邦題は「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」でリチャード・リンクレーターの新作。
リンクレーターといえばコメディからドラマからSFまで幅広いジャンルを手がけることでアン・リーやダニー・ボイルに匹敵するような監督ですが、個人的にはやはり2作目の「バッド・チューニング (Dazed and Confused)」が最高傑作だと思うのですね。70年代のテキサスの1日を舞台に、パーティーに参加しようとするティーンたちの姿を描いたあの作品は本当に大好きで、エアロスミス嫌いな俺でも「スイート・エモーション」で始まるあのオープニングは映画史上に残るものだと信じて憚らないのです。そして今作はその「バッド・チューニング」の「精神的な続編」という意図でつくられたわけで、そりゃ期待するでしょ。また主人公が大学にやってくる、という意味では「6才のボクが、大人になるまで。」の続きでもあるらしいぞ。
時代設定は1980年代で、野球のピッチャーとして奨学金をもらった新人のジェイクがテキサスの大学へやってくるところから始まる。彼は野球部の他のメンバーたちと同じ寮に住むことになり、そこでは皆がひたすら酒と女のパーティーに明け暮れていた。ジェイクも寮の皆とすぐに仲良くなり、女の子たちを口説きに行ったところ一人の女の子に惹かれて…というようなあらすじ。
「バッド〜」の出来事が1日だけだったのに対して、こちらは木曜から月曜までの数日間の話なので野球の練習シーンなどもあるものの、プロットとかはあまりなくてひたすら男たちの乱痴気騒ぎが続く内容になっている。「バッド〜」は高校生たちがパーティーの場所とビールを入手するのに苦労してたが、こっちは親元から離れて暮らす大学生なので最初から酒とプッシーがやり放題。マシュー・マコノヒーが演じたウッダーソンみたいな連中がたくさん出てきます。大学寮が舞台ということで「アニマル・ハウス」に似ているかな。
精神的な続編とはいえ「バッド〜」と異なるところもいくつかあって、あっちは高校の新入生から卒業生まで登場人物の年齢層が幅広くて、高校生活への期待や卒業後の不安みたいなものが盛り込まれていたが、こちらはそいういうのなし。野球選手として食ってけるのかという心配も誰も抱いてない。また小さい町で育ってそのまま抜け出せないのかな、という内心の吐露も「バッド〜」に比べて無かった。そもそもみんながスポーツ奨学生として入学できてる時点で一種の勝ち組なのかもしれない。そういう点では感情移入できるところが少なかったかな。まあ自分が年とっただけかもしれませんが。
音楽は「バッド〜」がキッスやフォグハットなどの70年代ロック満載だったのを踏襲して、こちらはブロンディやカーズやディーヴォといったニューウェーブ系のものがガンガン使われてます。キャストは主人公のジェイクを演じるブレイク・ジェンナー以外は比較的無名の人が多いかな?これが映画初出演の人もいるみたい。「バッド〜」も当時無名だったキャストがあとから数多く大スターになったわけで(マコノヒー!アフレック!ジョボビッチ!)、こちらも皆が後から有名になることに期待します。
最初から最後まで遊んでばかりの内容には賛否両論あるかもしれないし、最近のアメリカの大学寮はむしろ人種差別の温床になってるというような報告もあるようだけど、こういう青春もあったんだよという1つの時代の描写としては手堅い作りになっているかと。