前から観たいと思っていた作品だけど、期待してたほどのものではなかったかな。
ピーター・セラーズ演じる軽度の知的障害をもった庭師チャンスが、主人が死んだことにより子供の頃から出たことがなかった屋敷を追い出され、初めての外界で多くの人々と出会っていく。その無垢さゆえにチャンスは人々の心情を映し出す鏡のような存在になって、人々は彼の何も意味のない言動に対し勝手に深い意味を見いだして感銘を受けるわけだが、あくまでも彼らはチャンスがただの庭師だということを知らないわけであり、それに対して観客はチャンスの正体を知っているから人々とのやりとりがどうもまどろっこしく感じられるんだよね。フランク・ダラボンの「マジェスティック」を観たときにも感じたが、観客だけが主人公の過去を知っている場合、周囲の登場人物の応対などをちゃんとうまく描かないと、周囲の人々が単なるアホのように見えてしまうんじゃないかと。
なお世間知らずが世間に出た話、という意味ではリンゼイ・アンダーソンの「オー!ラッキーマン」のほうが面白かった。もしかしたら「引きこもりが親の死によって家から出た話」として見ることもできるかもしれない。チャンスがテレビ中毒だというのをネット中毒というのに置き換えてさ。
ピーター・セラーズって稀代なコメディアンという見方が一般的だけど、個人的には「ピンク・パンサー」シリーズを大して面白いと思わないことや、この映画や「博士の異常な愛情」の役の印象が強いために、むしろペーソスのある役者という感じがするんだよな。あのアホ映画「カジノ・ロワイヤル」でもしっかり途中で殺されてたし。むかしロンドンにあるフリーメーソンのグランド・ロッジを見学したときに彼の写真が飾られてたのには驚きましたが。