「VEEP」鑑賞


HBOの新作シリーズ。

あまり日本では知られてないがイギリスのTV業界にはアーマンド・イアヌーチ(ヤヌーチ?)という人がいまして、クリス・モリスと組んだりスティーブ・クーガンと一緒に「アラン・パートリッジ」を作ったりと、90年代からずっとトンガったコメディ番組を作ってる非常に腕利きの監督・脚本家・プロデューサーなのですよ。その彼の代表作に、英国首相の口の悪い補佐官の奮闘を描いた「THE THICK OF IT」(およびその映画版「IN THE LOOP」)という作品があるんだが、この「VEEP」はそのアメリカ版というべき内容になっている。

題名通り話の主人公はアメリカの副大統領(Vice PresidentだからVeepね)のセリーナ・メイヤーで、彼女は気さくな性格を持っている一方でどこか抜けたところがあり、スピーチなどで失言をしてドジを踏むようなタイプ。そんな彼女を支えるはずのスタッフも間抜けか野心家ばかりで、まっとうに仕事ができない有様。こうしてセリーナの周りではトラブルが次々と発生し…というようなプロットになっている。

主人公のセリーナを演じるのは「サインフェルド」のジュリア・ルイス・ドレイファスで、50歳超えてるというのにコケティッシュな演技が似合うなあ。あとは彼女の補佐官を「アレステッド・ディベロップメント」のトニー・ヘイルが演じていた。ちなみに大統領は画面上に登場しない設定になっているらしい。

ラフ・トラックなどは無くて、「THE OFFICE」などのように気まずい展開を笑うタイプのコメディだが、セリフの量がやたら多くてストーリーがテンポ良く進むような感じ。また「THE THICK OF IT」同様にありとあらゆる罵詈雑言が繰り出されるぞ。実際のホワイトハウスもこんなに無能な人たちが揃ってるだろうかと想像すると怖いものがあるし、野心家のスタッフの態度にはかなりムカついたりもしたんだが、コメディとしては何度も大笑いできるところがあった番組かと。

なんか「THE THICK OF IT」はこんどWOWOWでやるそうですが、これもいずれ日本で観られたりするんですかね?

「NYC 22」鑑賞


CBSの新シリーズ。

題名通りニューヨークを舞台にした警察もので、プロデューサーにはロバート・デニーロが名前を連ねている。何でもきちんとニューヨークで撮影されたドラマを作りたかったんだとか。パイロットの監督をジェームズ・マンゴールドが務めているほか、クリエーターのリチャード・プライスって「ザ・ワイヤー」に関わってた人なのか。でも当然ながら「ザ・ワイヤー」並みの奥の深さを期待できるわけでもなく、比較的平凡なドラマだったかな。

内容は警察学校を出てニューヨークの22分署に配属された新米警官たちの奮闘を描いたもので、彼らのなかには警官の一家の出身の者や、元新聞記者や元バスケットボール選手といった様々な経歴を持った者が含まれている。そして早速彼らはニューヨークの通りに出されるものの、右も左も分からないままいろんな事件に巻き込まれて…というのが第1話の展開。

主演はアダム・ゴールドバーグやリーリー・ソビエスキーなど。ゴールドバーグって別のドラマでは刑事役をやってたわけで、劇中でも年齢について突っ込まれてるけど、40歳近い新米警官なんているのかね。そしてソビエスキーのキャラはイラク帰りのタフな元海兵隊員という設定だが、体が細い細い。風が吹けばポキッと折れそうな感じ。

内容はベタだし評判もまちまちのようだけど、現実離れした個性的なキャラがいるわけでもなく、こういうドラマがあってもいいとは思うけどね。似た内容の番組としては「SOUTHLAND」のほうが評判いいのだろうが、個人的にはLAよりもニューヨークの番組を応援したいところです。

「SHAME -シェイム-」鑑賞


何となく田山花袋の「少女病」を連想してしまったよ。特に地下鉄のシーンとか。これ主人公がニューヨークのオサレなアパートメントに住んでいる高級取りのイケメンをスタイリッシュに撮っているから成り立っている作品であるわけで、これが埼玉の格安賃貸に住むブサメンの色情狂とメンヘラの妹という設定だったらまた違った話になってたんだろうね。個人的にはそっちも観てみたかった気がするが。

同じ監督&主演の前作「ハンガー」が密室劇に近かったのに比べ、こっちはニューヨークでの屋外ロケなども行ってずいぶん映画としてこなれてきたな、という感じ。セックス依存症という微妙なテーマを、美しい映像によって美化することも卑下こともせずきちんと描いているのは巧いな。特に鏡を効果的に使った映像が見事で、ここらへんはやはり芸術家が監督やってるのことはあるね。

そして普通の生活を装うとするものの自分の渇望を抑えきれず、奈落の底に落ちていく主人公をマイケル・ファスベンダーが文字通り体を張って熱演している。こないだの「A Dangerous Method」のときも書いたように、彼って受け身というか周囲に翻弄されるタイプの役が多いので役者としての力量がいまいち掴みにくいんだけど、ここでは心に大きな虚無を抱えた主人公にその演技がとてもよく似合ってるかな。一方のキャリー・マリガンは彼を更正させる無垢な女性の役を演じるのかと思ってたら、彼以上に精神的にヤバい人の役だったんですね。少し意外な設定でしたが悪くはない役でしたよ。

まあやはりアートな映画という印象は拭えず、例えばニューヨークの精神的に不安定なヤンエグ(死語)の話だったら「アメリカン・サイコ」、依存症の話だったら「レクイエム・フォー・ドリーム」などのほうが優れている気もするが、どうにもならなくなって苦悶に顔をゆがめるファスベンダーの演技を観るだけでも価値はあるかも。いっそこのまま二次元萌えとかに目覚めてくれればとても面白い話になったかもしれないが…。

「Into the Abyss」鑑賞


こないだ「世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶」が日本でも公開されたヴェルナー・ヘルツォークの新作ドキュメンタリー。

アメリカの死刑囚をテーマにしたもので、舞台となるのは(当然ながら)テキサス。2001年にマイケル・ペリーとジェイソン・バーケットという2人のティーンエイジャーは、ある女性の家にあった赤いカマロを盗むためにその女性を殺害する。さらに帰宅した女性の息子とその友人も殺害し、遺体を湖や森の中に廃棄するのだが、数日後に警察と銃撃戦をした末に逮捕され、ペリーは死刑を、バーケットは終身刑を言い渡される。そして2010年に死刑執行を数日後に控えたペリーにヘルツォークは面会し、さらに彼の友人や被害者の遺族、当時を知る警官などにも会って事件と死刑の重さを浮き彫りにしていく。

まだ30歳にもならず童顔のペリーは「僕はクリスチャンだから死んだら天国に行けるんだ」と語り、彼もバーケットも自分たちの罪を明確には認めていないわけだが、事件の真相を明かすというよりも当時いったい何が起きたのかが映画のなかで詳しく語られていく。1つ驚くのは加害者と被害者の周囲における不運というか恵まれない状況の数の多さで、殺された女性の娘は6年のあいだに他の親族も次々と亡くなったと語り、バーケットの父親と兄弟は別の罪で同じ刑務所に入れられ(父親の刑期は40年)、3人目の被害者(息子の友人)の兄もまた刑務所に入れられていた。単にこれがテキサスの低所得層の生きざまなのかも知れないが、もっと得体の知れない因果といか業のようなものを感じてしまったよ。

そしてペリーは死刑執行の直前に被害者の遺族へ「僕はあなたたちを許します」と述べ(ふつう逆だろ)、薬物注射される死刑台へと向かっていく。一方でバーケットは父親が刑務所から一時的に出てきて法廷で熱く彼を弁護したことが効いて死刑でなく終身刑を与えられ、40年後に来るかもしれない仮釈放の機会に思いを馳せている。さらに塀の外から彼のことを知った女性が彼と恋に落ち、彼と結婚したばかりか、手を握ることくらいしか許されてないはずなのに彼の子供を身ごもってしまう!あれ本当にバーケットの子供なんだろうか。その女性は自分が「囚人グルーピー」であることは否定するものの、言動がちょっと不思議ちゃんなんだよな。

他にはテキサスで初の女性受刑者の死刑を執行したあとに神経衰弱となって死刑反対の立場をとるようになった元職員の話などが興味深かったな。常識を逸した話もいろいろ出てくるものの、みんな目に涙を浮かべながら真剣に話しているのを見ると、作品のタイトルのごとく人間性の深淵を覗いているような気分になってくる。

ヘルツォーク自身は画面に登場しないものの、あの特徴ある訛りの声で喋ってるので存在感はありまくり。死刑に対する彼のスタンスは作品中だとあまり明確にされないものの、このインタビューによると死刑には反対しているらしい。また一般人とは異なり自分の死ぬ日時を明確に分かっている死刑囚たちと話すことによって、生きるということが再認識されることに惹かれてこの映画を作ったのだとか。

なおこの作品には、別の死刑囚たちとヘルツォークとの面談を扱ったスピンオフ的な全4話のTVシリーズがあるらしく、そちらもぜひ観てみたいところです。

「The Random Adventures of Brandon Generator」鑑賞


マイクロソフトがエドガー・ライトと組んで立ち上げたウェブ上のプロジェクト。公式サイトはこちら。当然ながら「IE9で観るのがいちばんいいよ!」なんて書かれてるんだが、うちのマックのsafariでも普通に観られました。

2週間ごとに1話がアップされていく全4話のウェブシリーズで、第1話の脚本がエドガー・ライト、アートがアメコミ・アーティストのトミー・リー・エドワーズ…って久しぶりに名前を見た気がするな。他にも音楽がデビッド・ホルムズでナレーションが「マイティ・ブーシュ」のジュリアン・バラットとスタッフがやけに豪華だったりする。

内容はいわゆるモーションコミックで、主人公のブランドンはライターズ・ブロックに苦しむ作家で、優れた作品を書いてみたいと思うものの何も思いつくことができず、「ヒューゴ」みたいな狭い部屋に住んでコーヒーをガブ飲みしながら空白のPC画面を見つめる日々を過ごしていた。そんなある日彼はPCの前で居眠りをしてしまうが、目覚めるとPCには文章が書かれ、ノートにはイラストが描かれ、音声メモには録音が残されていた。これらについて全く記憶がないブランドンだったが、果たしてこれはすべて彼の手によるものなのか、そして彼が書いた文章とは一体どんなものなのか…というようなプロット。

このあとはどうも読者参加型の形式になるらしく、読者(視聴者?)はサイトを通じて文章やイラストを投稿でき、そこから選ばれたものが次の話に組み込まれる形になるらしい。ファンとしては最初から最後までライトに話を書いて欲しいところなんですが…。個人的にはこういう読者参加型の仕組みって一貫性を欠いたものになりがちであまり好きではないのですが、今回のはどんな結果になるんだろうね。でもまあうまくいけばあなたの作品が世界に認められてライトたちと友達になれるチャンスかもしれないので、腕に自信のある人は何か投稿しているのもいいんじゃないでしょうか。