新年の気の滅入るドキュメンタリー第2弾。エロール・モリスの最新作で、世界を震撼させたアブグレイブ刑務所での捕虜虐待に関する一連の「証拠写真」の裏に隠された真実を明らかにしていくという内容のもの。
人々がカメラを正面から見つめて独白していくというモリス作品ではおなじみのスタイルをとりながら、実際に虐待容疑で有罪になったリンディ・イングランドなどといったアブグレイブでの当事者たちが、どのように虐待が行われ、どのような状況で写真が撮られたのかを淡々と語っていく。作品自体は決して彼らを糾弾するような内容にはなってなくて、写真を加工してマスコミがいかに情報操作を試みたかを説明している部分もあり、むしろ感覚がマヒして虐待を「悪」として見なすことが出来なくなっていった兵士たちの状況に焦点が当てられている。これに加えて何をもって虐待と見なすのかが極めて曖昧であることが語られ、例えば囚人を窮屈な体勢でベッドにくくりつけ、顔にパンツをはかせる行為は尋問をやりやすくするための「標準手順業務」(Standard Operating Procedure)と見なされるんだそうな。あれが許されるんだったら虐待がエスカレートしていったのも無理はないわな。そしてこれらの虐待が世間に公表されたとき、具体的な罰を受けたのは軍の幹部たちではなく末端の兵士たちだけであった。
「死神博士」や「フォッグ・オブ・ウォー」といったモリスの他の作品に比べるとやや観る人をつかむ力が弱いような気もするものの、興味深い作品であることは間違いない。去年アカデミー賞を穫った「Taxi to the Dark Side」のように、イラク戦争を糾弾するドキュメンタリーは今後も増えてくるのかな。あるいはオバマ政権になって、人々はイラクのことを忘れようとしていくのか。