更新停止

いよいよカナダ最後の日になってしまった。これから空港に出発します。 日本でのサラリーマン生活からの変化を求めて去年の10月にトロントへ来たわけだが、以前にも3回ほど海外に住んだことがあるので(イギリスに2回、アイルランドに1回)、実のところ「これが海外生活ってやつか!」的な感動はあまりなかった。カナダは初めてとはいえ英語圏での生活は慣れていたので、何を期待して何を期待していけないのか、事前にどことなく分かってるようなところがあったのです。むしろ日本にいるときにずっと「また海外に住んでみたい」という漠然とした欲求を常に抱えていたので、それを満たすためにカナダへ来たのかもしれない。この欲求を満たしたいま、日本に帰ってマイホームを30年ローンで購入して、ジーザス&メリー・チェインとかが好きそうな女の子とでも結婚して、老いて死ぬまで日本に住み続けることになるのか、それともまた海外に住みたくなるのか、将来のことは何とも分からない。一つの場所に延々と住み続けることに対する、もやもやとした嫌悪感を感じてるのは確かだけど。

別に語学学校とか大学に通ったわけでもないし、きちんとした職に就いたわけでもないので、自分がカナダで何を得たのかということを明確に説明することは難しい。とりあえずボランティアをしてテレビ番組のエキストラをやって、大学の短期コースに通って、あとは映画ばかり観てました、というのが正直なところか。これが良いことなのか悪いことなのかは、今のところ何とも言えない。ワーキングホリデーのビザは10月まであるので、残りの4ヵ月で何か確固としたことに挑戦してみてもいいんだけど、とりあえず日本に帰ります。

いちおう弁明がましいことを述べさせてもらうと、上記したように海外の生活には慣れてたのでそれなりに時間を有意義に使うことが出来たと思うし、自分が望んでいた通りの生活をすることが出来たと思う。日本の知人のうちには、海外に渡る人ってみんな「デカイこと」をやりそうだと思い込んでる人がいるみたいだけど、変に期待されても困るんだよなあ。

日本に帰ったら暑いなか就職活動をしなければならないわけで、望むらくは以前みたいに映画・ビデオ関係の仕事につきたいけど、さてどうなるんでしょう。以前カナダに発つ際に海外の知人たちに「カナダでなんかいいツテ知らない?」とメールしたら誰からも返事がこなくて、最近も日本の知人たちに「帰国するんでなんかいい仕事知らない?」とメールしたら誰からも返事がこなくて、いかに俺が人気ないかをひしひしと認識してるところですが、これも俺の不徳のいたすところであります。あまりいい仕事が見つからなかったら、少なくとも暑いうちは家に引きこもってウィキペディアの翻訳でも手伝おうかな。

まあ何にせよ、帰国したら今よりもずっと忙しくなると思うので当ブログの更新は停止させていただきます。トロントで入手してまだ観てないDVDとかがあるんで、いずれまた感想とかを書き込むかもしれないけど、不定期な更新になるでしょう。今までトラックバックを送ってくれたり、コメントを書き込んでくれた方々、どうもありがとうございました。1日に30〜40ヒットくらいの小さなブログだったけど、ここに書かれている情報が誰かの役に立ってくれれば幸いです。サイトは度々チェックしますので何か意見があれば気軽に書き込んでください。
では。

トロント考

トロントにいられるのもあと2日ほどなので、とりあえず「まとめ」のようなものを書いてみる。意見のある人はコメント欄に記入するように。まずはトロントの感想を。 過去に住んだことのあるイギリスとかアイルランドに比べると、トロントは良くも悪くも非常に無味乾燥な土地である。近代的な観光名所はCNタワーくらいしかないし、歴史的な建造物なんてのはゼロに等しい。歴史の浅いトロントにおいては最古の建物といってもせいぜい18世紀後半に建てられたもので、16世紀もしくはぞれ以前の建物が数多く存在するケンブリッジやダブリンと比較すると非常にちゃちなものに感じられてしまう。そして通りには新しい店が建ち並び、街全体が1つの大きな商店街のようになっている。どこまで行ってもそれなりに店が並んでるのは便利であるものの、所沢プロペ通りが観光名所とは遠くかけ離れているのと同様の理由で、全体的にチープな雰囲気が漂ってるのは否めない。基本的にカナダには歴史の重みが感じられないのだ。

でも国の歴史が浅いというのはメリットもあるわけで、それがカナダにおいては「移民のしやすい国」という形で現れているのではないか。インディアンやイヌイットたちを除けば長らくこの国に住み着いている人たちがいないわけで、日本なんかに比べると住民同士のしがらみのようなものがごく僅かにしか感じられないのだ。今まで訪れた都市のなかでも、トロントはおそらくいちばん人種が混じり合っている所だと思う。ニューヨークなんかも人種のるつぼだけど、あそこは英語系とヒスパニック系が比較的明確に別れているのに対し、トロントは白人も黒人もアジア人も皆が英語を話して仲良く暮らしてるという印象が強い。チャイナタウンやコリアンタウン、インディアンタウンといった異国情緒に溢れた区域もあるものの、特に排他的にならずに他の人種の人たちとうまくやっているようだ。

そして他国でそれなりの人種差別を経験したことのある自分から見ると、これってものすごく素晴らしいことだと思う。異国から来た者にとっては、特定の人種だけで成り立ってるようなところよりも、いろんな人種が仲良く住んでるところのほうが気楽にとけ込み易いのは言うまでもない。そしてトロントは人種の多様化を積極的に支持しているようなところがあって、それには非常に共感が持てるのです。自分と異なる人間を変に排他的に扱うよりも、「ま、いいじゃないの」という感じで受け入れたほうが、いずれ自分のためにもなると思うんだがなあ。そして人種の多様化を受け入れていくうちに、思想や性的嗜好(同性愛とか)とかも受け入れるようになるようになり、いろんな人間がお互いの多様性を許容しながら暮らしていく、というのは国家の理想的な形だと思うんですが、どうでしょうか。

これに比べて日本は国民の統一性が重視されがちだから、ちょっと政府の方針に異議を唱えただけで「反日」だの「亡国」だの言う輩が存在するが、政府に反対意見を言っただけで国が潰れるようなら、イギリスなんて何度も潰れてますって。アラン・ムーアがかつて、「統一は力なり」という考えはいずれ「均一は力なり」に転じてファシズムにつながる、みたいなことを言ってたがその通りだと思う。アメリカだって現在は「俺の味方じゃない奴はみんな敵だ」みたいなことを大統領が言うようになったけど、かつてはトマス・ジェファーソンが「異議を申し立てることは、最大の愛国心の形式である」なんて言ってたんすよ。

もちろんカナダと日本は歴史から国土面積から人口から他国との関係に至るまで非常に多くのことが違うわけで単純に比較することはできないし、トロント以外の地方の人種の比率がどんなんだかも知らないけど、もうちょっと日本も(サブカルチャーとかじゃなくて)多様性を培ってもいいんじゃないの、と考える次第です。現在のところは移民する気はないので日本に帰るけど、もし日本での生活が本当に窮屈になったら、その際はトロントに移民することを選ぶだろう。それまでにカナダが排他的な国になっていないことを願うばかりである。

「MIX TAPE: THE ART OF CASSETTE CULTURE」

こないだ序文(短縮版)をちょっと訳してみた、サーストン・ムーアが編集した本「MIX TAPE: THE ART OF CASSETTE CULTURE」を書店にて立ち読みする。カセットテープを模したハードカバーの中にミックス・テープの写真とかコラージュがベタベタ載せてあって、写真の隙間に文章がちょろっと書かれているという、まるで日本のサブカルチャー誌のような俺のもっとも嫌悪するデザインになってるのには幻滅した。 でもマイク・ワットとかジム・オルークとか、相変わらずの面々がミックス・テープについていろいろ論じてるので一読する価値はあるかと。ディーン・ウェアハムおよびデーモン&ナオミ(要するに元ギャラクシー500の人たち)が寄稿してたのが個人的には良かったかな。でもやはり一番面白いのはムーアの序文だったりする。

MUSICAL BATON

バンクーバーのchilcoさんのところから、ブロガー向けの音楽チェーンレター「Musical Baton」が廻ってきたので、以下の5つの質問に答えさせていただきます: 1)コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量:

415曲で2.34GB。あまり多くないですね。

2)今聴いている曲:

「RIDE INTO THE SUN」 Velvet Underground
(インストゥルメンタル版)

3)最後に買った CD:

「SHINY BEAST / BAT CHAIN PULLER」 Captain Beefheart
(CDというかiTMSでアルバムを購入)

4)よく聴く、または特別な思い入れのある 5 曲:

「KING INK」 The Birthday Party
ニック・ケイヴのベストな曲ではないものの、一応このブログの名の由来なので。


「FLOAT ON」 Modest Mouse
2004年のベスト・シングル。


「FOURTH OF JULY」 Galaxie 500
映画もそうですが、ダメ男の物語というのは他人事と思えないのです。


「(WHITE MAN ) IN HAMMERSMITH PALACE」 The Clash
熱意とやるせなさが同時に感じられるような曲。


「SEE THOSE EYES」 Altered Images
80年代初期のポップバンド。子供の頃からなぜか好きな曲です。

5)バトンを渡す5名様 :
人付き合いが悪いもので…。すいません。ちょっと思いつきません。

「HARVEY BIRDMAN, ATTORNEY AT LAW」

wall_harvey2_800.jpg

カートゥーン・ネットワークの15分アニメ「HARVEY BIRDMAN, ATTORNEY AT LAW」のシーズン1をDVDで観る。 数年前にカートゥーン・ネットワークは深夜帯に日本のアニメや「フューチャラマ」や「FAMILY GUY」といった他局のアニメ、およびオリジナルのアニメで編成された「ADULT SWIM」という大人向け(エロに非ず)の番組枠を設けてみたわけだが、これが大ヒットしてジェイ・レノやデビッド・レターマンのトークショーに匹敵するくらいの視聴率を稼ぎだし、ちょっとした社会現象になってしまった。

「HARVEY BIRDMAN」はそのオリジナル・アニメの1つで、他にも「THE BRAK SHOW」「SPACE GHOST COAST TO COAST」「SEALAB 2021」などが製作されている。これらの作品の特徴はハンナ・バーベラの昔のマイナーなアニメを今風にアレンジして使っているところで、例えば「SEALAB 2021」は70年代のアニメ「SEALAB 2020」のパロディだし、「HARVEY BIRDMAN」も「BIRDMAN AND THE GALAXY TRIO」というアニメの主人公を流用しているが、内容とか設定はまったく別物。ヒーローだったはずの主人公ハーヴェイ・バードマンは現在なぜか法律事務所で弁護士として働いていて、才能はゼロに等しいものの、訴訟されたキャラクターたちのために裁判で熱弁をふるうのだった…というのが各エピソードの大まかなパターン。

とにかくギャグがシュール。ひたすらシュール。突然キャラクターが踊りだしたり、ビルから落ちたりするし、ストーリーと何の脈絡もなくピエロが現れて風船人形を作ってそのまま消えたりする。よく考えて作ってんだかどうか実に分からないアニメなのだ。しかもバードマンのところにやってくる顧客はハンナ・バーベラ作品の常連たちで、みんな変にパロディ化されているのが最高に笑える。例えばフレッド・フリントストーンはマフィアのボスだし、シャギーとスクービーはマリファナ所持の疑いで逮捕されるし、スーパーフレンズのアパッチ・チーフは熱いコーヒーを股間にこぼして「巨大化できなくなった!」と駆け込んでくるし…。日本でもCMとか同人誌なら「グレたタラちゃん」とか「風俗にハマったのび太」くらいのパロディはありそうだけど、実際にシリーズ化してしまうところがすごい。よくハンナ・バーベラも許可したよなあ。ちなみにあるエピソードに「SHOYU WEENIES」という日本人のポップグループが登場して、ちゃんと(カタコトの)日本語で吹替えがされてるんだけど、これって何か元ネタはあるんでしょうか。

よっぽど予算が少ないのか、アニメのクオリティはとってもショボいのだけど、逆にそのチープさが話の内容とマッチして、実に何ともいえない雰囲気を醸し出している。そうかと思えば突然実写になって着ぐるみのバードマンが登場したりと、変なところで凝ってるのもナイス。「ADULT SWIM」の視聴者はラリッた学生が大半だという話を聞いたことがあるけど、確かにビール片手に何も考えずにダラーッと見るのには最適な、脱力感に溢れた怪作になっている。

あと「ADULT SWIM」のオリジナル・アニメには、ミートボールとミルクシェイクとフレンチフライが主人公の「AQUA TEEN HUNGER FORCE」があるけど、これはあまりにも内容がシュールすぎてついてけませんでした。こんなのが大ヒットしてるっていうんだから、アメリカのアニメ事情は侮りがたい。