マイケル・ベイが「でっかいロボットが出てくる大作ばかり撮るのも疲れたんで、ちょっと気分転換に低予算映画を作るわ」とか希望して監督した犯罪コメディ。とはいえ予算は20億円くらいかけてるし、2時間超の長尺で最後は結局アクション映画になるあたり、彼にとっての低予算映画というのは一般の人たちの認識とはちょっとズレてるんでしょう。
1993年から95年くらいにかけてフロリダで実際に起きた事件をもとにしたストーリーで、ジムのトレーナーとして働くダニエルは、ジムの会員で裕福なビクターの資産に目をつけ、それを奪うことをジム仲間のポールとエイドリアンと画策する。何度かドジを踏んだものの彼らはビクターを誘拐することに成功し、彼を痛めつけて必用な書類にサインをさせる。そしてビクターを事故で死んだように見せかけ、自分たちは彼の自宅や銀行貯金をまんまと手にするが、実はビクターは重傷を負ったものの死んではおらず、彼に雇われた敏腕探偵がダニエルたちの周りを探るようになって…という内容。
主要な登場人物が10名くらいいるんだが、うち6名くらいが自分の経歴をモノローグで語ったりするものだからうざったくて仕方がない。こんなに多くの人物のナレーションが出てくる映画って初めてじゃないだろうか。ダニエルや仲間たちは暇さえあればバーベルを持ち上げてるような筋肉バカであり、外見だけで頭はカラッポの人間という描き方をすれば良かったのに、彼らにモノローグという内なる声を変に与えてしまったために中途半端に真面目になっていてコメディに徹しきれていないんだよな。ならばアメリカのマッチョ主義とかステロイド問題とかを風刺すればよかったのにそっちも全然描かれてないし。
主演のマーキー・マークは地で頭の悪い人なので今回のようなマッチョ役は似合っているはずなんだが、前述したように変にシリアスになってウジウジ悩んだりするのでどうも話のなかでカラ回りしている感じが否めない。むしろ相棒のハワード・マッキーのほうが「筋肉とセックス」という実に分かりやすい動機で犯罪に加担してて役回りは明快だったし、もう1人の相棒を演じるロック様は筋肉モリモリながらも自分に自身が持てない元犯罪者を絶妙に演じておられる。いつも思うんだけどこの人はコメディ演じたほうが巧いよね。あとはトニー・シャルーブやエド・ハリスといった役者が脇を固めているが、作品を救うことは出来ていないような。
前作の「トランスフォーマー3」を観たときも実感したが、マイケル・ベイって致命的に話を盛り上げる才能が欠けているというか、実話に基づいた脚本をそのまま撮っているだけという感じがするんだよな。だから話に緩急がつけられなくて、どこを削れば中身がもっと面白くなるかの判断がつけられないでやんの。話の中盤でビクターから奪った金を使い果たした主人公たちが、新たにポルノ業界の大物を狙おうとするんだけど、そこらへんの展開が前半とあまり変わらなくて「またやんの?」という感じであった。刑事ドラマを2話続けて見させられたような印象というか。あと「トランスフォーマー」でも指摘されていたように、人種差別やホモフォビアの雰囲気が微妙に漂っているのが気になったな。「犯罪者を美化しているのでは?」という批判がアメリカではあったらしいが、主人公たちは単に不快なキャラですから!
観るのが苦痛であるものの得られるものは何もないという、タイトルが半分だけ合っている映画。マイケル・ベイはもうCGを相手にドンパチを撮ってなさい。