Dimitri Kirsanoff – Menilmontant (1925)
ロジャー・イバートが「ポーリン・ケイルが最も好きだった映画」として紹介していた、フランスの1925年のサイレント映画。40分弱の作品なのでメシを食いながら気楽に観ようとしたら、その出来の素晴らしさに仰天させられてしまったよ。
いきなり農村で少女姉妹の両親が惨殺されるシーンから始まってインパクトは抜群なんだけど、実はそのシーンは話とあまり関係がなくて、身寄りをなくした2人の姉妹がパリのメニルモンタンにやってきてけなげに暮らすところからが本編。美人の妹はある男性とねんごろな仲になってついに体を許してしまうが、それを妬んだ姉によって男性を寝取られてしまう。それを知ってショックを受ける妹だったが、彼女はすでに男性の子供を身ごもっていた。姉のところに戻るわけにもいかず、生まれた赤子を抱えて妹は通りをさまようことに…というような話。
ストーリー自体は凡庸なメロドラマのように聞こえるかもしれないが、演出と編集がとにかく素晴らしいのですよ。サイレントであるうえに字幕を一切使わず、二重露光などといった当時としては斬新なテクニックを用いてまったくの無駄なくストーリーを伝えることに成功している。たぶんセリフが無いためにかえって多くのことを短い時間で表現できたんだろうな。変に会話シーンとかがあれば2時間ドラマみたいになっていただろう。でもちょっと実験色が強すぎたのかラストの展開は意味不明なところもありましたが。
そしてナイーブな妹を演じるナディア・シビルスカヤ(監督のディミトリ・キルサノフの妻だったらしい)が美しいこと!恋人が来るのを待ちわびる姿とか、老人にパンを恵んでもらって大粒の涙をこぼしながら食べるシーンとかは本当にもの哀しくて胸を打つ。
こういうのを観ると、現代の映画製作者がサイレント映画から学ぶべきことはまだまだ多いと思わされますね。上の映像のリンクから全編が視聴可能なので、40分の時間がある方はぜひご鑑賞を。