いまアメリカで公開中のファウンドフッテージもののホラー。何について書いてもネタバレになってしまう気がするので、ここから先を読むのはお気をつけください。
舞台となるのはメリーランド州のクラリッジという人口6000ほどの小さな港町で、2009年の出来事。町は7月4日の独立記念日を迎えて賑わい、多くの人たちが浜辺へと繰り出していた。しかし水に入っていた人たちの多くに、皮膚の炎症が起きるという事態が発生する。最初は水中のバクテリアに対するアレルギーかと思われていたが、患者の数は増加し、さらには嘔吐などを繰り返す人々も続出。やがて苦悶のうちに絶命する人もあらわれ、町は一夜にしてこの世の地獄と化す…というようなプロット。
(ここから先は本当にネタバレなので白文字にします)町の住民たちを襲ったのは、実はバクテリアではなく突然変異した寄生虫のワラジムシ(ウオノエ)。もともと魚に寄生する生物だったのが、町の養鶏場から垂れ流されたステロイドだらけの鶏糞や、放射能汚染などの影響で凶暴化して人を襲うようになったのだ。おまけに幼虫の段階で人の体内に入り込み、急成長して肉を食い破って出てくるというおぞましさ。ウオノエ(画像をググってみよう)って魚の舌を食べ、代わりに口のなかにちょこんと座って寄生している姿を図鑑で見た時はトラウマになったものだが、図体がデカいわけじゃないから銃などで戦うわけにもいないし、ゴキブリみたいにモゾモゾ這い回ってる姿はかなり不気味であった。(白文字ここまで)
当日に町で撮影をしていた新人レポーターが狂言まわしとなって、ビデオカメラや監視カメラ、スカイプなどのさまざまな映像が組み合わせられて惨劇の様子が語られていく構成。映像の時系列は一貫したものではなく、事件の6週間前に海洋汚染を調査していた科学者の記録映像や、クルーザーで町に向かっている若きカップルの姿などが重ね合わせられ、クライマックスへと話が進んで行く。従来のファウンドフッテージものって室内など場所が制限されてる場合が多かったような気がするけど、これは町のさまざまな状況を多角的に見せる構成になっている。グロ描写はあからさまでなく弱冠抑えめで、雰囲気で怖さを醸し出している感じ。また事態を隠蔽しようとする政府をチクリと皮肉っているし、明らかに「ザ・コーヴ」に影響されたようなカットもあるぞ。あと放射能漏れがどうたらというシーンもあるんだが、日本公開にはそれがネックになたりしないかな。
ちなみにこれ監督はバリー・レヴィンソン。そう、「レインマン」のあの人です。ここ最近は社会風刺ドラマをずっと撮ってた印象が強いが、なぜ今になって突然ファウンドフッテージのホラーなんかを作ったんだろう?しかも劇場公開と同時にVODレンタルされるというインデペンデント作品だし。70歳にもなって単に人気に便乗したとも思えないが、演出と編集が手堅いために話が散漫にならずいい効果を生んでいる。実はこういうジャンルに向いてるんじゃないのか?なお出演者は一般人っぽさを出すためか無名の役者ばかりだったけど、「キャビン(・イン・ザ・・ウッズ)」のクリステン・コノリーが出てました。彼女は新世代のスクリーム・クイーンですね。
ストーリー自体は決して目新しいものではないけれど、巧みな脚本と演出のおかげで従来のファウンドフッテージものと一線を画した佳作。これ観るとしばらく魚が食えなくなるかも。