「CONCLAVE」鑑賞

日本では「教皇選挙」の題名で3月に公開。その名の通りバチカンを舞台にした、新しい教皇の選出にまつわるスリラー。

比較的リベラル寄りだった(らしい)教皇がバチカンで突然崩御する。彼の死を嘆く間も無く枢機卿のローレンスは新たな教皇を選出するための選挙(コンクラーベ)の手配を仕切る役目に就く。選挙のために世界中から枢機卿たちが集まるなか、リベラル派のローレンスたちは前の教皇に批判的だった保守派の候補が新教皇に選ばれるのを阻止しようと画策するものの、自分達が推す候補にもなかなか票が集まらない。そして他の候補や、今まで存在を知られていなかった新しい枢機卿が加わることで選挙は混乱を極めていく…というあらすじ。

あまり内容ついて深く語るとネタバレになるので書かないが、保守派の候補の当選を防ぐためにローレンスたちが裏で手回しを試みて根比べ(失礼)を行う一方で、他の候補も裏工作を試み、さらには前の教皇が死の直前に何をしていたのか?という事実が暴かれていくという上質のサスペンスになっている。

実際のバチカンも内情はドロドロしているというのが世間にも漏れ伝わってきているけど、こちらも候補同士で相手の醜聞を暴いたりと、なかなかエグいことをやってます。みんな揃って同じ服を着て一緒に寝泊まりしてるので、ちょっと学園ドラマっぽいノリもあったりする。庵野秀明のような外見の保守派の候補の言動が横柄で、彼が当選すればバチカンの進展を一気に後退させると懸念されてるあたり、こないだのアメリカ大統領選挙を彷彿させるところもあった。

それぞれの候補者が抱えている秘密を解き明かそうと、限られた時間のなかで奮闘するローレンス役にレイフ・ファインズ。彼が推すリベラルな候補役にスタンリー・トゥッチ、ふたりよりも保守的な候補にジョン・リスゴーといいオッサン俳優が揃ってます。シスター役のイザベラ・ロッセリーニも出番は決して多くないもの印象的だった。

誰が教皇に選出されるのかまるで分からないなか、いろんな事実が明かされて優位な候補の座がコロコロ変わる展開は見応えあり。ラストのオチは結構唐突で賛否両論あるかもしれないが面白かったし、海外で評判が高いのも頷ける良作。

「IN A VIOLENT NATURE」鑑賞

評判の良いカナダのスラッシャー映画。以下はネタバレ注意。

舞台はどこかの山奥。そこのキャンプ場にきていた若者たちが火の見やぐらの跡地にあったペンダントを盗んだことから、それによって封印されていた殺人鬼の怪物ジョニーが復活、母親の形見でもあるペンダントを取り返すために彼は若者たちを執拗に殺していく…というあらすじ。

手っ取り早く言えば「13日の金曜日」のパスティーシュなのだが、特徴的なのが話がジョニーの観点で進んでいくこと。ゲームで言えば「ドゥーム」のようなPOV形式ではなく、「グランド・セフト・オート」みたくジョニーを背後から眺める形で、彼が森のなかを歩き回り獲物たちに近づいていくさまを観る人は体験していく。画角はほぼ正方形で劇中は音楽が流れず、淡々とジョニーの背中を見せられる展開は人によって好みが別れるだろうけど個人的には興味深かったです。

昔の消防士のマスクを被り、材木用の鉄の鉤を使って黙々と若者たちを血祭りにあげていくジョニーは一言もセリフを話さず、水中でも行動できて銃で撃たれても死なない怪物。まあ「13日の金曜日」のジェイソン君だね。彼にまつわる伝説は他の登場人物の口から語られ、どうも過去にも復活したことが示唆されるのが「ホラー映画の続編」っぽさを醸し出している。当初はジョニーの正面もろくに映し出されず、ムード感重視の内容だけど途中からグロ描写がいろいろ出てきてますよ。ジョニーは怪力の持ち主で機敏なところもあるもののノソノソ歩くだけで走れないのに、彼から逃げる犠牲者たちがやけに足を負傷するのはご愛嬌。

監督のクリス・ナッシュってこれが長編デビュー作なのかな。出演者もほぼ無名の役者ばかりだがオマージュ的に出演している人が1名。北米での評判は良いようで続編の製作も発表されたらしい。王道のホラーにうまくヒネリを加えたアイデアの勝利ですかね。

「THE SUBSTANCE」鑑賞

今年のカンヌ映画祭とかでいろいろ話題になったボディホラー。以下はネタバレ注意。

エリザベス・スパークルはハリウッドのウォーク・オブ・フェイムにも星が飾られているほどの有名スターだったが、50歳になったのにつれて人気は低迷し、ホストを務めるフィットネス番組からも切られようとしていた。そんな彼女はふとしたことから「サブスタンス」と呼ばれる謎の若返りの薬のことを知り、ダメ元で自分に試してみる。すると彼女の背中を破って出てきたのは、若く美しいもう一人の自分であった。スーと名乗ることにしたその美女とエリザベスはあくまでも同一人物であり、お互いの体のバランスを保つために1週間ごとに体を入れ替えなければならない。そして美しいスーはまたたくまにハリウッドの注目の的になってスターの座を満喫するのだが、年取ったエリザベスの体に戻ることを拒否したことで両者のバランスが崩れていき…というあらすじ。

ストーリーそのものは「ジキル博士とハイド氏」や「ドリアン・グレイの肖像」みたいに古典的なもので、新しく手に入れた快楽を堪能する自分の第二人格が暴走していく内容であり、オチもなんとなく見えてしまうけれどもそれに至るまでの過程が面白いというかグロいの。

監督のコラリー・ファルジャはデビッド・クローネンバーグの影響を公言していて、往年のクローネンバーグのボディホラー作品を踏襲した描写が散見される(あとキューブリックを意識したショットもあり)。その一方で、女性監督ということもあり女性の若さ・美しさだけが賛美されて消費されていく現代社会を批判しつつ、女性の体の際どい描写なども変に性的にならずに率直に撮っていて、クローネンバーグ作品とはまた違ってフェミニスト的要素が強いボディホラーというのが興味深かった。この監督、長編はこれでまだ2本目なのだが映像がすごい綺麗なんだよな。

自身の若さ・美しさに固執するエリザベスを演じるのがデミ・ムーア。実生活でも言っちゃ悪いが最近はパッとした作品のなかった俳優なので役に妙なリアリティを加えている。そんな彼女から生まれて、同一人物のはずがエリザベスをどんどん敵視していくスー役にマーガレット・クアリー。アンディ・マクダウェルの娘なんですね。あとはエリザベスの番組のプロデューサーで、金と視聴率のことしか考えていない横柄な男の役にデニス・クエイド。もとはレイ・リオッタが演じる予定だったのを彼が亡くなったのでクエイドが引き継いだらしいが、ご存知の通り最近クエイドはドナルド・トランプ支持を表明したりしてちょっとヤバい人になってきているので、こういう脂ぎったイヤミな男の役は妙にリアリティがあったぞ。

まあ50歳のエリザベスの役を61歳のデミ・ムーアが演じている時点で、実際のハリウッドって女性の歳はあまり気にされてないんじゃないか?と思ったりもするのだが、スタイリッシュなボディホラー(ただし最後の展開はエグいよ)としてかなり楽しめる作品だった。

「ドリーム・シナリオ」鑑賞

ニコラス・ケイジ主演の不条理コメディ。日本公開は11月。以降はネタバレ注意。

ポールは小さな大学で進化生物学を教えているしがない教授だったが、自分の娘をはじめとして他の人たちの夢のなかに彼が登場するということが話題になり、彼を夢のなかで見たという人が何百人も出てきたことで彼は一躍有名人になる。夢のなかの彼はただ突っ立って出来事を眺めているだけという役割だったが、彼の存在は宣伝に使えると考えたマーケティング会社にポールはコンタクトされる。それが自分の研究書の出版につながるかもしれないと考えた彼は会社の話を聞くことにするものの、人の夢のなかのポールがあらぬ行動をとるようになってしまい…というあらすじ。

元ネタは都市伝説の「THIS MAN」だろうし、プロデューサーとしてアリ・アスターが関わっているもののホラーの要素は殆どなくて、むしろチャーリー・カウフマンの作品のような不条理コメディのような内容になっている。自分の知らないところで勝手に人の夢のなかに登場させられて、やがて気持ち悪がられて世間一般から拒絶されるポールが不憫すぎて泣けてくるのよ。カフカ的とでもいうんだろうか。

そんな哀れなポールを演じるのが、最近いい映画に出まくっているニコラス・ケイジ。ハゲたさえないオッサンを熱演しています。ほかにディラン・ベイカーやマイケル・セラ、ティム・メドウスなど俺好みの役者が脇を固めている。監督のクリストファー・ボルグリって、前作「SICK OF MYSELF」もチェックしないとな。

ネタバレになるのであまり内容について詳しくは書かないけど、個人的にはかなり面白かった。話の終わらせ方も、かなり難しい設定のなかでうまく着地できたほうなんじゃないの。万人受けする作品ではないだろうけど俺はこういうの好きです。

「シビル・ウォー アメリカ最後の日」鑑賞

アレックス・ガーランドの新作で日本では来月公開。

大規模な内戦状態に陥ったアメリカを舞台にした物語だが、なぜそういう状態になったのかの説明は劇中で殆ど行われない。大統領の任期が(強権的に?)3期目にまで入り、従来なら政治志向が異なるカリフォルニア州とテキサス州が大統領に反発して結束し、反政府軍としてワシントンDCに攻め込んでいることはセリフの端々から推測できるものの明確な説明はなし。主人公である新聞社のフォトグラファーとジャーナリストたちは大統領へのインタビューを試みようとニューヨークから遠回りしてホワイトハウスへ向かうものの、その道中でさまざまな戦時中の光景を目にすることになる、というあらすじ。

主人公たちは報道機関の関係者ということで、武器を持たず戦闘にも参加せず、あくまでも中立という立場で道中の出来事を目撃していく。彼らが遭遇する兵士や一般人たちも、政府側なのか反政府側なのかはっきりしないまま、ただ戦時下における混沌とした状態が映し出されていく。一部の地域では自警団となった市民が同じ住民をリンチしている一方で、ある町では戦火を避けて普通の日常生活を送ろうと試み、別のところでは白人至上主義者の兵士が軍のポリシーなど無視して好き勝手やってるなど。話の設定は「DMZ」(の原作のほう)に近いけど、戦争が起きている地域での様々な光景が次々と出てくるあたりは「ハート・ロッカー」に近いかなと思いました。

当然ストーリーの根底には政治的な要素があるものの、設定が非現実的というかディストピアSFに近いところもあって、現在アメリカの政治のアレゴリーになっているかどうかはよく分からず。「ろくでもない大統領を選ぶと大変なことになるよ」というメッセージは伝わってくるけどね。カリフォルニアはまだしもテキサスって戦争になったら弱そうで、周囲の南部州に潰されそうな気もするがどうなんだろう。

主人公のフォトグラファー役にはキルステン・ダンスト。彼女に同行するジャーナリスト役のヴァグネル・モウラが良かったな。こないだ「エイリアン ロムルス」で主役を務めたケイリー・スピーニーも新人カメラマン役で出ています。夜間の戦闘を撮影するのに白黒フィルムのカメラを使ってるが賢いのかどうかわかりませんが、まあいいや。あとはガーランド映画の常連であるソノヤ・ミズノをはじめ、ニック・オファーマンやスティーヴン・ヘンダーソンといった「DEVS」のキャストがいろいろ出ています。

A24制作の映画ながら最後のホワイトハウス進撃のシーンとかは下手なアクション映画よりも迫力あるし、普通に見応えのある作品ではあった。たぶん現実にこういった内戦は起きないと思うけど。たぶん。