでXTCが流れる映画なんて、人生でそんなに出会えるものじゃないですぜ。「THE ART OF SELF-DEFENSE」とともに早く日本でも公開すればいいのに。

「BRAVE NEW WORLD」鑑賞

NBCユニバーサルの配信サービス「Peacock」が今週開始されたのだよ。広告付きの無料オプションと、広告あり/なしで追加コンテンツが視聴できる2種類のプレミアムオプションというプラン分けのほか、NBC子会社のケーブルサービスに加入してると無料で観られるあたり、Disney+やHBO MAXよりもApple TV+のような既存サービスの付加価値的な役目を果たすのかな?品揃えはユニバーサル作品の旧作がいろいろあって、まあ目新しさはないけど手堅いラインナップという感じ。

とはいえ最近のトレンドとしてオリジナルシリーズの1つや2つは持ってないといけないわけで、これがその1つ。オルダス・ハクスリーのディストピア小説「すばらしい新世界」を原作にしたもので、ライター兼プロデューサーにグラント・モリソンが関わっている。もともとSYFY用に作られたシリーズのようで、「HAPPY!」つながりでモリソンに声がかかったんだろうか。

舞台は原作と大体同じで、いまから数百年後のニュー・ロンドン。人々は遺伝子操作によってアルファからイプシロンまで5つの身分階級に分かれて生まれ、自らの身分に不満を抱くこともなく上の階級に仕えて暮らしていた。バーナード・マルクスは最上級のアルファ・プラスに属する身分で、人を高揚させるドラッグ「ソーマ」を分け与えられる立場にいたが、彼自身が何かしらの不安を抱えていた。そんな彼は部下の美女レーニナを連れてアメリカの蛮人保存地区へ観光に行くが、そこでトラブルに巻き込まれ…というあらすじ。

「現代社会をよく表してるのは『1984年』よりも『素晴らしい新世界』だよねー」って厨二病の決めゼリフのようであんま言いたくないのだが、実際のところ国民がなんとなく抑圧されて不幸せに生きている「1984年」よりも、自分の与えられた境遇に満足し、ドラッグとフリーセックスにうつつを抜かして政府への不満など抱かない国民が出てくる「新世界」のほうが現代の風刺としてはより効力があると言えるのではないか。みんなハイになってパーティーをやってるなかでも劣等感を抱くバーナードとか、いかにも管理職の小市民的な悩みで面白かったじゃん。

このシリーズも大まかな設定は原作と同じで、アルファやベータ階級の雑用はイプシロンたちが行い、上流階級はパーティーと乱行に明け暮れてる次第。乱行シーンとかはSYFYでも放送できなかっただろうな。ただ原作だと蛮人保存地区はネイティブ・アメリカンの居住地で、そこで育った白人の蛮人ジョンはシェイクスピアを愛する知的な青年という設定だったが、こちらでは蛮人保存地区に住むのは世界政府の管理を拒否したアメリカの田舎のホワイト・トラッシュたちで、ジョンもその一人ということになっている。

そして原作と異なり、その保存地区に住む白人たちは見世物扱いされることに反発して外部からの見学者に襲いかかることになる。またニュー・ロンドンでもイプシロンたちが何かしらの陰謀を企てていることが示唆されるのだが、ここらへんの展開はもろにHBOの「ウェストワールド」でして、いまそれをやるかい!という感じでした。

キャストはそれなりに豪華で、野蛮人のジョン役に若きハン・ソロことオールデン・エアエンライク、バーナード役にハリー・ロイド、あとはデミ・ムーアやハナ・ジョン=カーメンなんかも出演しています。

原作はもっとスピード感があって、特に後半はジョンの新世界における奮闘と空回りがグイグイ進んでいく感じだったが、こちらは全9話のシリーズにして、アクションシーンを加えたりしたことで逆にテーマが散漫になってしまった印象も受ける。批評家の評判もあまり良くないみたいだけど、まだ数話しか観てないのでもうちょっと続けて観てみます。