「IS THIS THING ON?」鑑賞

日本では「これって生きてる?」という直訳タイトルで4月公開、ブラッドリー・クーパーの監督映画(本人もチョイ役で出ている)。

アレックスは妻のテスとの間に2人の子供がいたが、夫婦の仲はうまく行かず離婚の協議中だった。そんな彼はふらっと入ったバーでスタンダップコメディに飛び込みで挑戦し、家庭の不満をぶちまけたところまあまあウケが良かったため、その後もスタンダップにはまっていく。ステージ上では夫婦生活をネタにしながらも、私生活ではどうにかテスとの仲を改善しようとアレックスは試みるのだったが…というあらすじ。

スタンダップのモノローグが主人公の心の叫び&セラピーになっている作りはいかにもな、という内容ではあるのですが、以前の「The Opening Act」のようにコメディクラブの裏側が覗ける作品は好きなので結構楽しめた。ステージ上のアレックスの顔をアップで映し、観客の姿は殆ど見せないようにして彼が画面に向かって独白しているかのよう。

アレックスを演じるウィル・アーネットはカナダ出身のコメディアンで、「アレステッド・ディベロップメント」の長兄役でブレークした人。日本だと「レゴ・バットマン」や「ボージャック・ホースマン」の声優として知られてるのかな。スタンダップ出身の人ではないけれど、この作品ではやつれたスタンダップ・コメディアンを好演している。私生活ではコメディアンのエイミー・ポーラーと結婚して2児をもうけて離婚してるので、その経験がこの作品に結びついているのかと思ったけど(彼も脚本を担当)、実際はイギリスのコメディアン、スティーブン・ビショップ(「ドクター・フー」に出てた彼だ)の経験をベースにしているそうな。

テス役はローラ・ダーンで、こちらも生活に疲れた人妻を演じさせると抜群に上手い。あとはコメディ業界からエイミー・セダリスやショーン・ヘイズなどがチョイ役で出ているほか、キアラン・ハインズが出ていた。

ブラッドリー・クーパーの映画って「苦悩するアーティスト」を肩に力いれて演じているような印象があって、こないだの「マエストロ」とかは観る気にもなれなかったのですが、今回はハンドカメラで小ぢんまり撮った小品といった感じで悪くはなかった。個人的には「アレステッド・ディベロップメント」からのウィル・アーネットのファンなので、これで日本でも彼の知名度が上がることを期待。

なおネタバレ:最後はクイーン&ボウイの「UNDER PRESSURE」で締めるのですが、あの曲を使ったラストは「WORLD’S GREATEST DAD」が完璧にやってしまったので他の映画は試みないほうが無難だと思う。

「TWINLESS」鑑賞

昨年よい評判を目にしていたサンダンス映画。以下はネタバレ注意。

双子の兄弟のロッキーを交通事故で亡くしたローマンは、悲しみを和らげるために自分と同様に双子を亡くしたセラピーグループに参加し、そこでデニスというゲイの男性と知り合う。ローマンはストレートだがロッキーがゲイだったので彼はデニスに親近感を抱き、二人はすぐに仲良くなる。しかし実はデニスはロッキーのかつての恋人であり、彼のことが忘れられなかったために自分にも双子がいたという嘘をついてグループに参加し、ローマンにロッキーの面影を感じるのだった…というあらすじ。

あらすじだとストーカーもののホラーに聞こえるかもしれないがそんなことはなくて、本国だとブラックコメディという紹介も見かけるが、もっとしっとりしたクィアロマンスものだった。デニスは愛していたロッキーの姿をローマンに投影し、ロッキーと疎遠だったローマンは彼の生前の様子をデニスを通じて知る。自分でない人間と自分のアイデンティティの境界が曖昧になっていく過程は、初期のポール・オースターの小説みたいだった。

主演はディラン・オブライエンで、なんかやけに筋肉がついた体を見せつけてくれるのだけど、実質的な主人公は監督・脚本も務めるジェームズ・スィーニーが演じるデニスで、虚構の双子を作り上げてまでローマンに近づいていく心の葛藤が話の中心になっている。スィーニー自身がゲイだそうで、いろいろ現実に基づいているんだろうな。あとはローマンとケンカしてばかりの母親をローレン・グレアムが演じてました。

デニス(アジア系)が大阪生まれで、ローマンも東京に暮らしてたという設定になっているものの、両者の話す日本語がグダグダだったのには苦笑したが、ちょっと不思議な設定の、余韻の残る作品だった。

2025年の映画トップ10

今年は結構当たり年だったような?以下は順不同で。

野生の島のロズ

今年のアニメ作品はこれが好き。クリス・サンダースは相変わらず感情の盛り上げ方がうまいなと。子供を育ててるママさんならもっと響いたのではないでしょうか。

プレデター 最凶頂上決戦

アニメはこれも良かった。「エイリアン」がなんかジュヴナイル冒険ものになっていく(「ロムルス」と「アース」な)一方で、「プレデター」が復権するとは数年前には想像できなかったな。配信オンリーだったけどアクション描写などは「バッドランズ」よりも遥かに優れていた。

スーパーマン

自分の観たかったDCのスーパーヒーローがやっと戻ってきたという感じ。予告編では両親がなんか田舎者くさいな…と思っていたら、ラストでいやいや田舎者なりに愛情を注いでいるんだよ、という描写がされていて良かったです。

罪人たち」「THE UGLY STEPSISTER」「THE SHROUDS」「ウェポンズ」「28年後…」

今年は優れたホラー作品が多かった。あるいはホラーというスタイルだけをとって作者がメッセージを訴えた作品が多かったということか。「罪人たち」は黒人とアイリッシュの音楽の物語をホラーに見事に練り込んでいたし。「アグリー・シスター」は最後に、すべてを失った主人公が逆に毒親から解放されることを実感して「てへっ」と笑うシーンが本当に衝撃的だったんですよ。「THE SHROUDS」も今になってクローネンバーグが新境地に達したような作品で、これが引退作になるとかいうのは勿体無い。これらに比べて「ウェポンズ」と「28年後」はやや見劣りするが、特に後者は今後の続編に期待を込めておく。

エディントンへようこそ

アリ・アスターの監督作品だけどこれはホラーではないよな。コロナ禍の雰囲気をよく押さえた秀作。

「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」

最後の1本はほかにもいろいろ候補があるのだけど、人生を網羅した伝記映画になるのではなく、ディランの1つの時代をピシッと締めた演出が好きだったので。

世間で評判のよい「ワン・バトル・アフター・アナザー」は映画としては良い作品だったものの、原作が「ヴァインランド」だと言われると、いやそれはないでしょ、と考えてしまう点で損をしている。日本で評判のいい「教皇選挙」や「トワイライト・ウォリアーズ」は昨年観た。ウェス・アンダーソンの新作はなんか興味を抱けないうちに見逃してしまって、あとは「ニーキャップ」とかも観たいのだけどね。来年機会をつくって観るようにします。

「The Ugly Stepsister」鑑賞

日本では「アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし」の邦題で1月に上映されるらしい北欧(ノルウェー)映画。以下はネタバレ注意。

舞台は近代ヨーロッパ。姉妹であるエルヴィラとアルマは、その母親がオットーという男性と再婚したことで、彼の連れ子であるアグネスという少女と義理の姉妹になる。しかしオットーは急死し、母親が期待していたような遺産もなかったことから一家は窮困に陥る。そこで母親はエルヴィラを国の王子と結婚させようとするものの、エルヴィラは決して器量良しではなかったために彼女に過度の整形手術を施そうとする。一方で美人のアグネスは義理の母親に疎んじられて家政婦にされていたものの、彼女もまた王子の気を惹こうとするのだった…というあらすじ。

これ物語の序盤では明らかにされないが、要するに「シンデレラ」を「いじわるな姉」の観点から描いたもの。基の物語では腹黒い姉のエルヴィラも、ここではそれなりに純真であるものの自分が美しくないことにコンプレックスを抱いており、母親が命じる通りにバレエのレッスンでしごかれたり、整形手術での激痛に耐えたり、痩せるために寄生虫の卵を飲んだりと、文字通り血を吐くような努力をして王子に見染められようとする。

その肝心の王子は性格が悪そうな女たらしだし、シンデレラことアグネスも当初はエルヴィラたちの身分を見下して、陰で馬飼と寝ているような女性。そんな性格のひねくれた人物たちのなかで、エルヴィラは母親の期待に応えようと必死に努力する。

整形手術のシーンとかは完全なボディホラーになっていて、昨年の「サブスタンス」に通じるものがあるのだけど、個人的にはむかし読んだ好美のぼるのホラー漫画を連想したよ。いじめっ子の少女が、清楚なヒロインに呪いをかけるために魚を咥えて夜の池に飛び込むなどして(何故だ?)体を張って頑張るものの、ヒロインのほうがしたたかでその努力が無駄に終わる、とかいう内容のやつ。まあこの作品も「シンデレラ」なので、エルヴィラの努力がどうなるかは分かりますね。努力がすべて無駄に終わる人、って感情移入せざるを得ないのよな。

作品としてはボディホラーとブラックコメディーと社会(階級)風刺が絶妙に混ざってかなり面白い出来になっており、主人公をシンデレラではなくその姉にしたことでいろいろ考えさせられる内容になっていた。よくネタにされる「本当は怖いグリム童話」系の話を、きちんと映像化するとこうなるという好例。監督・脚本のエミリア・ブリックフェルトってこれがデビュー作だそうで、今後の活躍が期待できる人かも。

「WEAPONS」鑑賞

今週末の日本公開より少し先に観てしまいました。感想をざっと。以下はネタバレ注意。

・アメリカのごく普通の小さな町で、真夜中に一斉に17人の子供たちが行方不明になった事件を描いた内容で、ミステリーというよりもホラーの要素が多い。

・ストーリーは登場人物の名前がついた章に分けられていて、その人物の観点から話が語られ、事件の裏に一体何があったのかが徐々に明かされていく仕組み。こないだの「ハウス・オブ・ダイナマイト」なんかは、ミサイル着弾までの10数分間の過程が3回にもわたって繰り返し描かれたことで緊迫感が薄まったのが興醒めだったが、こちらは各人物のバックグラウンドを説明しつつ、事件に関する手がかりが少しづつ明らかになる過程に醍醐味あり。

・監督のザック・クレッガーは前作「バーバリアン」で、「民泊に来たらすでに謎の人物がそこにいた」というそそる設定を冒頭で打ち出しておきながら、話が進むにつれて凡庸なモンスターものに話が縮んでいったのが残念だったけど、今作では最後までテンションを緊迫したものにしている。まあテンションが高まりすぎて、物事の真相が明らかになったときにちょっとチートっぽい気になるかもしれないけど。

・カメラワークも前作に比べて上達しているんじゃないですか。なんかドリーズーム好きだな、という感じ。あと夜のシーンが多いので映像が暗いのは仕方ないか。

・出演はジョシュ・ブローリン、ジュリア・ガーナーなど。禁酒中のキャラクターが多いのは監督のアル中体験をもとにしているらしい。

普通によく出来た作品。あまり内容については語るべきではないので、ぜひ一見あれ。