「フロリダ・プロジェクト」のショーン・ベイカー監督でA24製作の映画。2021年末に公開されてたのをやっと観た。
舞台はテキサス州のテキサスシティという小さな港町。カリフォルニアでポルノ男優をやっていたマイキーは職にあぶれ、文無しの状態で故郷のこの町に戻り、元妻の家に居候することになる。まともな職歴がないことからそこでも仕事にありつけず、マリファナの販売に携わることになった彼は、ドーナッツ店で見かけた少女レイリーに惹かれ、彼女と共に再びカリフォルニアに向かうことを夢見るのだが…というあらすじ。
プロットらしきプロットはあまりなくて、憎めない奴なんだけど徹底的なダメ男であるマイキーを中心に、家でタバコ吸ってるだけの元妻とその母親や、隣人のボンクラ男、マイキーを信用してないマリファナの売人などといった、貧しい地域に住む人たちの生き様が描かれていく。全体的にはドタバタが強調されたコメディドラマといった感じかな。
「フロリダ・プロジェクト」もそうだったがショーン・ベイカーってこういう貧困層の人たちの描写が上手くて、ハリウッド映画では見かけない層の人たちが出てくるのが逆に新鮮なのよな。imdbによると製作費はなんと1100万ドルという信じられないくらいの安さだが、それでもちゃんとフィルム撮りしていて、石油タンクの立ち並ぶ夕暮れの街並みとかがすごく美しかった。
出演者も「フロリダ〜」同様にズブの素人が多く、レイリー役のスザンヌ・ソンはほぼ無名の役者だし、他の出演者は監督に道で呼び止められて出演することになった、という人もいるみたい。マイキー役のサイモン・レックスって実際に無名時代にポルノ男優やってたらしく、その後はダート・ナスティー名義でラッパーやったり、「最終絶叫計画」シリーズに出たりと、正直なところパッとした活躍のないまま今に至ってるような人のようだけど、この作品ではそうした実生活での苦労が滲み出た見事な演技を見せてくれているのが素晴らしい。マイキーはポルノ男優やっていた過去を自慢しつつも、今はクスリがないとモノが立たないような状態で、未成年のレイリーをポルノ業界に誘うことに何の悪気も感じてないような奴なのだが、そんなモラルに欠けた人物を絶妙に演じております。
いつものことながら、ダメ男が主人公の映画は個人的に嫌いになれないのですが、自分と同い年のサイモン・レックスが演じるマイキーがとことんダメなこの映画、親近感を超えて哀愁まで感じさせる出来であった。この作品の高い評価を受けてレックスには役のオファーが相次いているようで、彼のこれからの活躍に期待しております。