マイケル・マン久しぶりの監督作品…というか個人的に彼の作品ってあまり観てないな。以降はいちおうネタバレ注意。
イタリアのエンツォ・フェラーリの伝記映画ではあるのだが、彼の生い立ちを若い時から描くようなことはやってなくて、いきなり彼の人生の一場面から話が始まり、そこから無理やり話に付き合わされるような作りになっている。彼に愛人がいることや、最初の息子がどうなったのかなどは明確に説明されないので、話を追って出てくる会話からいろいろ情報を組み立てていく必要があるのはちょっとしんどいかも。
いちおう彼が自動車会社の社長で資金繰りに苦しんでおり、自社の車をアピールするためにレースで勝たないといけないプレッシャーをエンツォが抱えていることは分かる。それがじゃあもっと優秀な車を開発しようね、とかレーサーを鍛えようね、といった「プロジェクトX」的な流れにならず、エンツォは周囲にイラついているだけだし奥さんに資金を無心するなど、なんか爽快感のない陰気な展開が続くのよな。
話の題材的には傑作「フォードvsフェラーリ」の相手側の物語というか前日譚にあたるのだろうけど、アダム・ドライバーがイタリアの名門のトップを演じていることもあり「ハウス・オブ・グッチ」に雰囲気はずっと似ている。夫にキツくあたるペネロペ・クルスがレディー・ガガの役回りで、よってレース映画というよりも金持ちが主役のメロドラマになっていたな。なお一番良い演技をしてるのはドライバーよりもクルスのほう。
もちろんレースのシーンもあって、それなりに迫力はあるものの、フェラーリの車とライバル車の車がどっちも赤色なので区別がつきにくいのよ。これはまあ史実に基づいてるから仕方ないのだろうが。そして海外では酷評されたクラッシュのシーン、物理的には正しい描写なのかもしれないけど演出的な「溜め」がないので唐突すぎやしないか。なんかマンガみたいな光景になってましたがこれは自分の目で確かめてみてください。
フェラーリの熱烈なファンであるマイケル・マンが30年ちかく企画を温めていたらしいけど、温めすぎて気が抜けたような。特に「フォードvsフェラーリ」が世に出たあとではちょっとしんどい。「ヒート」では本物の銃撃音にこだわってた監督だけあって、エンジン音は迫力ありました。