こないだ「世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶」が日本でも公開されたヴェルナー・ヘルツォークの新作ドキュメンタリー。
アメリカの死刑囚をテーマにしたもので、舞台となるのは(当然ながら)テキサス。2001年にマイケル・ペリーとジェイソン・バーケットという2人のティーンエイジャーは、ある女性の家にあった赤いカマロを盗むためにその女性を殺害する。さらに帰宅した女性の息子とその友人も殺害し、遺体を湖や森の中に廃棄するのだが、数日後に警察と銃撃戦をした末に逮捕され、ペリーは死刑を、バーケットは終身刑を言い渡される。そして2010年に死刑執行を数日後に控えたペリーにヘルツォークは面会し、さらに彼の友人や被害者の遺族、当時を知る警官などにも会って事件と死刑の重さを浮き彫りにしていく。
まだ30歳にもならず童顔のペリーは「僕はクリスチャンだから死んだら天国に行けるんだ」と語り、彼もバーケットも自分たちの罪を明確には認めていないわけだが、事件の真相を明かすというよりも当時いったい何が起きたのかが映画のなかで詳しく語られていく。1つ驚くのは加害者と被害者の周囲における不運というか恵まれない状況の数の多さで、殺された女性の娘は6年のあいだに他の親族も次々と亡くなったと語り、バーケットの父親と兄弟は別の罪で同じ刑務所に入れられ(父親の刑期は40年)、3人目の被害者(息子の友人)の兄もまた刑務所に入れられていた。単にこれがテキサスの低所得層の生きざまなのかも知れないが、もっと得体の知れない因果といか業のようなものを感じてしまったよ。
そしてペリーは死刑執行の直前に被害者の遺族へ「僕はあなたたちを許します」と述べ(ふつう逆だろ)、薬物注射される死刑台へと向かっていく。一方でバーケットは父親が刑務所から一時的に出てきて法廷で熱く彼を弁護したことが効いて死刑でなく終身刑を与えられ、40年後に来るかもしれない仮釈放の機会に思いを馳せている。さらに塀の外から彼のことを知った女性が彼と恋に落ち、彼と結婚したばかりか、手を握ることくらいしか許されてないはずなのに彼の子供を身ごもってしまう!あれ本当にバーケットの子供なんだろうか。その女性は自分が「囚人グルーピー」であることは否定するものの、言動がちょっと不思議ちゃんなんだよな。
他にはテキサスで初の女性受刑者の死刑を執行したあとに神経衰弱となって死刑反対の立場をとるようになった元職員の話などが興味深かったな。常識を逸した話もいろいろ出てくるものの、みんな目に涙を浮かべながら真剣に話しているのを見ると、作品のタイトルのごとく人間性の深淵を覗いているような気分になってくる。
ヘルツォーク自身は画面に登場しないものの、あの特徴ある訛りの声で喋ってるので存在感はありまくり。死刑に対する彼のスタンスは作品中だとあまり明確にされないものの、このインタビューによると死刑には反対しているらしい。また一般人とは異なり自分の死ぬ日時を明確に分かっている死刑囚たちと話すことによって、生きるということが再認識されることに惹かれてこの映画を作ったのだとか。
なおこの作品には、別の死刑囚たちとヘルツォークとの面談を扱ったスピンオフ的な全4話のTVシリーズがあるらしく、そちらもぜひ観てみたいところです。