「IN A VIOLENT NATURE」鑑賞

評判の良いカナダのスラッシャー映画。以下はネタバレ注意。

舞台はどこかの山奥。そこのキャンプ場にきていた若者たちが火の見やぐらの跡地にあったペンダントを盗んだことから、それによって封印されていた殺人鬼の怪物ジョニーが復活、母親の形見でもあるペンダントを取り返すために彼は若者たちを執拗に殺していく…というあらすじ。

手っ取り早く言えば「13日の金曜日」のパスティーシュなのだが、特徴的なのが話がジョニーの観点で進んでいくこと。ゲームで言えば「ドゥーム」のようなPOV形式ではなく、「グランド・セフト・オート」みたくジョニーを背後から眺める形で、彼が森のなかを歩き回り獲物たちに近づいていくさまを観る人は体験していく。画角はほぼ正方形で劇中は音楽が流れず、淡々とジョニーの背中を見せられる展開は人によって好みが別れるだろうけど個人的には興味深かったです。

昔の消防士のマスクを被り、材木用の鉄の鉤を使って黙々と若者たちを血祭りにあげていくジョニーは一言もセリフを話さず、水中でも行動できて銃で撃たれても死なない怪物。まあ「13日の金曜日」のジェイソン君だね。彼にまつわる伝説は他の登場人物の口から語られ、どうも過去にも復活したことが示唆されるのが「ホラー映画の続編」っぽさを醸し出している。当初はジョニーの正面もろくに映し出されず、ムード感重視の内容だけど途中からグロ描写がいろいろ出てきてますよ。ジョニーは怪力の持ち主で機敏なところもあるもののノソノソ歩くだけで走れないのに、彼から逃げる犠牲者たちがやけに足を負傷するのはご愛嬌。

監督のクリス・ナッシュってこれが長編デビュー作なのかな。出演者もほぼ無名の役者ばかりだがオマージュ的に出演している人が1名。北米での評判は良いようで続編の製作も発表されたらしい。王道のホラーにうまくヒネリを加えたアイデアの勝利ですかね。

「THE SUBSTANCE」鑑賞

今年のカンヌ映画祭とかでいろいろ話題になったボディホラー。以下はネタバレ注意。

エリザベス・スパークルはハリウッドのウォーク・オブ・フェイムにも星が飾られているほどの有名スターだったが、50歳になったのにつれて人気は低迷し、ホストを務めるフィットネス番組からも切られようとしていた。そんな彼女はふとしたことから「サブスタンス」と呼ばれる謎の若返りの薬のことを知り、ダメ元で自分に試してみる。すると彼女の背中を破って出てきたのは、若く美しいもう一人の自分であった。スーと名乗ることにしたその美女とエリザベスはあくまでも同一人物であり、お互いの体のバランスを保つために1週間ごとに体を入れ替えなければならない。そして美しいスーはまたたくまにハリウッドの注目の的になってスターの座を満喫するのだが、年取ったエリザベスの体に戻ることを拒否したことで両者のバランスが崩れていき…というあらすじ。

ストーリーそのものは「ジキル博士とハイド氏」や「ドリアン・グレイの肖像」みたいに古典的なもので、新しく手に入れた快楽を堪能する自分の第二人格が暴走していく内容であり、オチもなんとなく見えてしまうけれどもそれに至るまでの過程が面白いというかグロいの。

監督のコラリー・ファルジャはデビッド・クローネンバーグの影響を公言していて、往年のクローネンバーグのボディホラー作品を踏襲した描写が散見される(あとキューブリックを意識したショットもあり)。その一方で、女性監督ということもあり女性の若さ・美しさだけが賛美されて消費されていく現代社会を批判しつつ、女性の体の際どい描写なども変に性的にならずに率直に撮っていて、クローネンバーグ作品とはまた違ってフェミニスト的要素が強いボディホラーというのが興味深かった。この監督、長編はこれでまだ2本目なのだが映像がすごい綺麗なんだよな。

自身の若さ・美しさに固執するエリザベスを演じるのがデミ・ムーア。実生活でも言っちゃ悪いが最近はパッとした作品のなかった俳優なので役に妙なリアリティを加えている。そんな彼女から生まれて、同一人物のはずがエリザベスをどんどん敵視していくスー役にマーガレット・クアリー。アンディ・マクダウェルの娘なんですね。あとはエリザベスの番組のプロデューサーで、金と視聴率のことしか考えていない横柄な男の役にデニス・クエイド。もとはレイ・リオッタが演じる予定だったのを彼が亡くなったのでクエイドが引き継いだらしいが、ご存知の通り最近クエイドはドナルド・トランプ支持を表明したりしてちょっとヤバい人になってきているので、こういう脂ぎったイヤミな男の役は妙にリアリティがあったぞ。

まあ50歳のエリザベスの役を61歳のデミ・ムーアが演じている時点で、実際のハリウッドって女性の歳はあまり気にされてないんじゃないか?と思ったりもするのだが、スタイリッシュなボディホラー(ただし最後の展開はエグいよ)としてかなり楽しめる作品だった。