「プレデター 最凶頂上決戦」

6月6日に配信開始された作品で、いまのところ今年のトップテンに入るくらい面白い作品なのです。しかし劇場公開されずに配信スルーという憂き目にあったのが災いしたのか、自分の観測範囲では全く話題になってないのと、こないだ内容に更新があったので(後述)、この作品の面白さについて自分なりに記しておく。以下は徹底的なネタバレ注意。

「プレデター」のアニメ版オムニバス映画という形式になっていて、話の内容は2022年の「プレデター:ザ・プレイ」と同様に「過去にプレデターが地球に来ていて、彼らと戦った人がいた」というもの。監督も「プレイ」と同じくダン・トラクテンバーグ。「プレイ」は1719年のアメリカでプレデターと戦うネイティブ・アメリカン少女ナルの物語だったが、こちらは「盾」「刀」「弾」そして「戦い」をテーマにした4つの短編に別れている。

「盾」は841年のスカンジナビアでバイキングの女首領がプレデターと戦う内容。これらの時代のプレデターは恒星間航行とか透明化の技術を既に持っている一方で武器がそこまで開発されておらず、たとえば841年のプレデターは劇場実写版のようなレーザー銃ではなく衝撃波を出す武器を用いていて、人間側と圧倒的な戦力差があるわけではないのがご愛嬌。「プレイ」もそうだったけど、プレデターの武器を逆に利用して人間側が勝つ展開が多かったような?

「刀」は1609年の日本が舞台で、侍の領主である父親から追放された兄が忍者となり、父親の跡を継いだ弟に復讐しようと城に潜入したところプレデターもやってきて…という話。城の構築が高層ビルみたいに立派すぎる点を除けば、日本の描写はさほど気になる点はなし。プレデターと戦うニンジャとサムライ、という日本のファンなら一度は妄想したことあるような展開を実際にやってくれたことに感謝。セリフが控えめの話だが忍者役の声優は「プレデターズ」のヤクザ役だったルイ・オザワだぞ。

「弾」は1942年の第二次大戦が舞台で、プレデターの宇宙船と戦うヒスパニックのパイロットが主人公。今までの肉弾戦の話と異なり、F4Fワイルドキャットとプレデター機の空中戦という異色の展開になっている。

そんでこれまでは3つの独立した話なのだけど、実は最後の第4話で衝撃的な事実が明かされる。各話でプレデターに勝った人間たちはプレデター本国(本星)のお偉いさんに勝手にチャンピオンと認められて、後日宇宙船でアブダクション(拉致)されてプレデターの惑星に連れて行かれて冷凍保存され、区切りのいいところで解凍されてプレデターさんたちが見守るなか闘技場でお互いに戦わせられるのです。

プレデターの礼儀って勝者にはきちんと敬意を示し、負けたあとはもう関わらないのかと思ってたけど、そのあと拉致してさらに自分たちの娯楽として戦わせあうのって非道じゃないのか。まあそんなんで1〜3話の勝者たちはお互いに言葉も通じずに困惑したまま戦うのだが、やがて当然のごとく力をあわせてプレデターたちに歯向かう熱い結末が待ってます。

いままでの「プレデター」映画にあった、観客はプレデターの存在や意図を既に知っている一方で、劇中の人物はそうではないので前半がだるく感じられるという欠点を、短編にすることで無駄を省き、歴史のいろんな時点におけるプレデター対人類の戦いを描くということで非常に面白い作品になっている。アニメーションになったことで暴力の描写も過激になり、プレデターの凶暴性がよく表されているというか。ここらへん同じフォックスのフランチャイズである「エイリアン」が最新作「ロムルス」で牙の抜けたジュブナイル作品になったのとは対照的ですね。このあとは同じくトラクテンバーグ監督による「エイリアン」とのクロスオーバー作品?の「プレデター:バッドランド」の公開が控えているけど、このままこっちのアニメーションでの続編も作ってほしいところです。

そこで最後のネタバレですけど、「今までプレデターに勝った人たちが拉致・冷凍保存されているなら、実写版の主人公たちはどうなってるのか?」とは誰もが抱く疑問でして、それの回答としてエンドクレジットでは冷凍保存されている「プレイ」の主人公ナルの姿が出てきてファンが驚いたのです。そしたらこないだのサンディエゴコミコンで唐突に「キャラの使用権利が下りた」と発表されて、初代「プレデター」のシュワちゃんことダッチ、および「2」のマイク・ハリガン警部補が冷凍保存されたシーンが新規追加されてしまった(米HULU版で確認。日本のディズニープラスは知らん)。こうなるとダッチやハリガンが再登場する続編はぜひ観てみたいところなので制作よろしく。

「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」鑑賞

カタカナ表記は「ファンタスティック・フォー」ではなく「ファンタスティック4」なんですね。映画の権利がマーベルでなくフォックスにあったころは、マーベルが嫌がらせしてコミックを打ち切るというセコいことやっていたけど、マーベルもフォックスもディズニーの軍門に下った(?)ことで今回めでたく再映画化されましたとさ。以下は感想をざっと。

  • 個人的にはスタン・リー&ジャック・カービーのコミック原作を絶対とみなす者ですが、キャラクターの設定などはうまくアレンジされていたんじゃないですか。ザ・シングが自分の容姿を不憫に思わず、普通に世間の人気者になっているのは面白かった。いちばん原作とかけ離れてるのはスーかな。もっと穏健な一家の母タイプなのが、映画だともっと攻撃的な性格になっているというか。
  • リードの体が伸びない。腕と脚がちょっと伸びる程度。ギャラクタスに引きちぎられそうになってたけど、原作ならギャラクタスの体をグルグル巻きにしてお釣りがくるほどなんだけどな。2015年版もあまり伸びていなかったことを考えるに、あまり映像化すると映えない能力なのでしょう。
  • 宿敵のドクター・ドゥームがアベンジャーズの映画の方まで据え置き状態のため、いきなりシルバー・サーファーとギャラクタスというコズミックの強大な敵を持ち出してきたわけだが、世界的な脅威の話がリード家の個人的な問題になるあたり、ちょっと脚本が雑だったかもしれない。世界の人々が主人公たちにやたら理解を示して行動してくれるというか、一般市民に性格づけがされていないというか。
  • マーベル映画のなかではある程度のクオリティを誇っていると思うものの、「スーパーマン」のような傑作の直後に公開されたのが損でしたね。あれに比べるとやはり脚本の練り込みが足りないなとは思った。今後アベンジャーズたちと合流して、よりキャラクター設定が進展していくことに期待。

「スーパーマン」鑑賞

感想をざっと。以降はネタバレ注意。

  • さすがにもうオリジン話はいいでしょ、ということで各キャラクターの説明など無しにいきなり話が始まるあたり、なんかシリーズものの第2作から見せられてるような感覚があった。そういう意味では冒頭の盛り上がりに欠けるというか、ノリをつかむまでに思ったよりも時間がかかってる気がするものの最後はきっちり締められたんじゃないですか。
  • 冒頭でロイス・レーンとクラークが「スーパーマンの正体を知らないふり」をするくだりは、映画化されなかった「SUPERMAN LIVES」のケヴィン・スミスの脚本にちょっと似ていた。
  • グラント・モリソン&フランク・クワイトリーの「オールスター・スーパーマン」が大きなインスパイア元になっていることは監督が公言している一方で、ガイ・ガードナーやメタモルフォが登場するあたり、想定以上にキース・ギフィンとJM・デマティスの「ジャスティス・リーグ」にもインスパイアされてましたね。
  • ポケット・ユニバース?の設定はあまりピンとこなかったな。あれ「ピースメーカー」の設定にもつながるんだろうか。「リターンズ」の土地隆起もそうだったけど、スーパーマンに見合った脅威を見つけるのはなかなか難しい。
  • 個人的には犬が苦手でして…。クリプト、活躍しすぎではないか?
  • クラークの両親は今までに比べてずいぶん田舎者っぽくしたな…と思ったけど
  • 傲慢なテック・オリガルヒ野郎が政治にも口を出してSNSで誤情報を撒き散らし、アホな国の元首が他国への侵攻を公然と行おうとしている情勢で、ヒーローはどうあるべきか、を示したタイムリーな作品であった。
  • 観ていて頭に浮かんだのは、「ダークナイト」の「he’s the hero Gotham deserves」のくだり。スーパーマンは現在の我々が受け入れるべきヒーローであり、排外的にならずに周囲に優しくしろとこの映画は語ってるのでしょう。

「罪人たち」鑑賞

普通に面白い作品であったよ。日本公開が急に決まってろくに宣伝されてないような気がするが、IMAXの空き状況にあわせて公開されたのかな。

  • ホラー作品としてみれば「フロム・ダスク・ティル・ドーン」に近いのかな。怪物たちに襲われる酒場での一夜の攻防を描いた内容ではあるわけだが、アメリカ南部における黒人文化を守り通すことをテーマにした秀作。パーティーへの準備と盛り上がりまでの過程は「SMALL AXE」の第2話目、ジャマイカ系移民がサウンドシステムを持ち込んでパーティーを開催するエピソードに通じるものがあると思いました。
  • そんな黒人たちを狙うのがアイリッシュ系の吸血鬼たちということで、個人的にはこっちのほうに興味を持ったな。アメリカにおけるマイノリティ同士が殺し合うという皮肉があるわけだが、その一方でどちらも自分達のルーツの音楽は愛しているという共通点がある。ヴァン・モリソンだっけ?が言っていた、ロックンロールはケルト音楽と黒人音楽がアメリカで融合して生まれたという言葉を連想した。まあ公民権運動の際に黒人を最後まで差別したのは、かつて自分達が虐げられてきたアイルランド系移民だったのだけど。
  • マイノリティといえば、IMDBのトリビアによると劇中に出てくる中国系の店は実際にあったものをモデルにしていて、通りを挟んで片方では黒人相手に商売をして、もう片方では白人を相手にしていたそうな。面白い。
  • ケルト系の吸血鬼といえば「プリーチャー」のキャシディでしょ、というわけであのマンガにインスパイアされてるのかなとも思ったけどその証拠は見当たらず。よく聞き取れなかったけど、劇中でキリスト教の祈りに対して「俺らを追い出した連中の言葉だ」とか言ってたのはケルト人がローマ人に侵攻されたことを言ってたんだろうか。
  • 役者はマイケル・B・ジョーダンが相変わらず手慣れているなと。ただし主人公ふたりがよく似ていて、帽子の色でしか区別つかないから序盤はどっちがどっちだか分からないシーンもいくつかあり。あとは個人的にデルロイ・リンドーを見たのが久しぶりで、いい俳優だよねえ。
  • 普通に手堅い作りで楽しめる作品だった。アメリカでもヒットしたそうで、フランチャイズに頼らなくてもいい作品なら稼げることを証明したのではないか。

「THE RETURN」鑑賞

ハリウッドではこんどクリストファー・ノーランが「オデュッセイア」を豪華キャストで映画化するとかで話題になってるが、こちらはそれよりも一足お先に最後のオデュッセウスの帰還の部分だけを映像化したもの。2000年以上前に書かれた話にネタバレなぞ関係ないと思うが、一応以下はネタバレ注意。なお自分は「オデュッセイア」は子供向け絵本を読んだ程度っす。

内容は原作にかなり忠実に沿っている。トロイア戦争に出向いていったあと長らく音信不通となっている夫オデュッセウスの帰還を辛抱強く待つ妻のペネロペだが、彼女のところには再婚を求める数多くの男たちが集まっていた。そんななか、ついに単身で流れ戻ったオデュッセウスは身分を隠しつつ、大きく変わった故郷の状況を探っていく。

ペネロペがオデュッセウスの正体を知るのが少し早いとか、細かい脚色はあるものの、まあ観る人は話の展開を知っているわけで、それでも見応えがあるのは演出の巧みさですかね。歌舞伎の人気演目みたいなもので、お決まりのシーンを見て楽しむというか。求婚者たちが誰も張れない弓をオデュッセウスが張り、連なる斧の隙間を射抜くシーンとかやっぱカッコいいのよ。

オデュッセウスを演じるのは「教皇選挙」が今になって大きな話題になっているレイフ・ファインズ。あちらは選挙の行方に苦悩する中間管理職みたいな役だったが、こちらでは60過ぎながらも筋肉モリモリの体に鍛え上げてオデュッセウスを好演している。彼を待つ妻のペネロペ役にジュリエット・ビノシュ。原作だとオデュッセウスとペネロペの年齢差って結構あるんじゃなかったっけ?だからまだ若い彼女に求婚者が寄ってきたのだと思ったけど、こちらではほぼ同じ年の夫婦になっている。ふたりの息子のテレマコスを演じるチャーリー・プラマーも、その頼りなさっぷりがいい感じ。

なぜ現代になって2つも「オデュッセイア」の映画が作られるのか?という疑問は置いておいて、普通に面白い作品だった。ノーランのほうは原作すべてをカバーするようなので最後の部分をここまで丁寧に描かないと思うけど、あちらが完成したら両者を見比べてみるのも面白いかもしれない。