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巷で絶賛されてるドキュメンタリー(?)映画。
時はCOVID第3波でロックダウン中のイギリス。外出もできず仕事にもあぶれていた俳優のサム・クレーンとマーク・ウースターヴィーンは、グランド・セフト・オート・オンラインに没入。そのバーチャル世界のなかで演劇を披露できそうな屋外ホールを発見した二人は、そこで「ハムレット」を演じようと決心する。サムの妻で映画監督のピニー・グリルスにも撮影を頼み、他のオンラインプレーヤーにも声をかけるものの、そもそもGTAはそういうのに適したゲームではないわけで…という内容。
おれ自身はグランド・セフト・オート(以下「GTA」)は「III」から「サン・アンドレアス」までやり込んだけど、オンライン版はプレーしたことなし。グラフィックもずいぶん綺麗になってるんですね。自分のキャラクターを自由に操作できて、マイクを通じてセリフも喋れるとはいえ、車強盗と銃撃戦が日常茶飯事のGTAオンラインの世界において、芝居を披露しようとするサムとマークの試みは至難を極める。オーディションに集まったキャラクターたちはいきなり撃ち合いをはじめ、舞台に選んだ飛行船からサムのキャラクターが落っこち、やる気のない参加者は突然オフラインになって消滅し…というドタバタが続き、シェークスピア劇を演じたギャングスタなキャラクターが、次の瞬間は銃撃戦で殺されてるようなシュールな映像はゲラゲラ笑えます。冒頭からサムが「ハムレット」をすらすらと誦じているのにちょっと驚くが、シェークスピア劇をはじめいろんな番組に出ている役者なんですね。
映画はすべてGTAオンラインの世界で撮影されているので、キャラクターのいわゆる「中の人」の映像は一切登場しない。よって観ているうちにGTAの世界こそが本物の世界のように見えてくるのだが、そのなかで「中の人」たちがボソっと話す自分たちの話が、妙に現実感があるのですよね(まあ実際の現実世界の話なので当然なのだけど)。ロックダウンが解除されて働くことになったのでリハに参加できないと降板するキャラクターとか、唯一の親族が亡くなって気落ちするマークとか、同居しているのにオンライン上で夫婦喧嘩をするサムとピニーとか(「私に会いたいなら2階にいるでしょ」とか言われてんの)。楽しい仮想世界の裏には厳しい現実が控えているんだよ、という事実を表情の乏しいキャラクターの口から聞かされるのは、下手なバーチャルSF映画よりもSFっぽい雰囲気があったな。
エンドクレジットではいちおう各キャラクターと、その「中の人」がキャスト表で列記されるものの、何人かは連絡がつかなかったのかキャラクター名のみの表記。言葉を発しない無言のキャラクターもいるので、そういうのは高度に進化したNPCとどう違うのか?とか、もしかしたら今後は「中の人」がいるかと思えたキャラクターも実はAIが操作していて、複数のプレーヤーが参加しているように見えた世界で人間は自分ひとりだった、ということが起きるかもしれないとか、いろいろ考えてしまったよ。
あとはプレーヤーが自在に飛行機や飛行船を操作・配置してストーリーの舞台や小道具にできるあたり、やり方によっては派手な映像作品がすごい低予算で作れるんじゃね?とも思いまして、今後はこういうオンライン世界の素材を借りた、全く設定の異なる映像作品が作られたりするのかなとも思いました。
一見するとマヌケなプロジェクトの記録映画に見えるだろうけど、もしかしたら今後のオンライン空間での映像制作に影響を与えることがあるんじゃね?と考えさせられる作品でした。