FOXの「X-MEN」系列の作品でありながらディズニーの買収騒動に巻き込まれて2年間も公開延期になってたもので、冒頭にFOXのおなじみのファンファーレが鳴るのに出てくるロゴが「20世紀FOX」ではなく「20世紀スタジオ」となっていたのには1つの時代の終わりを感じてしまったよ。以下はかなりネタバレしてるので注意。
ネイティブ・アメリカンのダニエル・ムーンスターは超常的な存在によって居住地が破壊され、唯一の生き残りとして病院施設に収容される。そこではセシリア・レイズ医師の指導のもと、4人のティーンが暮らしていた。ダニエルは自分が他の4人と同じく特殊な能力を持ったミュータントであることを告げられ、Xメンのようになるべく自分たちの能力をコントロールすることを学ぶため施設に収容されていると伝えられる。しかしレイズ医師の行為はなにか不自然なものがあり、さらには施設内では不気味な現象が起きるようになるのだった…というあらすじ。
原作は80年代に登場した同名のコミックで、次なる世代のXメン候補として集められた若きミュータントたちの活躍を描いたもの。90年代にアーティストがロブ・ライフェルドになったことでタイトルが「Xフォース」になったことはアメコミファンにはお馴染みですね。
映画に登場するのはダニエル・ムーンスター(ミラージュ)のほか、狼に変身するレイン・シンクレアー(ウルヴズベイン)、飛行能力を持つサム・ガスリー(キャノンボール)、太陽光をパワーに代えるロベルト・ダコスタ(サンスポット)といったオリジナルメンバーの面々。オリジナルメンバーとしてはサイキックパワーを持つシャン・コイン・マン(カルマ)が唯一登場してなくて、代わりにあとから入ったメンバーであるイリアナ・ラスプーチン(マジック)が出演している。
マジックは人気キャラだから登場したのも理解できるのだけど、テレポート能力に加えて魔法が使えるというのがミュータントっぽくなくて個人的にはあまり好きじゃないんだよな。カルマが登場しないのは、サイキック・パワーという絵的には地味な能力を持っているからかもしれない。しかし実は高速で飛行するキャノンボールが、隔離された施設という設定にいちばん合ってなくて、ろくに能力を披露できてないのであった。空を飛ぶキャラとそうでないキャラの組み合わせってコミックよりも映像のほうが難しいのかもしれない。
監督が「きっと、星のせいじゃない。」のジョシュ・ブーンということもあり、ティーンの男女を主人公としたヤングアダルト路線を狙ったのかな?パワーをコントロールできない若者が情緒不安定になる描写とか、原作にはない同性愛的な要素とかがそれっぽいのだけど、その一方で監督はどうもホラー映画を撮りたかったらしく、最初の予告編とかポスターは確かにそれっぽい雰囲気が出ていた。しかしディズニーがあとから注文をつけたのかずいぶん後に再撮影が行われ、ホラー的な要素も薄まって、結局のところ何をしたいのかよく分からない中途半端な作品になってしまった。同じくFOXの「ファンタスティック・フォー」もそうだったけど、いろいろ手直しが入ったんだな、と観ていて分かってしまう作品というのは決して面白いものにはならないですね。
話のベースになってるのは原作の「THE DEMON BEAR SAGA」のあたりだが、あれはビル・シェンキヴィッチの幻想的なアートがうまくスピリチュアルな話に合っていたから評価が高いわけで、それをただ設定だけ持ってきてクマを出されても困ってしまうのだクマ。
キャストは多国籍なキャラクターにいちおう配慮して、ダニエル・ムーンスター役にはネイティブ・アメリカン系のブルー・ハントを、ブラジル系のロベルト・ダコスタにはブラジル人のヘンリー・ザガをキャスティングしてるのだが、ヘンリー・ザガの肌がずいぶん白くてコミックに似ていないことは原作者のひとりであるボブ・マクレオドも批判してたな。いつもはいい演技をみせるアニャ・テイラー=ジョイも、ロシア人のマジック役を演じてるためロシア訛りのセリフが耳障りであったよ。
いちおう他の「X-MEN」映画とのつながりも示唆されてるが、これがFOXとして最後の「X-MEN」作品になるため、そこらへんの伏線は回収されないままになるんでしょう(そもそもエセックス社の黒幕ってあんま怖くないヴィランだしぃ)。長年の人気を誇ったシリーズがこうして地味に終わってしまうのは寂しいが、いずれディズニーが「X-MEN」を復活させるときは「フューチャー&パスト」くらいの傑作を作ることができるのだろうか。