「The World’s End」鑑賞


エドガー・ライト&サイモン・ペッグ&ニック・フロストによる「コルネット三部作」の第3弾。「ショーン・オブ・ザ・デッド」や「ホット・ファズ」の直接の続編ではないが、小さな町における不可解な事件と騒動というテーマは一緒。以下はネタバレ注意な。

ゲリー・キングは40歳手前になっても適当に生きているボンクラ。彼は楽しかった学生時代のことが忘れられず、かつて仲間と一緒に試みて失敗した、故郷の町のパブ12軒のハシゴを完徹しようと元同級生4人に声をかける。ゲリーと違って職や家族をもって安定した人生を送っていた4人は彼の誘いに躊躇するものの、その熱意におされて5人で故郷の町に向かうことに。そこで昔話をしながら酒を飲み始めた彼らだが、町の住民の様子が何かおかしいことに気づく。数年ぶりにあった人たちが彼らのことを憶えておらず、皆が彼らを監視しているようなのだ。そして彼らは町に隠された恐るべき秘密を知ることに…というストーリー。

前半4分の1くらいまでは中年男性のノスタルジアがテーマになっていて、そこから突然「光る眼」とか「ステップフォードの妻たち」みたいな展開になっていく。冒頭から遠く離れたところで終わるオチは賛否両論あるかな。基本はインベージョンもののオマージュというかパスティーシュであるわけだが、それが小さな町を襲うモノカルチャーの波のアナロジーにもなっているのが明らか(劇中では「スターバックス化」と呼んでいた)。

また主人公のゲリーはボンクラなようで暗い秘密を抱えていることが示唆され、学生時代が頂点で、それから下り坂の人生を暮らしている男の哀しみが意外にもうまく描かれていた。彼の仲間たちも学生時代のトラウマを抱えてることが語られていくわけだが、彼らみんな俺と同じ世代なのでここらへんは心に結構ビシビシと来ましたよ。彼らの青春時代の象徴としてサントラに使われてる90年代前半のヒット曲なんかね、俺いまでも聴いてますから。まあ自分の場合は学生時代もそんな楽しくなかったけど。

ペッグ&フロストのバディものだった前2作に比べ、今回はペッグ演じるゲリーが圧倒的な主人公で、フロストが演じるキャラはサブにまわっているという感じ。パアディ・コンシダインのキャラと同格といったところか?3部作常連のマーティン・フリーマンも出てるよ。ヒロインとしてロザムンド・パイクがでてるんだけど、「アウトロー」でも「驚いた顔」ばかりしていた彼女はここでも「驚いた顔」ばかりしていて…表情に乏しいのよねこの人。あとは「ホット・ファズ」にボンド俳優のティモシー・ダルトンが出ていたのに続いてピアース・ブロスナンが出ているぞ。

3部作のほかの作品よりも優れているとは必ずしも思わないが、うまーく伏線が貼られた、安定したクオリティで最後まで楽しめる作品。90年代に学生だった人たちは観てみましょう。

「The Day of The Doctor」鑑賞


ついに放送されたのだよ「ドクター・フー」50周年特番。

久しぶりの再会を果したドクターとクララだったが、直後に英国政府のヘリコプターによってターディスごとトラファルガー広場に運ばれてしまう。そこではブリガディアの娘が彼らを待っており、イギリスおよび世界を揺るがしかねない危険がせまったときのみに開封されるというエリザベス1世(2世じゃないよ)のメッセージをドクターに伝える。その調査にあたったドクターは時空の歪みに出会い、それを通じて10代目ドクターに遭遇する。さらに「タイム・ウォー」を虐殺により終わらせようとしていた、8代目と9代目のあいだの「ウォー・ドクター」も彼らのもとに現れ、3人はともにイギリスの危機を救おうとするが、そもそも彼ら3人を引き合わせた存在は何なのか…というプロット。

ここから先はかなりネタバレになるので白文字にします:

ウォー・ドクターの野望を2人のドクターが阻止する物語になるのかと思いきや、前半は姿形を自在に変化させられる異星人ザイゴンに3人が力を合わせて対抗する話になっていて、後半もタイム・ウォーの虐殺をいかに止めるかを3人が知恵を絞って考えるというような内容になっていた。つうかウォー・ドクター、話の分かる人じゃん!かなりシリアスな話になるかと思いきや細かいギャグか散りばめてあって、それはそれで「ドクター・フー」の本領発揮ですな。

10代目ドクターに加えてドブスのローズも再登場するが、本人役ではなく兵器のインターフェースによる幻影という扱いで、2人のドクターとのかけ合いなどはなし。もちろん9代目ドクターが再登場しないのは残念だが、たしかに登場人物が多くなったらかなり話が散漫になっていたかも。最後の「あの人」のカメオ出演は本人が事前にガッチリとバラしていたので驚きはなかったが、それでも感慨深いものがありましたよ。むしろ「次の人」が一瞬だけ出たことに感激。

本国では3Dで放送(公開?)されたとのことで3Dを意識した画面作りにところどころなっているが、どのくらい効果的だったのかは当然分からず。ドクターの歴史が修正され、次なる冒険への道が開かれるという点では50年の集大成というよりも1つの大きな特番といった感じだったかな。なお再生の制限回数のことが何も言及されてないのは少し意外であった。結局11代目は実は12代目であり、次の13代目が最後になってしまうのか?ほかにもツッコミ所は多いんだけど、何も文句は言いません。クリスマス・スペシャル、および次のドクターにおいてより多くの謎が解明されていくでしょう。

・「手をヒラヒラさせんと話が出来んのか?」
・「12人か?」「13人います!」
・「次は耳が目立たないと良いが…」

「An Adventure in Space and Time」鑑賞


50周年特番をいよいよ明日に控えた「ドクター・フー」のさらなる関連番組で、50年前の番組開始時の裏側を描いたドキュドラマ。

時は1963年。BBCより30分の放送枠を埋めるための番組を製作するよう伝えられたプロデューサーのシドニー・ニューマンは、自分がSFファンであったことから子供向けのSF番組を作ることを考案し、かつての助手だったヴェリティ・ランバートに製作を担当させる。ヴェリティは監督のワリス・フセインと組んで番組作りに奔走し、頑固な老人というタイプキャストに悩んでいたウィリアム・ハートネルを説得して主人公を演じさせる。男性中心だったBBCにおいてヴェリティたちはさまざまな困難に立ち向かいながら、ついに新番組「ドクター・フー」を完成させる。しかし第1話の放送はケネディ大統領暗殺のニュースに埋もれてしまい…といようなプロット。

前半はBBCの女性初プロデューサー(あと劇中では言及されないがユダヤ系)のヴェリティと、BBC初のインド人ディレクターのワリス(ついでにゲイ)が女性差別や人種差別に直面しながらも番組を立ち上げていくさまが描かれ、後半は彼らが番組を去ったあと、ドクター役のウィリアム・ハートネルが高齢と病気によってセリフを憶えられずに苦悩する姿が描かれている。60年代のBBCを舞台にしていることでは「THE HOUR」に似ているところがあるな。生放送ではないのに編集が4回しかできず、小道具が故障しようとハートネルがセリフをトチろうと、ひたすら撮影が進んでいくさまが熱気があって面白いぞ。

脚本はマーク・ゲイティス兄貴。当時のスタッフや「ドクター・フー」の歴史に対する敬意が随所で払われていて非常によく出来た内容になっている。もともとは40周年のときに考案したものらしいが、50周年にもってきたことでさらなる円熟感が加わっているかと。最後に「あの人」が出てきたシーンは感動的でした。出演者はあまりよく知らない人たちばかりだけど、デイビッド・ブラッドリー演じるウィリアム・ハートネルは本人そっくりでよろしい。あと名物プロデューサーのシドニー・ニューマンをブライアン・コックスが演じていて、やはりあの人の演技は巧いよなあ。

ウィリアム・ハートネルって撮影現場でも実際にガンコで差別的だったという話を聞いて、個人的には必ずしもお気に入りの役者ではなかったんだけど、実際はもっと奥の深い人物であったことをこれを観て実感しました。作る側が熱意をこめて楽しんで撮影したことがひしひしと感じられる傑作ですよ。

「FRANCES HA」鑑賞


ノア・バームバックの新作。前作「Greenberg」(邦題忘れた)はコミュ障中年のしっとりとしたラブストーリーだったが、実はその裏ではリアルなネトラレ劇が進んでいたとのことで、自分の奥さんを出演させておきながらもちゃっかり主演女優とデキていたらしく、ついには「Noah Baumbach」でググると「Noah Baumbach cheated」と検索候補が出てくるようになってしまった。ここらへんグーグル様は容赦ないな。とはいえバームバックと主演女優のグレタ・ガーウィグは交際するようになりまして、これが彼らの組んだ2本目の作品。

フランシス・ハラデイはニューヨークに住む27歳の女性。彼女はプロのダンサーを目指しているもののまだ見習いの立場で、家賃の支払いに苦労している次第。親友のソフィとアパートを共同で借りていたがソフィが別の友人と住むことになり、フランシスはレヴとベンジーという2人の男性のアパートを間借りすることに。それでも貧乏の彼女は年末にカリフォルニアの実家に帰ったり、クレジットカードで借金して衝動的にパリに行ったり、ウェイトレスとして働いたりといろいろ遍歴を続けていく。しかし彼女はダンサーの夢を捨てないのであった…というようなストーリー。

夢を熱心に追いかける女性の物語、というよりも人生設計ができなくてフラフラしてる人の話といった感じかな。フランシスは周囲の空気が読めず、男性にもコミットできずソフィたちに迷惑をかけている始末。これ男性だったら相当イヤな奴の話になってたろうな。彼女は運にも恵まれずダンサーの仕事になかなかありつけずにいたりするのだが、あまり中心となるプロットはなくて、フランシスとソフィの友情を軸にフランシスの生き様が描かれていくような構成になっている。

ダンサーとか彫刻家とかライターといったヒップな人たちがいろいろ出てくる、ニューヨークが舞台のモノクロ映画ということで、なんか学生時代によく観てた70〜80年代ののアングラ映画を思い出してしまったよ。でも貧乏とはいえ高そうなもの食ってるし、いいアパートに住んでるのでなんか全体的に甘っちょろい感じがすることは否めない。恋人同士で映画を作るとこういう出来になってしまうのかなあ。

グレタ・ガーウィグ以外の出演者はみんな知らない人ばかり。ソフィ役のミッキー・サムナーってスティングの娘なのか。ディーン・ウェアハムとブリタ・フィリップスが音楽を担当してるほかチョイ役で出演してたらしいが気づきませんでした。

ガーウィグは体がゴツいけどコケティッシュな魅力があるし、ダンスのシーンも躍動感があって悪くはない映画なんだけど、「AVクラブ」などで絶賛されてるほどではないかな。単におれが女心を理解してないだけかもしれませんが。

ちなみにバームバックの次作はドリームワークスのアニメーションになるの???

「The Night of the Doctor」鑑賞


来週末の「ドクター・フー」50周年特番「The Day of the Doctor」に向けてファンの期待は高まるばかりでして、本家BBCもそれに絡んだ番組をじゃんじゃかと投入しており、ブライアン・コックス(学者のほうな)がドクター・フーの科学について語る番組とか、初放送時の裏側を描いたドラマなどが放送されるほか、twitterのハッシュタグの宣伝映像なんてものまで作られているわけです。

そしてこの「The Night of the Doctor」は特番に先駆けて放送(配信?)された7分ほどのミニエピソードで、主演はなんと8代目ドクターことポール・マッガン!彼のドクターは1996年のTVムービー(おれリアルタイムで観たよ)にのみ登場しただけで、その後アメリカでシリーズを作る話が頓挫したために旧シリーズと新シリーズのあいだのミッシング・リンク的な存在になっていたのだが、まさか約20年ぶりに彼がドクターを演じるとは。事前のインタビューで「自分は特番には出演しない」と発言していたのでファンを失望させてたのだが、ミニエピソードで登場させるとは憎いねスティーブン・モファット。

エピソードの内容はダーレク族とのタイム・ウォーが激化するなかで、出会った女性を救えなかったドクターが命を落とし、カーンの女たち(4代目ドクターのときのキャラクターらしいが、俺は知りませんでした)によって一時的に蘇生され、次のドクターの姿や性別などを選べると告げられた彼は、戦争を終わらすための「ウォー・ドクター」となることを決意する…とうようなもの。

ジョン・ハート演じるこの「ウォー・ドクター」が50周年で中心的な役割を果たすわけだが、「じゃあ9代目から11代目は、実は10代目から12代目になるのか?」などとさまざまな憶測がファンのあいだでは流れているらしい。まあここらへんはあと1週間待つしかありませんな。予算がなかったのか特撮がいつも以上にショボいのには目をつむるとして、マッガンのドクターって長髪だったせいかもっと女性的な印象があったけど、今回は短髪でもっと骨太な感じ。あと彼が主演のオーディオブックのキャラクターが言及されてるのかな?

久しぶりに顔を見たかと思いきやすぐに死んでしまうのは勿体ない話ですが、今までの大きな謎がこれで1つ明かされたわけで、いっそ今からでも8代目ドクターの出てくるプリクエルとか作っても良いんじゃないかと思うわけです。そしてすべては来週の特番で明かされるのか…?