「WATCHMEN」鑑賞

HBOの新シリーズで、原作はアメコミの金字塔「ウォッチメン」な。原作者のうちデイブ・ギボンズはコンサルタントとしてクレジットされてるが、アラン・ムーア御大は例によって名前も載ってません。原作とは殆ど別物になってるので作品の世界設定を箇条書きにすると:

  • アメリカはドクター・マンハッタンの助けによりベトナム戦争で勝利し、ニクソン大統領は8年以上の長期政権を樹立。それを継いだロバート・レッドフォード(役者の彼な)も長期に渡って大統領を務めている。
  • よって政権は概ねリベラルで黒人への待遇も手厚いのだが、それに反発する白人至上主義者の団体「セブンス・キャバルリー」のメンバーたちはロールシャッハのマスクを被り、テロ行為を行っている。
  • 警官たちの個人攻撃が多発したことを受けて、警官たちは顔を隠すために黄色いマスクを被っている。また独自のマスクをつけたビジランテたちも警官に協力してロールシャッハたちと戦っている。
  • ドクター・マンハッタンは火星に移住した。エイドリアン・ヴェイト(オジマンディアス)は死んだと見せかけ、田舎の城に隠居している。

…といったところ。まだ第1話の段階なので多くのことが明かされないのだが、いちおうコミックの出来事のあとの話、ということになるのかな?原作のクライマックスであるイカ状エイリアンの襲撃はあったらしく、その影響か空からイカが降ってくる謎の気象現象にも世界は見舞われているみたい。

そして話の舞台になるのはオクラホマのタルサという都市で、1921年に人種暴動が起き、アメリカ政府が自国民に空爆をしたという過去を持つところ。そこに住むアンジェラはベトナム育ちの元警官だが、夜にはシスター・ナイトというイジランテになって警察署長のクロウフォードに協力してロールシャッハたちと戦っている。

タルサの暴動のシーンで幕を開け、白人至上主義者との話を中心に持ってきているあたり、最近のBlack Lives Matterのような社会運動をテーマにしているのはわかるのだが、意外にも警察は黒人にもビジランテにも協力的な存在になっていて、上司の承認がなければ銃も使用できないという立場。それに対してロールシャッハたちは人種差別を唱えるテロリスト団体なのだが、ここらへんは話が進むにつれていろいろ入り組んでくるのでしょう。

脚本およびクリエーターは「LOST」のデイモン・リンロフ。原作とはまったく別の代物になっているけど、ザック・スナイダーの劇場版が原作に変に忠実になろうとして結局ダメダメだったことを考えると、むしろ同じくムーア原作の「リーグ・オブ・レジェンド」みたいに好き勝手やったほうが面白くなるんじゃないかと。とはいえ原作コミックにインスパイアされたシーンは多数出てきて、自殺用の青酸カリとか、使用人と乾杯するエイドリアンとか、原作を知ってる人ならニヤリとする箇所はいろいろあります。

コミック同様に人が読んでる新聞の見出しなどに重要な情報が示されているし、2枚並べた皿がフクロウの顔のようになっていて、そこに落とされた卵の黄身がスマイルマークのようになる…といった演出も非常に凝っている。アクションシーンもHBOならではの予算をかけたものになっているほか、トレント・レズナーとアティカス・ロスによる音楽も雰囲気を醸し出すのに大きく貢献している。

出演はシスター・ナイト役にレジーナ・キング。結構年配だけどアクションもこなしています。エイドリアン・ヴェイトがジェレミー・アイアンズで、クロウフォード署長にドン・ジョンソン、ルッキング・グラスというビジランテ役にティム・ブレイク・ネルソン。そして謎の老人としてルイス・ゴセット・ジュニア。

本国の評価では「西部劇のようだ」というのがちらほらあって、無法者の一味と闘う保安官たち、という構成がそう見えるのかな。まあこれからドクター・マンハッタンとかオジマンディアスが徐々に関わってくるわけで、どこに話が向かっていくのかは楽しみである。

機内で観た映画2019 その2

こないだヨーロッパに出張に行ってきたので、機内で観た映画の感想をざっくりと:

  • 「トイ・ストーリー4」:野良アプリならぬ野良トイ、というか浪人トイがテーマになった今回、前半のフォーキーのアイデンティティ・クライシスの話と後半のアクション主体の部分がうまく噛み合ってないような?前作よりは面白かったけど、もうこれ以上続編作るのは難しいだろうなあ。ウッディとバズの声優の格差を反映してか、殆どウッディの話になってましたね。
  • 「イエスタディ」:ビートルズのいない世界ではラットルズが王になるのでは、と思ったけどオアシスもいないようなので、彼らも存在しないのでしょう。リチャード・カーティスの脚本にダニー・ボイルの映像が加わった王道の出来なので、細かいこと考えずに観れば十分楽しめる作品じゃないですかね。字幕で「cider」を「ソーダ」と訳してたのは気になったが。
  • 「ジョン・ウィック:パラベラム」:アクションはスタイリッシュですごいと思うのですが、いかんせんストーリーが単調というか何というか。主人公が遠方まではるばる旅をした意味はあったんかい?続編もしっかり作られる予定みたいですが、もういいよお。
  • 「BOOKSMART」:機内上映版は10分くらいカットされてる…?オリヴィア・ワイルドが監督に挑んだ作品で、手堅い演出もいいが脚本(執筆はワイルドでない)が非常に素晴らしい。ガリ勉の少女ふたりがパーティーに繰り出すという、よくある青春映画かな…と思いきや前半はコメディ要素が強く、「コミ・カレ!」みたい。青春映画のステレオタイプが揃ってそうで、そうでもなく、ティーンの儚さなどもうまく盛り込んだよく出来た作品。これは面白かった。
  • 「STUBER」:クメール・ナンジアーニとデイブ・バウティスタに加えて、イコ・ウワイスとかカレン・ギランとかナタリー・モラレスとかいい役者使ってるのに、まあ内容はFOX定番のB級コメディ。イコ・ウワイスの完全な無駄遣いですな。FOXは頑張ってこういう作品を引き続き製作して、ディズニーの株価の下落に貢献すべきだろう。

「BATWOMAN」鑑賞

THE CWの新作シリーズで、アローバースに加わる新たなスーパーヒーローですな。

舞台は当然ながらゴッサム・シティだが、バットマンは3年前から行方不明になっているという設定。ブルース・ウェインの従姉妹であるケイト・ケインはかつては軍の兵士だったが、レズビアンであるという理由により除隊を命じられ、遠く離れた地で密かに訓練を続けていた。だがかつては彼女の恋人であり、ケイトの父親が運営する警備会社の社員であるソフィーが暴漢に誘拐されたためにケイトはゴッサムへと帰ってくる。そこでブルースの遺したバットマンの基地を発見した彼女は、バットマンのコスチュームを身にまとってソフィーの救出に向かうが、その陰には死んだはずのケイトの妹がいた…というあらすじ。

コミックでは10年くらい前に登場したケイト・ケイン版のバットウーマン、日本ではそんなに馴染みはないかもしれないけどアメリカでは人気キャラクターですね。TVシリーズ版のオリジンも大体はコミックを踏襲している感じかな。父親はもっとガチガチの軍隊オヤジだったけど。

バットウーマンの宿敵となる、双子の妹のアリス(上)は子供のときに母親とケイトとともに橋の上で交通事故にあって、バットマンがケーブル張って助けようとしたものの、なぜかケーブルが切れて母親とアリスは橋の下に落ちていったが、どうもアリスは生きていたという設定みたい。昼間に突然現れて、救助に失敗するバットマンがなんかとてもカッコ悪いぞ。まあ事故の真相はこれから明かされていくのだろうけど。

バットマンがいなくなったゴッサムシティ、という設定は短命に終わったTVシリーズ「BIRDS OF PREY」と同じなのだが、「スーパーガール」にスーパーマンが出てきたように、いずれこっちにもバットマンが登場するのだろうか。バットマンが3年間行方不明、ということは当然ブルース・ウェインも同じあいだ不明なので、ブルースってバットマンじゃね?と思う人がいそうなものだけど、そうでもないらしい。バットマンの基地や装備はルシアスの息子のルーク・フォックスが管理していて、彼もいずれコスチュームをまとってバットウィングになるのかしらん。

第1話ではケイトがバットマンのコスチュームを着るだけで(よくサイズが合ったな)、コミックでおなじみの赤毛のコスチュームはなし。TVシリーズに映画並みのアクションを期待するのは酷だろうけど、「アロー」とかに比べてもアクションシーンが稚拙で、なんか安っぽい気がするな…原作だともっとモラル的にグレーなキャラクターだった(バットマンと必ずしも気が合うわけでは無い)と思うので、そこらへんを強調する必要があるのでは。

ケイトを演じるのはルビー・ローズ姐さん。まあ適役ですな。素顔でビシバシ戦った方がカッコ良さそうな気もするが。スタントで怪我して緊急手術を受けたりと、撮影は大変だそうです。彼女自身もレズビアンだけど、レズビアンが主役のスーパーヒーロー番組はこれが初だそうな。その彼女の父親役にダグレイ・スコット。個人的にはやはり彼って演技が下手だと思うのですよね。いつも仏頂面で硬い演技しかできないというか。原作だとケイトと父親の関係が重要な要素なわけで、これからのストーリーにどれだけ貢献できるのだろう。あとなぜかMSNBCのキャスターであるレイチェル・マドウが声だけ出演してます。

第1話を見た限りではそんなに面白いとも思わなかったけど、主役はいい役者使ってるのだし、これから話をどう練り上げていくかが成功のポイントですかね。

「ジョーカー」鑑賞

まだ公開したばかりなので感想をざっと。以下はネタバレ注意。

  • 話がどこにたどり着くのかは最初から分かってしまっているので、ストーリー自体に驚きなどはない。ホアキン・フェニックス演じる主人公の変化の過程を楽しむ作品かと。
  • 「タクシー・ドライバー」や「キング・オブ・コメディ」そといったスコセッシ作品のパスティーシュと呼ばれ、確かに70年代感を強く出している一方で、内容は非常に現代的というか、貧富の格差とかインセル問題といった現代社会にはびこる欲求不満をうまく反映させていた。観てる最中に香港でのデモやアノニマスのことを連想した人は多いはず。
  • 音楽はゲイリー・グリッターの「Rock And Roll (Part 2)」といえば野球の試合とかでの定番曲だったかと思うが、グリッターが児童ポルノで捕まってからは、この映画のように「悪人のテーマ」として使われるようになってしまいましたね。
  • ゴッサム・シティの風俗街では「Ace In The Hole」というポルノ映画をやっているらしく、「Zorro The Gay Blade」もタイトルからてっきりそっち系の映画だと思って、ウェイン家は子連れでそんな映画を観てるのか?と驚きましたが、れっきとした80年代のゾロ映画だったのですね。
  • ボブ・ケインとビル・フィンガーに加えて、ジェリー・ロビンソンがジョーカーのクリエイターとしてクレジットされたのは初かな?
  • コミック作家のクレジットにブライアン・ボランドが載っているけどアラン・ムーアはいない。まあまたムーアが断ったんだろう。
  • ブライアン・タイリー・ヘンリーは最近いろんなところで見かけるな。彼よりも上位にクレジットされているマーク・マロンは3分くらいしか出演してなかったぞ。
  • ホアキン・フェニックスの演技は凄かったものの、やはりジョーカーというのは対になるバットマンがいてこそ映えるキャラクターなので、そういう意味では個人的にはヒース・レジャーのほうが「らしい」ジョーカーだったと思うのです。

「THE DAY SHALL COME」鑑賞

FOUR LIONS」に続くクリス・モリスの監督作がしれっと出ていたので早速鑑賞。

舞台はマイアミ。モーゼス・アル・シャバズはアヒルを通して神が自分に語りかけてきたという妄想を抱いた男性で、妻子や友人などを集めてスター・オブ・シックスという数名ほどの教団を作り、農園を営みながら細々と活動を続けていた。彼の教えは白人社会の転覆を訴える一方で、銃器の使用を禁じるという決して暴力的なものではなかったが、教団の行いはFBIの知るところとなる。テロを防止していることをアピールしたいFBIは、モーゼスの教団をテロ組織にでっち上げるべく、イスラム国のメンバーが資金と武器を提供したがっているという話をモーゼスに持っていく。銃の受け取りに難色を示したモーゼスだが、農園の立ち退きを迫られて金に困っていたため、この話を受け入れることになる。しかしFBIとマイアミ市警の主導権争いなども絡んで、話はあらぬ方向に展開していく…というあらすじ。

テーマ的には「FOUR LIONS」によく似ていて、あちらは頭の弱いテロリストたちの話だったのに対し、こちらは間抜けなFBIの話といったところ。ただしこの映画では本当のテロリストが出てこないというのがポイントなわけだが。愉快なドタバタを描いているようで、終わり方がメランコリックなのも前作と同様。

ポスターに書かれている「100の実話に基づいた物語」という文言は映画の冒頭にも出てくるのだが、FBIがテロリストをでっちあげているという実例はモリスが調査をしているうちに何百件も目にしたものらしい。

映画のプロットによく似ているのがマイアミでカルト教団(イスラム教徒ですらない)が逮捕されたLiberty City Sevenと呼ばれる事件で、あちらはFBIが偽のアルカイダになりすまして、シカゴでのテロを持ちかけたものなのだとか。教団のメンバーを起訴する確固とした証拠が見つからず何度も裁判が行われたようで、それでも結局は何年にも渡る禁固刑が下されたらしい。

これに合わせてクリス・モリスのインタビュー映像を観てみたけど、FBIは黒人をテロリストにでっちあげている一方で、白人至上主義団体は標的にしない、と糾弾しているのが印象的であった。ヘイトデモは警察が守る一方で、反政府デモは厳しく取り締まる日本にも似てますね。

映画の出来としては、モーゼスが頭がちょっとおかしい人として描かれ、FBIも目的のためなら手段を選ばない人たちとして登場するので、誰にも感情移入できないのがちょっと辛かったかな。あと「FOUR LIONS」を先に観ているとインパクトが弱まると思う。

出演は、モーゼスを最初に見つけながらも、あとで良心の呵責を感じるFBI捜査官にアナ・ケンドリック。あとは知った顔ではコメディアンのジム・ガフィガンがチョイ役で出ています。モーゼスを演じるのはほぼ新人のまーしゃんと・デイビスという役者だが、「FOUR LIONS」のあとにリズ・アーメッドがブレイクしたように、彼の名前を今後いろいろ見かけることになるかもしれない。

まあクセのある映画であることは間違いないのだが、いろいろ考えさせられる風刺映画ではありますので、「FOUR LIONS」およびアーマンド・イアヌーチの「IN THE LOOP」とともに、いずれ日本でも公開されることに期待。