「LONGLEGS」鑑賞

日本だと3月公開かな?昨年いろいろ怖い怖いと言われていたホラー。以下はネタバレ注意。

舞台は90年代のオレゴン。長年にわたって起きる複数の一家惨殺事件の調査にあたっていたFBI捜査官のハーカーは、「ロングレッグス」というメッセージとともに現場に残されていた暗号を解読して犯人の素性に迫ろうとする。しかし隠された真実は彼女自身にまつわるものでもあった…というあらすじ。

上司に指示されてシリアルキラーを追う、華奢な女性捜査官が主人公という点では「羊たちの沈黙」に似てなくもない。ただしあれよりもオカルト色がずっと強くて、ハーカーも何かしらの超常的な能力を持っていることが示唆されている。そして上司と捜査を進めるハーカーは、犯人が残した不気味な手がかりを発見したりするのだが、安直なジャンプスケアなどに頼らず、むしろ引きの映像を用いながら話の展開を描いているのは不穏な雰囲気を醸し出すことに成功しているかと。

ただしオカルト色が強いという一方で、キリスト教のモチーフがいろいろ出てくるのは、日本の観客にはあまりピンとこないかも。「サタン様万歳」とか言われても、じゃあサタン様はなぜやたら面倒くさい手段を用いて連続殺人を起こしたりするのか、といった説明もないので話の設定に無理がある気がするのよな。

主人公のハーカーを演じるのは「イット・フォローズ」のマイカ・モンロー。いわゆるスクリームクイーンのタイプではないものの、不気味な存在にジワジワを追い詰められるホラー映画のヒロインがすっかり板についていらしゃる。そんな彼女が追う殺人犯をニコラス・ケイジが演じていて、宣伝の意向でその姿は予告編にも出てこないけど、インパクトのある外見と演技で強い印象を残していく。

良い評判を聞いてたので過度に期待していたのか、「イット・フォローズ」に比べると怖くはなかったものの、なかなか良くできたホラーでした。

「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」鑑賞

感想をざっと:

  • 例によってディズニープラスのシリーズのほうは観てないので、サム・ウィルソンがキャプテンになった経緯はよく知らなかったりする。イザイア・ブラッドリーが登場してたことも知らんかったです。
  • キャプテン・アメリカ作品ということもあってかそこそこ政治サスペンス的な要素も加わり、ファミリー層向けになんか腑抜けた内容になっていた「アントマン」とか「マーベルズ」に比べれば良い出来になっていたと思う。
  • 今更になって「インクレディブル・ハルク」とか「エターナルズ」のストーリーを回収してくるのは誰も望んでないのではないかと言う気もするが、まあいいや。
  • 個人的にはサンダーボルト・ロスを演じるハリソン・フォードの演技が全体を支えたものになっていると感じた。あの歳になってもタフガイを演じることが多い彼が、今回はもっと弱みを抱えたタイプになっていて、いい演技を見せていたのでは。
  • でも常識的に考えて、大統領の側近にイスラエルのエージェントを配置したりはせんよなあ。
  • ここ最近のマーベルのヒーローってナノテクノロジーに支えられた、一瞬で着脱できるようなスーツを着込んでるのがあまり好きではなかったのですが、今回は(ヘルメットを除いて)ちゃんと着こなすようなスーツが出てきたのは好き。
  • アメリカのライバルを中国に設定すると、中国で公開できなくなるという配慮から日本にした、という説も見受けられるけど、どうなんでしょうね?そもそもマーベル映画って最近までは中国で公開されてなかったし、そこらへんあまり気を遣ってなさそうな。

本国での評判はあまり良くないようだけど、ここ最近のマーベル映画としては悪くない内容だったと思う。今年はこのあとも「サンダーボルツ」に「ファンタスティック・フォー」が控えているわけで、来年のアベンジャーズ映画までにまた勢いを取り戻すことができるかな?

「WILD ROBOT」鑑賞

ドリームワークス・アニメーションの新作で、日本では「野生の島のロズ」の邦題で2月より公開。以下はネタバレ注意。

舞台は未来の無人島。そこに流れ着いた貨物にあった、家事お助けロボットの「ロッザム7134」が独自に起動する。野生動物だけが跋扈する島において、自動翻訳機能を使うことで動物たちの会話は理解できるものの、自身のプログラミングに想定されていない環境に戸惑うロボットは、動物たちに追いかけられて雁の巣を壊してしまう。そこでロボットは「ロズ」と名乗り、唯一助けたヒナを育てることになるのだが…というあらすじ。

監督はあの名作「ヒックとドラゴン」の片割れクリス・サンダースで、「異生物との交流」という彼が得意とするテーマがフルに発揮されている…というか雁のヒナが空を飛ぼうと必死に訓練するシーンとか、もろに「ヒック」なので感慨深いわな。音楽も「ヒック」ほど明確なテーマ曲こそないものの、印象的な曲が効果的に使われてジワジワ来る。

序盤はロズと動物たちのドタバタ、中盤はヒナの子育て話、そして終盤は…ということでストーリーにちょっと一貫性が無いというか、主人公たちに差し迫った課題がいまいち感じられないのが難点ではある。ただこれポスターとかだと想像しにくいけど、ロズは要するに無機質なロボットでなく母親代わりであり、彼女がヒナに対しての母性に目覚めていくことが大きなテーマになっているので、それを念頭に置いて観た方が良いかもしれない。自身を犠牲にしてでも動物たちを守るおっかさんが強いのですよ。

声優はそんな優しいロズを演じるルピタ・ニョンゴがいい感じ。パートナー役のキツネにペドロ・パスカル、あとは安定のマーク・ハミルなど。

アメリカでは絶賛されてアカデミー賞にノミネートされてるし、原作小説も3部作のようなので続編制作が決定しているそうな。まあ続編はどうなるかわからないけど、これ一本で十分に楽しめる作品だった。

「A REAL PAIN」鑑賞

日本では「リアル・ペイン 心の旅」という邦題でこんど公開。ジェシー・アイゼンバーグが主演・脚本・監督した作品。

ポーランド系ユダヤ人である従兄弟のデビッドとベンジーが、自分達のルーツ探しとしてワルシャワ行きのツアーに参加し、亡くなった祖母の住んでいた家を訪問するという内容で、まあロードムービーということになるのかな。ウェス・アンダーソンの「ダージリン急行」に雰囲気は似ていた。ツアーの内容がホロコーストに関連した施設を訪れるというもの(食事付き)なので、参加者の多くはユダヤ人で真面目に敬意を払ってるのに、チャラい性格のベンジーが軽口を叩いたりして周囲に迷惑をかけるというあらすじ。

おちゃらけたベンジーがキーラン・カルキン、対して神経質で真面目なデビッドがアイゼンバーグという配役はいかにもなタイプキャストだし、ふざけたベンジーが実は心に深い問題を抱えているという展開もありがちで非常に型にはまった作品ではあるものの、主演ふたりの演技が上手いし、90分ほどの短尺なので中弛みなどせずさくっと観られるものになっていた。

デビッド同様にポーランド系ユダヤ人であるアイゼンバーグの個人的経験が濃厚に反映されたストーリーになっているものの、現地のユダヤ人の文化や迫害などについて過度に説明してくるようなくどさはなし。個人的にはコロナ禍になる前に団体ツアー旅行によく参加してたので、その描写が面白かった。劇中では若造のベンジーが周囲に迷惑かけてるけど、日本だとむしろ空気読まないオッサンの方が団体ツアーでは迷惑なんだよな。ビザの手続きとらずにインドに来るやつとか、相手によって自分の経歴をコロコロ変えて語るやつとか。まあいいや。

ツアーのガイド役でウィル・シャープが出ているほか、製作にエマ・ストーンの会社Fruit Treeが関わっている。あそこ昨年高い評価を受けた「I SAW THE TV GLOW」の製作もやってたし、エマ・ストーンはプロデューサーとしても手腕が秀逸かも。

俳優が監督を務めている点も含め、なんかいかにも往年のサーチライト・ピクチャーズ作品だね!という感じの映画でした。万人向けではないかもしれないけど俺はこういうの好き。

「The People’s Joker」鑑賞

ジョーカーをはじめとするDCコミックスのキャラクターを勝手に使用した映画…というわけでトロント映画祭でのお披露目の際にはワーナーからお叱りのメールを受けたことで上映が中止になったいわくつきの作品だが、こうして無事に配信されてるあたり、何かしら弁護士のあいだで決着が着いたのでしょう。

内容は監督のヴェラ・ドリューの自伝的な物語で、田舎のスモールヴィルで育った少年の主人公は親に連れられて「バットマン・フォーエバー」を観に行ったらバットマンよりもニコール・キッドマンに感情移入している自分に気づき、自分がトランスジェンダーであることを自覚する。そしてコメディ番組に憧れて都会のゴッサムに移るものの、そこは強権的なバットマンに支配されている世界だった。そこで主人公はコメディクラブに加わり、ラーズ・アル・グールの教えのもとジョーカー・ザ・ハーレクィンと名乗って、相棒のザ・ペンギンとともに「アンチ・コメディ」を披露していくが、そこで同じくジョーカーの格好をしたジェイソン・トッドという少年と恋仲になり…というあらすじ。

まあストーリーらしきものはあまり存在しなくて、クラウドファンディングで作られた低予算映画だけあってチープなCGキャラやグリーンスクリーンで合成された背景、段ボールで作られたような建物といった安っぽい映像が次々と登場する。性的マイノリティの主人公による自分語りの低予算映画、という点では20年前に観た「TARNATION」を連想したけど、ヴェラ・ドリューは「Comedy Bang! Bang!」や「Who Is America?」といったコメディ番組で監督・編集の経験を積んだ人だそうで、チープな映像であってもみんな「味がある」で気になっているほか、ものすごくテンポのいい編集のおかげで次から次へと展開が繰り出されて飽きさせない内容になっている。こうした番組のツテかティム・ハイデッカーにマリア・バンフォード、ボブ・オデンカークといったコメディアンたちも出演してるでよ。「サタデーナイト・ライブ」の大ボスことローン・マイケルズがCGキャラクターとして登場していろいろヒドい目に遭っているのは何か恨みでもあるんだろうか。

バットマンのキャラクターとしてはジョーカーやペンギンなどに加えてベイン、リドラー、キャットウーマンといったお馴染みのメンツが出てくるほか、クリーパーやペリー・ホワイトといった他の作品のキャラクターも登場。「ザ・サンドマン」のエンドレスへの言及もあり。ドリューのインタビューを読んでみたらかなりコミックのファンのようで、ジョーカーの描写はグラント・モリソンの作品に触発されたとか語っている。あと「ダークナイト・リターンズ」のアニメがちょっとだけ披露されるのだがフランク・ミラーの絵をそのまま動かした素晴らしい出来になっていて、あれだけ別物として作ってくれてもいいのに。

まあ明らかに万人受けするような内容ではないし、アメコミ映画を期待して観ても肩透かしをくらうだろうけど、キワモノ映画として扱うには出来が良すぎる秀作だった。