ケヴィン・スミスが珍しく真面目に撮ったホラー映画。彼がコメディ以外の作品を撮ったのって初めてじゃないかしらん。ホラーというほど怖くはないし、サスペンス映画というわけでもない中途半端な内容だけどね。以降はネタバレ注意。
アメリカ中部の田舎町に住むジャレッドたち3人の高校生は、近所に住む女性がセックスの相手を募集しているというネット上の広告を見つけ、喜びいさんで彼女の所へと向かう。しかし出されたビールを飲んで気絶してしまった彼らは、半裸になって拘束された格好で目覚めることに。実は彼らはウルトラ保守のキリスト教団体「ファイブ・ポインツ・チャーチ(以下FPC」によって誘拐され、性の乱れを象徴する者として処刑されようとしていたのだ。どうにか処刑を免れようとするジャレッドたち。そしてその騒ぎを町の保安官がたまたま耳にしたことからFPCの所行が明らかになり、教会に機動隊が派遣されるのだが…というようなストーリー。FPCのモデルは明らかにウエストボロ・バプティスト教会で、銃撃戦になる展開はブランチ・ダビディアンの事件をベースにしたものだな。
まず驚くのがその説明的なセリフの多さ。学校の先生がFCPの非道っぷりを語るシーンから始まり、FCPの教祖が彼の信条を延々と語り、政府のエージェントが上司にFCPの捜査状況を説明し、FCPの教会のある建物がどれだけ武装されているかが機動隊に解説され、最後に物事の顛末をエージェントが上司に報告するといったクドい展開が続く。ケヴィン・スミスが演出家というよりも脚本家タイプだってのは十分承知しているのですが、もっとセリフを削っても良かっただろうに。
そしてこのクドさを解消できるような演出が出来ているのかというとそうでもなくて、逃げた少年が追いかけられるシーンとか銃撃戦のシーンとかは、前にもいろんな映画で見てきたような感じの出来。もう10本近く映画を撮っている監督なんだからもうちょっと巧みな演出や撮影を期待してたんだけどね。話の展開がグデグデになるところと銃撃戦が膠着状態になるところが妙にシンクロしてたのはいい雰囲気を出してましたが。
その一方で出ている役者たちのレベルは非常に高く、教祖を演じるマイケル・パークスが真に迫った演技を見せつけてくれるほか、メリッサ・レオやジョン・グッドマン、スティーブン・ルートにケヴィン・ポラックなどといった俺好みの濃い役者たちがいろいろ出てきていい演技を見せつけてくれる。あの説明調のセリフを自然な感じで語るには相当の演技力が必要ではないかと。メリッサ・レオはアカデミー賞を穫っても変に気取った映画に出ず、ホワイトトラッシュのオバサンを演じるところがいいですね。
どこかの新人監督が撮った映画として観れば別に悪くはないんだろうけど、ケヴィン・スミスの映画だという前知識を持って観てしまうと全体的に物足りなさを感じてしまうな。俺は彼の書いたコミック(デアデビルとかグリーン・アロー)が好きなので、コメディだけでなく真面目な映画もきちんと撮れるかと思ってたのですが、これを観る限り必ずしもそうではないようで。ちなみにあと2本映画を撮って監督業は引退すると発言してるらしいけど、本当なのかな。