「マネーボール」鑑賞


とても丁寧な脚本だなあ、というのが第一印象。アスレチックスの苦境が説明される所から始まり、セイバーメトリクスへの出会いと実践の過程に主人公の過去や私生活の描写が絡み合い、選手たちと親密になるのを避けていた主人公がやがて彼らと親しくなっていくという人間的な成長の様子も描かれ、スポーツの見せ場もちゃんと押さえられているというムダのないストーリー展開。ハリウッドのトップレベルの脚本家2人が関わると、こういう教科書のような脚本が出来上がるのかと納得。

でもまあ逆に話がまとまりすぎていて、ちょっと小ぢんまりとした出来になっている感もなくはない。20連勝がかかった試合での雰囲気とかは大変スリリングなものの、スポーツ映画に特有のカタルシスを与えてくれる作品ではなかったような。金持ちチームとの違いも年俸によって表されるため、いまいち戦力の差などもはっきりせず、「小が大を制す」快感は感じられなかったかな。尤もこれをスポーツ映画として観るべきではなく、ビジネス映画としてとらえるべきなのかもしれませんが。

そしてスクリーンを観ながら何を考えていたかというと「ソダーバーグならどう撮っただろう」ということでして、よく知られた話だがこの映画はもともとスティーブン・スダーバーグが監督する予定だったのが、スタジオの意向によって彼は降板させられたんだよな。選手を本人たちが演じ、セイバーメトリクスがアニメで紹介され、ジョナ・ヒルの代わりにディメトリ・マーティンが起用されていたというソダーバーグ版「マネーボール」がどんな出来になったかは知るよしもないが、この完成版よりももっと冒険的な内容になっていたんじゃないかと思う。

「HELL ON WHEELS」鑑賞


最近ちょっとゴタゴタが続いたものの、相変わらず質の高い作品を放送しているAMCの新シリーズ。

舞台となるのは1865年のアメリカ。南北戦争が終わり奴隷だった黒人たちは解放され、西部のさらなる開拓に目が向けられるなか、大陸を横断する鉄道の建設が進められ、ユニオンパシフィック鉄道のトーマス・クラーク・デュラントは工事を牛耳って多額の富を手にしようと画策していた。その工事現場にやって来たカレン・ボハンノンは南軍の兵士だったが、最愛の妻を北軍の兵士に殺された過去を持ち、その兵士たちを探して復讐するために現場で働くことになる…というような話。これに元奴隷の黒人とか、測量技師の夫をインディアンに殺された女性とか、キリスト教の洗礼を受けて西洋文化に目覚めたインディアンの若者などが話に関わってくるみたい。

金もかかってるし作りも決して悪くはないんだけど、ウェスタンとしてはちょっと微妙な出来かもしれない。主人公のボハンノンが第一話ではあまり活躍しないし酒に潰れたりしててカッコ良くないのがその原因課と。周囲が一目置くくらいにやたら強く、復讐に燃える男というくらいの描写を見せてくれないと。全体的にどうもウェスタンとしての様式美に欠けてるんだよな。別に「許されざる者」とか「トゥルー・グリット」のようなレベルを求めてるわけではありませんが。

物語のヒールとなるトーマス・クラーク・デュラント(って実在の人物なのか)を演じるのはコルム・ミーニー。俺の大好きな俳優ではあるものの、気のいいオヤジという役柄のイメージが強いのであまりこういうギラついた悪党の役が似合ってるとは思えなかったな。彼を全く知らない人が見たら違う印象を抱くんだろうけど。あとはラッパーのコモンなんかも出演していた。

期待してたほどの出来ではなかったとはいえ、AMCの作品だし今後の展開はもっと面白くなっていくんじゃないだろうか。どうも地上波ネットワークなどでもウェスタンの番組の企画が次々と進行中らしいが、ケーブル局の強みを活かしてタフなウェスタンを作って欲しいところです。

「THE EXES」鑑賞


去年の「HOT IN CLEVELAND」みたいに、レトロな感じのシットコムを製作しているケーブル局「TV LAND」の新作シリーズ。

妻と離婚して家を出たばかりのスチュアートは、弁護士のホリーの紹介で、彼と同様に離婚を経験した男性2人とアパートをシェアすることになる。彼と一緒に住むのはプレイボーイのフィルと内気なオタクのハスケルという性格が正反対の2人で、彼らは几帳面なスチュアートを疎ましく感じていたものの、反対側の部屋に住むホリーの助けもあって3人のあいだには奇妙な友情が生まれるのでした…というような話。

男性3人のドタバタ話、というのはそのまんま「HOT IN CLEVELAND」の裏返しになるのかな。有名どころの役者だと「Scrubs」のドナルド・フェイゾンが出ているぞ。まあ「フレンズ」あたりをベースにしたシットコムで目新しいところは全くないんだけど、逆になんか懐かしい気分で安心して観られるような感じ。これが地上波ネットワークの新作だったならばその凡庸さに文句言いたくなるところですが、TV LANDの作品なので大目に見たくなるわな。こないだの「Last Man Standing」なんかよりも面白かったと思う。

「TABLOID」鑑賞


エロール・モリスの新作ドキュメンタリー。ドキュメンタリーなんだけど探偵小説のごとき展開を持った作品なので以下はネタバレ注意。

時は70年代後半。ワイオミングに育ったジョイス・マッキンリーは美人コンテストなどでも優勝していた淑女だったが、モルモン教徒のカーク・アンダーソンと恋に落ちて結婚寸前まで行ったものの、彼女が布教の邪魔になると考えたカークとその仲間は黙ってイギリスへ渡ってしまう。ジョイスはそれにもめげずに金をためて人を雇い、イギリスへ行ってカークの居場所を突き止め、彼をさらって田舎の小屋に連れ込んで三日間にわたる「愛の営み」を行う。そしてロンドンに行ったら誘拐罪で彼女たちは逮捕され、カークをレイプしたという容疑をかけられてしまう。果たして三日間の行為は強制的なものだったのか、それとも合意のもとで行われたことだったのか?この件はイギリスのタブロイド紙の格好のネタとなり、「Manacled Mormon(手枷をはめられたモルモン教徒)」として各紙のあいだで白熱した取材合戦が行われるようになる。世論的は彼女に同情的であり、ジョイスは時の人となるのだが、彼女が過去にいかがわしい仕事に関わっていたことをある新聞が探しあててしまう…というような話。

カルト教団に立ち向かったメンヘラな女性の物語、といえばいいんでしょうか。当時のことを語るインタビューはジョイス本人によるものが7割くらいで、それに昔の仲間やタブロイド紙の記者などのコメントが絡んでくるような形になっている。ジョイスは喜々として自分の冒険を語るものの、その大半が美化されておりウソまがいであることに注意が必要。彼女の話のどこまでが本当なのかを観てる人が考えるようになる、というのはインタビューに定評のあるモリスの映画ならではですかね。ちなみにジョイスは呼ばれてもいないのにこの映画の試写会に出没しては「この映画はウソよ!」なんて言い放ち、しまいにはモリスを訴えたそうな(モリスは以前にもドキュメンタリーの対象に逆ギレされて訴えられている)。

題名から予想していたほどメディア批判などは行っておらず、何にでもとびつくタブロイド紙を揶揄している程度。モリスの近年の作品としては戦争などを扱っていないし、比較的軽めの内容になっているが、おかげでかなりとっつきやすい作品になっているかも。これを観たからといって何かが学べるような作品ではないですが、ジョイスという非常に興味深いインタビュー相手のおかげでなかなか楽しめる映画になっているといえよう。

「Life’s Too Short」鑑賞


「THE OFFICE」と「EXTRAS」のリッキー・ジャヴェイスとスティーブン・マーチャントのコンビによるBBCの新シットコム。

「ウィロー」や「ハリー・ポッター」シリーズなどで知られる小人症の俳優ワーウィック・ディヴィスを主人公にした疑似ドキュメンタリー風の作品で、ディヴィスが演じるのはフィクション化された彼自身。
番組内での彼は仕事にありつけず、妻とは離婚の協議中というサエない状態で、無能な会計士のおかげで莫大な税金を払うことになって頭を抱えている始末。仕方なしに彼は仕事を求めて旧知のジャヴィエイスとマーチャントのところに赴くのだが、あまり歓迎されず…というようなプロット。

気まずいシチュエーションが連発される展開と、奇怪にデフォルメされたセレブリティたちが本人を演じる内容は「EXTRAS」そのまんま。あの番組の続編といってもいいくらい。主人公が主人公なので身長に関する際どいジョークがたくさん出てくるぞ。

個人的には「EXTRAS」や「Curb Your Enthusiasm」みたいな、主人公が遭遇する気まずいシチュエーションを笑うタイプのコメディってあまり好きではないんだけど、どんな状況にもめげずに絶妙なタイミングでツッコミを入れるディヴィスの姿は結構面白かったな。彼ってこんなにコメディのセンスがあったのか。「ウィロー」がもう20年以上前の映画なので彼って相当なベテラン俳優になるわけだが、まだ41歳なんだよな。

第1話ではゲストにリーアム・ニーソンが出てきて、「俺はコメディがやりたいんだ!」と言って何故かエイズに関するジョーク(?)を無表情で連発する光景は抱腹絶倒もの。「EXTRAS」でのセレブの出演は当たり外れが大きかったけど、パトリック・スチュワートみたいに威厳のある役を演じることが多い役者がコメディを演じてるさまは非常に面白いですね。この他にもスティーブ・カレルやジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム・カーターなんかがゲスト出演するらしい。

やはり設定があまりにも「EXTRAS」に似ており、今後の展開もあのシリーズと同じものになりそうでちょっと先が読めてる気がしなくもないのですが、少なくとも第1話は及第点だったし、サプライズはなくても面白いシリーズになることに期待しましょう。