
デビッド・クローネンバーグの新作だよ。以下はネタバレ注意。
舞台は近未来。カーシュは数年前に妻のベッカを癌で亡くして悲観に暮れていたが、特殊な3Dスキャン機能つきの埋葬布(シュラウド)を開発し、それで妻の亡骸を包んで埋葬することで、墓の中で朽ち果てていく遺体をいつでもスマホでチェックできるようにしていた。それを彼はビジネス化して、『グレイブテック』と名付けられたモニター付きの墓地はブダペストなど土葬の文化がある地域にも展開されようとしていたが、何者かによってカーシュの妻が眠る墓地が荒らされてしまう。さらにシュラウドとの通信ネットワークがハッキングされたことで、妻の遺体の監視ができなくなったカーシュは墓を荒らした犯人を探そうとするうちに大きな陰謀に巻き込まれていく…というあらすじ。
クローネンバーグ自身が妻を亡くしており、その経験にインスパイアされて作ったということでいろいろ個人的な想いが込められているのでしょう。ヴァンサン・カッセル演じるカーシュはヘアスタイルとかがまんまクローネンバーグ本人の格好になっている。
カーシュは妻の死を悼んでいる一方で恋人募集中で、出会った人には妻の遺体の映像を見せてドン引きされている。そんな彼のまわりには妻の双子のテリー(ダイアン・クルーガー)、その元夫でグレイブテックの技術係のモーリー(ガイ・ピアース)、さらにブダペストでグレイブテックの墓に埋葬を希望する富豪の妻(サンドリーヌ・ホルト)などがおり、それぞれが秘密を抱えてカーシュを翻弄していく。
カーシュのもとに亡き妻の幻影が何度も現れ、癌が進行していくにつれて彼女の体が手術跡だらけになっていく様は往年のクローネンバーグのボディ・ホラー風味なのだけど、今回はそれ以上にテック・スリラーの色が強く、「ザ・フライ」や「イグジステンス」といった過去作とはまた違った形でテクノロジーが話に食い込んでいる。美少女風のAIアイコンが出てくるスマホなんて、クローネンバーグの作品で目にするとは思わなかったよ。テクノロジーや国際的なネットワークの陰謀論が前面に出ていて、まるでウィリアム・ギブソンの小説のようであった。
この作品についてクローネンバーグは「自分の最後の映画になるかもしれない」と語っているのだけど、かなり伝統的なボディホラー作品だった前作と違って、今回はテック・スリラー&国際的陰謀論という、彼にとっての新境地(だと思う)を切り開いた作品だと思うので、ここで創作を止めてしまうのは勿体無いよな。普通に面白い内容になっているし。
題材が題材なだけに本国ではろくに宣伝してもらえなく、興行的には失敗したそうだけど、そもそも当初はNETFLIXでシリーズとして企画が進んでいた作品だそうなので、同じようにどこかの配信サービスでクローネンバーグに新作を作らせればいいのに。