「The Final Member」鑑賞


70分ほどの短いドキュメンタリー。しかし面白かった。

舞台となるのはアイスランドの小さな漁村フーサビク。ここには世界で唯一の「ペニスの博物館」があり、元教師のシギ・フヤターソン(Hjartarson)が40年近くに渡って蒐集した、ありとあらゆる哺乳類のペニスの標本が、ハムスターからマッコウクジラまでびっしりと飾られていた(つうかみんな骨があるのね)。しかしそんなシギのコレクションにも、1つだけ欠けている標本があった。そう、ホモ・サピエンスこと人間の生殖器(以下、チンコと呼ぶ)である。自分が死ぬ前にどうにかコレクションを完成させたいと願うシギは標本のドナーの募集をかけ、同じくアイスランド人のパール・アラソンより、自分が死んだら標本を献上するとの約束をもらう。しかしそれに対抗して名乗り出たのがアメリカ人のトム・ミッチェルで、「エルモ」と名付けられたチンコ(oh…)を持つ彼は、「世界初の標本となるのはアメリカ人だ!」という考えを持ち、「エルモ」の頭に星条旗のイレズミを施し(oh…)、さらには彼が死ぬ前にエルモを切り取って(!)献上することをシギに提案する。ミッチェルの強引な態度には気乗りしないシギだったが、それでもコレクションを完成させたい意欲は強かった。果たしてコレクションは揃うのか?そして誰のものが献上されるのか?…という内容。

いちおうチンコのタブーの歴史などについても言及され、「遺体に腎臓が1つ欠けてたって誰も気にしないのに、チンコが欠けてたら笑い者にされてしまう」などと語られたりもするものの、あとは献上に関するシュールな展開がひたすら続いていく。カリフォルニアで牧場を営むミッチェルは、エルモ(いちおう「セサミ・ストリート」が出てくる前に妻によって名付けられたらしい)について瞬き1つせずに淡々と語るサイコな人で、エルモの飾られかたについても綿密なプラン(「鏡をつけて下部も見られるようにしよう」)を立てていて、しまいには「エルモを主人公にしたコミックを作ろう!」と考えてケープをまとったエルモが正義のために戦うコミックを企画したりしてるのだが、誰が読むんだよそんなの!エルモのエンバーミングにも興味を持ってイタリアの医師にも相談したりするのだが、女医さんが「これは国際的なオペレーションであり、標本が縮む前に処理をして迅速にアイスランドに届けなければなりません」などと真面目に語るのが非常にシュールであった。

一方のパール・アラソンは若い頃にアイスランドの僻地を冒険した有名人で、300人もの女性と関係した性豪であり、96歳になっても昔の女性の写真を眺めながらニタニタ笑ってるようなスケベ爺さん。しかしシギが「標本は最低でも5インチ(約13センチ)あること!」という方針を持っているため、加齢によってどんどん縮んでいく彼のチンコが、果たして5インチあるのか?という謎が話にスリル(?)を与えている。もうちょっと若い時にサイズを測るため石膏型をとろうとするものの、担当者が素人だったため見事に失敗する映像などは抱腹絶倒ものですよ。シンシア・プラスターキャスター(知ってる?)に頼めば良かったのに。

出てくる人たちは男女を含めてチンコについて真剣に語っており、それが題材とのギャップがすごくて笑いを禁じ得ないわけだが、シギ自身が病気によって体調を崩したため、どうにか生きているうちにコレクションを完成させたいと願う姿が、意外にも後半になって話にペーソスを与えている。なおミッチェルも「自分は性欲と決別したいんだ」と真面目に語るシーンがあるものの、誰もあなたの言うことは信じてませんから!エルモのコスプレ写真なんか送るなよ!

題材が題材だし、モロに見えているシーンもあるので日本ではまず公開されないだろうが、観ていて非常に楽しめるドキュメンタリーであった。みんなも5インチ以上あったら標本にして飾ってもらおうぜ!

「TYRANT」鑑賞


FXネットワークの新作シリーズ。

バサム・アルファイードは中東の国家アブディンの独裁者の次男であったが、テロなどによって乱れた母国に嫌気がさして政治の後継ぎを兄のジャマールに任せ、自分はロサンゼルスに移住して20年が経とうとしていた。医者として働きアメリカ人の妻子も持ったバサムだったが、甥の結婚式が開かれるということでアブディンに戻ってくるよう父に命じられる。家族に説得されて渋々と母国に戻ったバサムだったが、テロリストだと疑われた人物を兄が拷問するのを目にして、早々に国を去ることを決意する。しかし結婚式において父が心臓発作を起こして死亡し、さらには兄が交通事故によって重傷を負ったことから、彼はアブディンに留まることを余儀なくされてしまう…といような内容。

クリエーターのギデオン・ラフはイスラエル人で、オリジナルの「ホームランド」を作った人なのか。これも「ホームランド」のような政治サスペンスの要素もあるが、むしろ愛憎うずまく家族ドラマになるのかな?短命に終ったNBCの「KINGS」にちょっと似ているかも。

アブディンは当然ながら架空の国家で、イスラム文化を侮辱しないように気をつかったという記事も見かけたが、傲慢な男たちが女性を陵辱するシーンが何回も出てきて、それってイスラム女性の描きかたが紋切り型すぎるのではないか。なおイスラム国家を舞台にした番組といえば、ABCファミリーで企画されていた、サウジアラビアで軟禁される少女を主人公にした番組「Alice In Arabia」がリベラル側から差別的だと抗議を受けてこないだ製作中止になってまして、それに対して番組はもっとイスラム寄りの内容になるはずだったとライターが反論してたりして(実際に話のあらすじは面白そうだった)、まあここらへんの匙加減は難しいよね。

主役のバサムを演じるのはイギリス人のアダム・レイナー。アブディン国民の役の多くをアラブ系でなくイスラエルの役者が演じているようだけど、これってギデオン・ラフの事情とかがあるのかな。知ってる顔としてはボーグ・クイーンことアリス・クリーグが出ています。

主人公が国の運営を任されるようになる展開は個人的に興味があるんだけど、本国の評判は話の展開が遅くて退屈だとか、アダム・レイナーの演技が硬いとかいろいろ叩かれているようなので、おそらく長続きはしない番組でしょう。

「グランド・ブダペスト・ホテル」鑑賞


いやー素晴らしい出来ではないですか。公開中なので感想をざっくりと:

・今までのウェス・アンダーソン作品のシュールな展開がまったりと続く内容とは違って、歴史および(ファシズムが近づくことの)ペーソスが加わっており、話に深みを与えている。これって結構大きな発展であろう。

・他にもアンダーソン作品の特徴であったブリティッシュ・ロックを一切排除したり、画面のアスペクト比を変えたりと細かい試行が施されていて、実にアンダーソン的でありつつも新たなスタイルを確立している感じ。

・アンダーソン作品ではお馴染みの役者たちもたくさん出ていて、あまりにもたくさん出ているためビル・マーレイとかオーウェン・ウィルソンなんて連続出演記録をつくるためだけのカメオ出演のようになってしまっていたな。

・一方でアンダーソン作品初出演で主役を務めるレイフ・ファインズが本当に見事で、この人はコメディもきちんと演じることができるのだと実感させられた。

・そしてハーヴェイ・カイテルが久しぶりに裸になっていて、ああやはりこの男は脱ぐのが好きなのだとひと安心。

・興行的には世界中でヒットしてるらしいですが、これで初めてアンダーソン作品を観る人はどんな印象を抱くのだろう?知人に観るべきか尋ねられて、なんとも答えられなかったのであります。「おしゃれな映画」だけで済ますわけにもいかない作品だよね。

「DOMINION」鑑賞


Syfyチャンネルの新番組。なんかポール・ベタニーが主演した2010年の映画「レギオン」の続編だそうですが、なぜあんなマイナーな映画の続編を今さら?監督が売り込み頑張ったんだろうな。

舞台は映画版の25年後。神が去ったあとの世界は天使たちに襲撃されて荒廃し、生き残った人類たちは各地の都市に散らばって暮らしていた。主人公のアレックスは城塞都市となったラスベガスを護る兵士の一人だったが、ある日彼を幼いときに見捨てた父親と再会する。彼の父親こそ映画版のジープ・ハンソンであり、彼は体中につけられたイレズミの謎を解明するために世界を放浪していたのだった。その一方でラスベガスの指導者たちの間では不穏な権力争いが起き、さらにはより強力な天使を味方にした天使たちが街を襲撃する…というような内容。

おれ「レギオン」いちおう観たけど内容憶えてないがな…ジープ・ハンソンに加えて、人間たちの味方となる天使ミカエルが映画版に引き続いて登場するのだが、ポール・ベタニーが演じてないので同じ役だと気づくのに30分くらいかかったぞ。映画版は砂漠のなかのダイナーを天使たちが襲撃するという単純な内容だったけど、こちらはなぜ天使たちは飛べるのにラスベガスの空はろくに防御されてないのかとか、そもそも天使たちが人間に憑依できるのなら防御する術ってないんじゃね?などと細かいところが気になってしまうな。

なお荒廃した地球で街を護る物語、という点では同じSyfyの「Defiance」に似てるな。というかあの番組があるのに、なぜ似たような番組にゴーサインを出したのかがよく分からん。出てる役者も「バフィ」のアンソニー・ヘッド以外はよく知らない人たちばかりです。

そして劇場版ではダイナーで生まれた赤ん坊が、人類を救済する「選ばれし者」であるという設定だったけど、ネタバレをしてしまうとアレックスがその赤ん坊だそうな。おれ個人的にこの「選ばれし者」とか「古の予言で語られていた者」とかいう設定が苦手でして、予言がそんなに当たるなら主人公は別に努力する必用ないんじゃない?と思ってしまうのです。むしろ「選ばれてない者」が人類を救うような話の方が面白いだろうにねえ。

「SUPERHEROES」鑑賞


前からちょっと観たかったHBO製作のドキュメンタリー。

いわゆる『キック・アス』的な、リアルにスーパーヒーローの格好をして犯罪と戦う人たちを追ったもので、サンディエゴやブルックリン、はてはバンクーバーと北米各地で活動する、『マスター・レジェンド』や『ミスター・エクストリーム』といった人々を紹介している。おそらく世間的にいちばん有名なヒーローであるシアトルのフェニックス・ジョーンズは登場していなかった。

もちろんタイトルとは裏腹に誰もスーパーパワーなんて持ってなくて、格闘技を習ったりプロテクターを着けたりスタンガンを持ったりして夜のパトロールへと彼らは出かけていく。彼らがヒーローになった動機はおおまかに2つあって、崩壊家庭の出身で学校でもイジめられており、その反動でヒーローになったというのと、困っている人たちを見過ごすことができずに社会貢献のためヒーローになったというもの。「ウォッチメン」でも言及されていたキティ・ジェノヴィーズ事件を動機に挙げていた人もいたな。あと「子供のときにコスチュームをまとってイジメッ子を待ち伏せし、ボコボコにした」と語る人もいるんだが、それって犯罪では…。

彼らの多くは警察や司法制度をあまり信用しておらず、自らの手で犯罪を防ごうとヒーローになったらしく、そこらへんの考えがアメリカンだなあと。とはいえ完全に法の外で活動するわけにもいかないから、犯罪を目撃したら警察に通報するとか、そういう関係を保っているみたい。警察側は彼らの活動をあまり好ましく思っていないものの、大目に見ている状態らしい。劇中では警察の犯罪学者へのインタビューが行なわれ、彼らが危険に身をさらしていることや、彼らが持っている武器(スタンガンや警棒などで、銃は持っていない)などに懸念が示されている。あとはスタン・リーも出てきて、「彼はケガしたりせんじゃろか…」と心配をしていた。

「俺は格闘技を習得している」と語りつつも腹をタポタポさせてたり、パトロールの合間にビールをグビグビ飲んでるヒーローを見ると、すごく頼りない気がするものの、チームを組んでホームレスに物資を配ってたりするのは偉いよね。このドキュメンタリーもそんな彼らを基本的には好意的に描いている。ただ2012年のトレイヴォン・マーティン事件(自警団を気取ったバカが17歳の黒人少年をつけまわして射殺し、しかもなぜか無罪になった)のこととかを考えると、スーパーヒーロー活動とああいう自警団活動って紙一重の違いではないかと複雑な気分になってしまうのです。