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巨匠フリッツ・ラングが1924年に公開した「ニーベルンゲン」2部作の後編「ニーベルンゲン~クリームヒルトの復讐」を観た。第1部の「ジークフリート」は5年くらい前に観たのかな。120分を超えるバージョンもあるらしいけど、俺が観たのは90分ちょっとのものだった。

俺は前から神話とか民間伝承が大好きで、現代の偽善的な「政治的に正しい」平等主義などお構いなしに、人間(もしくは神々)のあざとさとかえげつなさが意外と露骨に描き出されているところに魅力を感じるのです。例えば日本神話の国産みの話だって、女(イザナミ)のほうが男(イザナギ)よりも性行為に積極的だったからという理由で障害児(ヒルコ)が産まれ、仕方ないから船に乗せて流して捨てたという実に差別的なものであるわけで、別に俺は差別を助長する気はないけど、このように現代社会では明らかにタブーとされている内容に逆に新鮮味を感じてしまうわけだ。

そしてこのドイツの民間伝承(叙事詩)である「ニーベルンゲン」も本で読んだときは大きな衝撃を受けたっけ。ワグナーの「指輪」のような耽美的でナヨナヨとしたものとは違い、文字通り血で血を洗う争いが繰り広げられるその内容にはただ圧倒されるのみ。英雄ジークフリートが暗殺によって非業の死を遂げる場面が特に有名だが、あれだってもともとは妻のクリームヒルトが兄貴の妻にミエを張って痴話ゲンカをしたのが発端なわけで、そんなことのためにジークフリートは殺されたわけですよ。

それから物語の後半となる「クリームヒルトの復讐」では壮絶なる復讐劇が繰り広げられ、何千人もが血祭りにあげられるという実に凄まじい展開になってしまう。しかも悲劇の王女だったクリームヒルトはすぐに復讐に燃える悪女になってしまうし、その兄のギュンター王は何もできないデクノボーだし、ジークフリートを殺したハーゲンは悪役のくせにやたらカッコいいし、誰ひとり善人がいないまま殺戮が繰り返され、何の教訓も残さないまま終わる物語は素晴らしいとしか言いようがない。

そしてこの映画版だが、内容は基本的に原作(?)に忠実。ハーゲンのフン族の国への訪問よりもクリームヒルトの嫁入りに時間を割いてるかな。セットが小さくて人物に寄ったショットが大きく、字幕の画面が頻繁に出てくることもあって、なんか紙芝居を見てるような気になってしまう。ラングがこの後に撮った史上最高の大傑作「メトロポリス」の壮大さが無いのは仕方ないにしろ、第1部の竜退治のようなシーンもなく、全体的にチマチマした印象を受けるのは否めない。でもクリームヒルトの衣装デザインなどは凝っている。あと原作で火攻めにあったハーゲンたちがのどの渇きをいやすために、仲間の死体の血をゴクゴク飲んで「ああ、うめえ!」なんて言うとんでもないシーンはなし。ちょっと期待してたんだが。

ちなみに冒頭に「ワグナーはこの作品をもとにオペラを作った」という説明が流れるんだが、1924年といえばドイツではナチスが台頭してきた頃でもあるわけで、この映画はワグナー絡みのプロパガンダの一環として作られたんだろうか(ラングは後に亡命するけど)?でもまあ前述したように、観終わっても心に何の教訓も残らない作品ではあるんだけどね。

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