パンクロックの興隆とともに、ラモーンズやトーキング・ヘッズ、テレビジョンにブロンディといったバンドにライブの場を与えて世に出していった、ニューヨークの伝説的なライブハウスの物語だよ。
バーの経営に二回失敗していたヒリー・クリスタルはめげずにバワリー地区のバーを買い取り、カントリーやブルーグラスのバンドを出演させることを計画する。しかし店にやってきたのは小汚い若造のミュージシャンたちばかりだった。それでも彼らを出演させることにしたヒリーは間に合わせの機材でステージやサウンドシステムを作り、数々のバンドにオリジナル曲を披露する場を与える。これが当時ファンジンの「パンク」誌を出していたレッグス・マクニールたちの目にとまり、やがてバンド目当ての客がCBGBにいろいろやってくるようになるものの、それでも店の経営は厳しくて…といようなストーリー。
おれ自身は2002年にCBGBに行ったことがあるのと、伝記本「CBGB伝説(This Ain’t No Disco)」などを読んでたのでCBGBのことはそれなりに知ってるつもりですが、そんなに経営は苦しかったっけ?確かに店は汚いままだったし、最終的には高騰する家賃が払えずに閉鎖したわけですが、むしろ順調にブランドを築きあげていったサクセス・ストーリーのようなものだと思ってたんだけどね。映画なので話に起伏を持たせる必用があるとはいえ、金がないとか店が汚いといった点を強調するのはどうなんだろう。
上記「CBGB伝説」では共同経営者だったマーヴ・ファーガソンが皆に愛される存在であったことと、彼の脳腫瘍による早すぎる死について詳しく書かれてたのでそれが話のクライマックスになるかと思いきや、劇中では最後までマーヴは健在でした。むしろクリスタルがデッド・ボーイズのマネージメントを手がける話が後半のプロットになるんだけど、「あまりうまくいかなかった」で終わっているのがどうも不満。でもまあザ・ポリスが出演してくれたからオッケー、というラストはどうにかならなかったのか。話が70年代の終わりまでしか描かれていないんだけど、そのあと80年代になってハードコアのバンドが出演するようになり、最近のサウンドにまでつながっていることも紹介すればよかったのに。
あと話のあちこちで映像がコミックのコマみたいになり、「パンク」誌のイラストとかが挿入されたりするんだけど、おかげで話の流れがブチブチ切られるのが非常に不快であった。楽曲の使い方も1分くらい流したら次の曲、といった感じでせわしなく、なんか中途半端なんだよね。いろいろ話を詰め込む必用があったのだろうが、もうちょっと工夫はできなかったものか。
ヒリー・クリスタルを演じるのがアラン・リックマンで、マーヴ役がドーナル・ローグ。あとはルパート・グリントやスタナ・カティック、ジョニー・ガレッキなどといった微妙な知名度の役者たちがいろいろ出て、当時のバンドのコスプレをしています。ルー・リードが似てなかったなあ。
なお当時の人物の描き方については、常連バンドだったザ・ネイルズのボーカルが非難する文章を書いているので一読を。これにも書かれてるように、黒人のミュージシャンがいっさい出てこないのが気になりましたね。俺は1982年のバッド・ブレインズのライブ映像がものすごく好きなのだが、いろんな人種の男女がCBGBに集まり、ライブの熟練者から素人までがハードコアやレゲエで盛り上がっている姿が大変素晴らしいわけですね。こういう高揚感がこの映画には皆無だったのが残念。本国の批評家にも「パンクを搾取してる」などと酷評された作品だが、音楽シーンを変に美化した映画ってのは今後も作られてくんでしょうね。カート・コベインを演じるのは誰だ…。