「FRENCH EXIT」鑑賞

良い評判を聞いていた作品。日本では「フレンチ・イグジット 〜さよならは言わずに〜」の題名で配信スルーだそうな。

裕福な寡婦のフランシスは身勝手な性格で、息子のマルコムを12歳の頃から放任主義で育ててきた。そんな彼女は財産がすぐに底をつくことを銀行より知らされる。財産が尽きる前に死ぬつもりだった彼女は「死ななかった」のでニューヨークのアパートを売り払い、パリにある知人のアパートにマルコムと移り住むことになる。こうして母と息子と猫1匹のパリ生活が始まるのだが、やがて彼らのアパートには様々な人が集まり…というあらすじ。

ヨーロッパを舞台にしたアンサンブルコメディ、という点ではウェス・アンダーソン作品に似てなくもないが、あっちよりも金銭問題とか恋愛関係とかがリアルに描かれていて、もうちょっとアダルトな雰囲気。色彩も当然アンダーソン調ではないが、パリの風景が美しく撮影されていて良いですよ(モントリオールでも撮影したらしい)。パリのウェイターが横柄なところもちゃんと描写されている。

題名の「French Exit」というのは、例によってフランス貶しの表現の1つで、「断りもなしに急に去ること」を指すのだそうな。この作品も急に登場したと思いきや、突然去っていく人たちがチラホラ。まあ人生にすっきりとした別れなんて無いということか。フランシス本人が前述したように人生の退出タイミングを間違えたような人で、金の切れ目が人生の切れ目であるかのように、残った資産を惜しみなく人に与えたりして退出に向かっていく。

タバコをスパスパ吸ってる有閑マダムのフランシスを演じるのがミシェル・ファイファー。おれ彼女ってあまり好きな役者ではなかったのだけど(実を言うと、夫のデビッド・E・ケリーの最近の作品が好きになれないのが大きな理由だが)、今回の役は実にハマっていて、絶賛されているのもよくわかる。そんなフランシスを怪訝そうに見守る息子のマルコム役のルーカス・ヘッジスもいい感じ。マルコムの婚約者役にイモージェン・プーツ。フランシスたちと勝手に友人になる未亡人をヴァレリー・マハフェイが演じていて、おれこの人知らなかったのだけど非常に良い演技でした。

原作は「The Sisters Brothers」のパトリック・デウィットの小説をデウィット自身が脚本化し、「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」のアザゼル・ジェイコブスが監督。最近のクドくなってきたウェス・アンダーソンの作品よりこっちのほうが好きかも。良作。

「シャン・チー/テン・リングスの伝説」鑑賞

まだ公開したばかりなので感想をざっと。いちおうネタバレ注意。マーベル・コミックスの原作のキャラクターにはそんなに思い入れがなくて、「燃えよ!カンフー」やブルース・リーに始まる70年代のカンフーブームに便乗して登場した、アジア人から見たら違和感を感じるアジア人キャラ、というのが最初見たときの印象だったな。ポール・グレイシー&ダグ・メンチによる一連の作品は面白いらしいですが。

ポール・グレイシーの連続コマ、カッコいいよね!

70年代のスタイルだと流石にもはや政治的に正しくないので、近年になってからはもっとスポーティな若者ルックになって登場して、それが今回の映画版のもとになってるようです。

内容もきちんとアジア人に配慮したものになっていて、サンフランシスコの中国系コミュニティから話が始まり、マカオに移って、それから謎めいた部族が長い間守り続ける秘境の存在が明らかになって、そこを守るために主人公は立ち上がる…ってこれ「ブラック・パンサー」のプロットじゃないか?あれもカリフォルニア→釜山→アフリカと話が移っていったし、外部からの襲撃に備えて部族が武装するあたり、「これ前にも観たぞ?」と思ってしまったよ。

それを考えるとアフロフューチャリズムでテーマが一貫していた「パンサー」と異なり、こっちはスーパーヒーロー映画、カンフー映画、ファンタジー映画、ついでに最近のディズニーが好きなハリウッド風エスニック映画の要素をいろいろ盛り込んできて、結局はすべてにおいて中途半端に終わっている感じだった。テン・リングスの仕組みとか、最後の敵とか、もうちょっと細部を詰めれば良かったのに。テレパシー?が使えるならさ、単に暴れさせるだけじゃなくて自分の野望とか語らせれば良かったんじゃないの。

デスティン・ダニエル・クレットン監督の過去作は未見。「ショート・ターム」とか評判良いのだけどね。主役のシム・リウはコミックのシャン・チーに比べておっさん顔のような気もするが、トロント出身のアジア人ということで個人的には応援します。オークワフィナもいい役者になったよな。彼女とミシェル・ヨーとロニー・チェンと、「クレイジー・リッチ!」に出てきた役者が3人もいるあたり、ハリウッドにおけるアジア人俳優の層ってやはり薄いんだろうか。シャン・チーの妹役のメンガー・チャンはこれが映画デビュー作?なんでこんな大役にいきなり起用されてるの?この作品の中国公開が決まってないことを考えると、中国市場に媚を売るためとも思えないしなあ。

そして役者としてはやはりトニー・レオンがいちばん巧くておいしい役を演じていて、むしろ彼を主役にしたほうが良かったんじゃないの。「ブラック・パンサー」もそうだったがヒーローに対して複雑な感情を抱く敵役のほうがずっとキャラクターとしては面白いのだけど、ディズニーはそういったキャラを主役には持ってこないだろうね。

マーベルのスーパーヒーローもの、というよりはディズニーのファンタジー作品という印象が強くて個人的にはどうも好きにはなれなかったけど、シャン・チーは今後もマーベル映画に登場してくるでしょうから、アジア人ヒーローとして活躍してくれることに期待します。